レトスぺマン さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
評論をしたくない作品ってのは本作のことをいうのかもしれない
長文のためネタバレで隠します。
{netabare}
岡村天斎監督といえば「DARKER THAN BLACK」「メダロット」「七つの大罪」のような娯楽性重視かつテンポが良く、時折コメディを交えながらキャラクターに厚みを持たせていくような作品を手掛けている印象がある。
もちろん上記の作品も素晴らしいし、私自身も結構楽しめた記憶があるが、本作「WOLF'S RAIN」のような「重厚・退廃的・芸術性」の硬派3拍子が揃うような作品も担当されていることを知ったときにはとても驚いたわけだ。
そして半ば半信半疑で視聴してはみたが、全体的なクオリティにしても作品の中身にしてもとても心に響くもので、正直なところいえば、どう言葉にして感想を言えばいいのかわからなくなるぐらいのものであった。
一つ言えるのは「狼が【楽園】を目指す」というテーマが全編に渡って描かれたことにより、「作中における狼が何を考えているのか」といったことを自分なりに受け取ることができたのが大きかったのだと思う。
それは、世界が終末を迎える直前であるが故の荒廃した世界観や、全体的な画面の薄暗さ、人間側のバックグラウンドがあまり明示されないことから、狼にフォーカスするような構成になっていたことも大きかった。
そして狼の過去、楽園に向かう途中で遭遇する苦難の連続、前にも後にも横からも狼たちが走るシーンが緻密な作画で描かれ、それを見ることで、我々人間が考える一般的な考えよりももう少し高次元の何かを想像したりできることが、この作品の面白味の一つなのだろうと思える。
一般的に「重厚・退廃的・芸術性」の3拍子揃った作品というのは作中で様々な要素が折り重なるものが多く、ある一つの狭い物事から広がりを持たせていくようなものが多いのではないかと考える。
それは、製作者の意図であったり、謎の解き明かしていくような面白さがあって、最後にはとてつもない広い世界観を視聴者自身で体感できるというものだ。
ところが、本作品においては終末期の世界で狼たちが楽園を求めて旅をすることだけあって、ここだけ見ると幅の広い物語が展開されるようにも思えるが、先述の通り狼にフォーカスするような構成になることから、登場キャラクターの心情に深く寄り添うこと。
つまり広い物事から限りなく狭くミニマルな物事への遷移があり、その対比によって孤独や喪失、といった悲劇が波のように押し寄せることで、繊細なドラマが引き出されていると感じる。
改めてすごいのは、視聴者を作品の虜にするにはいろいろな角度から勝負を仕掛けていく必要があるが、本作については先述の通り「登場キャラクターの心情に深く寄り添う」ことだけで牽引していくようなダイナミックさと力強さがあるわけだ。
これは世界観自体が雰囲気や飾りにしかなっていないともいえそうだが、その一点だけで魅力的なものに仕上がっている作品はなかなかないし、その良さを引き出すための作画や音楽も大変素晴らしいものがあったと思う。
そして、物語の結末としては狼たちが現代へ輪廻転生をし、再度楽園を求めて走るシーンで終わるが、この現代の描かれ方も特徴的で、作中で示される終末世界と同様、薄暗く無機質なものである。
これを見ると、30話かけて苦悩の末に得られたものがたったこれだけか、という「徒労感」にも襲われた。
しかし、輪廻転生した先の現代を【楽園】と考えれば、絶対的な幸せを得られる楽園は存在せず、少しばかり汚れた世界で生ける者は生きていくしか成す術がない、というメッセージにも捉えることができる。
こういった哲学的なオチによって30話分の過程にも逆算的に思いを馳せる結果にも繋がり、それまでで気になった話を見返してみたくなるような感情にもさせられたところは、作り自体も秀逸だと思えた部分でもある。
本作の特徴としては、世界観に対する具体的な説明がなく、全体的に「説明不足」と言われてしまうのも無理はないと思える。
しかし、本作においては、ストーリーや世界観を合えて見ず、「このシーンでは何を思っているのだろうか」「自分がこのキャラクターだったとしたらどれだけつらいだろうか」のようにキャラクターと自分を一体化させることで、初めて良さが見えてくる作品なのだと思う。
逆を言えば、色々アンテナを張り巡らすことなく、その一点に集中するだけでよいということだ。
確かに評論者としては、作品を構成する要素を洗い出ししながら峻厳に見てしまいがちではあるが、本作品に関してはそれは一切不要なのだと思えた。もうここまでくるとこれ以上余計な評論はしたくないのが本音である。
{/netabare}