「【推しの子】(TVアニメ動画)」

総合得点
84.8
感想・評価
727
棚に入れた
2132
ランキング
272
★★★★☆ 4.0 (727)
物語
3.9
作画
4.1
声優
3.9
音楽
4.1
キャラ
3.9

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ネタバレ

アジオフライ さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.2
物語 : 1.0 作画 : 3.5 声優 : 2.5 音楽 : 2.5 キャラ : 1.5 状態:観終わった

完璧で究極の企画倒れ

芸能界の裏側にフォーカスしたアイドルもので,異世界転生作品の要素を拾いつつ,サスペンスという縦軸を展開するという企画は面白いと思いました.…が,面白かったのは企画だけで,実際の内容はアイドル物語としても復讐物語としても中途半端だったように思います.『かぐや様~』もそんな感じでしたね.

・アイドル
{netabare} この作品が他のアイドルものと一線を画している点は,「芸能界の裏側」「アイドル活動の裏側」にフォーカスを当てた作劇を志したことでしょう.アイドルアニメでは,登場人物の日常生活を切り取る作風が一般的ですが,その生活はあくまでも”表側”のうちの一つに過ぎませんでした.他方この作品は,舞台裏を赤裸々に語るという,アイドルアニメでは非常に挑戦的な試みを「嘘」というテーマで正当化しました.人々が最も見たがる「嘘」を,偶像たるアイドルと照らし合わせて描く行為は,非常に面白そうに聞こえます.
 ただ,残念ながらこの作品は,アイドルものとして突出した面白さを表現するには至りませんでした.まず「芸能界の裏側」の情報の解像度が低いです.「キャスティングには事務所の力関係が作用する」とか「警察には記者クラブがいる」とか,調べれば得られる程度の情報しかありません.しかもこうした情報を,この作品は一事が万事セリフでベラベラと喋らせます.映像作品なら映像で語れ!それにそもそもの話,こういう裏側の情報は実在する芸能人相手だから価値があるのであって,架空の人物の架空の事情を見せられたところで惹かれません.「芸能界の裏側」を描く試みは,アイドルアニメとしては興味深い一方で,いち視聴者としてはあまり興味をそそられないテーマなのだと気づかされました.{/netabare}

・復讐劇
{netabare} 一応そういう視聴者のために,この作品は「伝説的アイドル・星野アイの死の真相」という謎を扱ったサスペンス展開を,縦軸としてストーリーに盛り込んでいます.制作陣が本当に扱いたいのは「芸能界の裏側」でしょうが,それに惹かれない視聴者もできるだけ取り込もうというスタンスを,企画によって達成しようとする姿勢自体は素晴らしいと思います.いつの時代も,人の死を扱ったサスペンスやミステリーは受け手の興味をそそりますからね.
 しかしこのサスペンス要素にも,残念ながら欠陥が多く存在しました.まずそもそもの話,原作ですら完結していない黒幕探しを,1クールアニメで取り扱おうというのが無理な話でした.中途半端なところで終わるのが明白どころか,実際には11話でほとんど成果を挙げられなかったという状況に終わりました.また,アイの「伝説」は作中の人々にしか分からないものであるため,傍から見れば作中の彼女は,うがった見方をすれば「未成年で出産した挙句,危機意識の低さでストーカーに〇された」だけであり,その死の真相に迫る展開に求心力を感じませんでした.実行犯がすでに判明していることや,黒幕である実父を探して得られるメリットが特にないことも,このマイナス点に拍車をかけている要因だと思います.
 以上,この作品は当初より,端からサスペンスとしての成立が見込めない以上「芸能界の裏側」の描写で人々を惹きつけなければならない状態でした.しかし肝心の裏側描写が上記のあり様であり,この作品は建前のテーマも本音のテーマも共倒れになってしまった,いわば完璧で究極な企画倒れになった,というのが個人的な感想です.{/netabare}

・恋愛リアリティショー
{netabare} 6-7話は,恋愛リアリティショーでのアクシデントによって炎上した出演者の女子高生が,自殺未遂を起こすほどに心を病むまでを描いたサブエピソードとなっています.日本でも類似した事件が起こっており,その遺族が反発したことでひと騒動を起こした一連の内容ですが,私としては「実在事件の被害者に配慮して,演出を差し控えるべきか」という大枠の論争を繰り広げる以前に,ただひたすらに出来が悪いとしか言いようがないと感じました.まず,一連のエピソードは本筋に関係ないサブエピソードであり,視聴者側を悪者にしかねないストレスフルな展開にも拘わらず,たった2話足らずで処理されてしまっています.また,”社会の声”をひたすらSNSに代弁させる表現も,制作陣の視野の狭さを物語っているように思いました.そしてこの事件を契機として,件の女子高生が主人公と,ビジネスとはいえ恋仲になるという展開は,正直言って不快に映りました.
 現代には表現規制を訴える声が多種多様あり,その中には表現者が屈するべきではないものも少なからずあることと存じます.ですがこの作品の場合は,自殺者も出ているセンセーショナルかつ特殊性の高い事件をモデルにしている以上,実在事件に無配慮なスタンスは表現者としてあまりに無責任だと思います.恋愛リアリティショー編の構想が,かの事件よりも早い段階でなされていたという反論もあるようですが,個人的には,実在事件を知った上でこの展開にGOサインを出した作り手側の浅慮に辟易します.「フィクションなら何をしても良い」という考えは,行き過ぎた表現規制と同じくらい危険なものだと私は考えます.{/netabare}

投稿 : 2023/07/01
閲覧 : 76
サンキュー:

6

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