レトスぺマン さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.5
作画 : 3.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
これは「映画」だよね。
長文のため本文はネタバレで隠します。
{netabare}
WOWOWアニメといえば、後の深夜アニメの隆盛に繋がっていくであろう番組群であったが、名作や隠れた良作と呼べるような作品も多く、題名を見るだけでも懐かしさがこみあげてくる。
本作「星界の紋章」もこの番組群の中で放送された、森岡浩之氏による有名小説原作のサンライズ制作アニメではあるが、初回視聴時は度肝を抜かれるほどの凄みがあったことは印象に残っている。
それは、「サンライズ=ロボットアニメ」という自分の中で勝手に構築されていた概念が上手い具合に崩されたことだ。
壮大なオーケストラのオープニングやBGM、緻密に練り込まれた世界観、アーヴ語、魅力的な登場人物。
このような「映画的」なテレビアニメはなかなか珍しいだろうし、スペースオペラのジャンルが以前と比べて衰退傾向となっている現在からみると、今後こういった作品が制作される機会は少ないだろうと思われる。
そういった意味でも、本作はスペースオペラアニメとしての記念碑的な立ち位置であることに違いはないし、何より本作品の熱狂的なファンの数がそれを証明しているわけだ。
本作がなぜ読者視聴者をそこまで惹きつけるのか…おそらくそれは、有名小説である原作をうまく調理した結果とも言えるが、「物語のわかりやすさ」と「世界観の複雑さ」のバランスがとても良いことだろう。
まず、本作にはアーヴ語という独自の言語があり、物語序盤における戦闘シーンや世界観の説明も全てこの言語で発信されるため、初見時は全く訳がわからないし、人によっては戸惑ってしまうかもしれない。
しかし、物語が進んでいくことに侵略国家アーヴの皇女であるラフィールと、悲しい経緯からアーヴの貴族になってしまった主人公ジントの出会いからの純愛的ストーリーとなっていくわけだが、その王道さとそこから滲みでる登場人物への好感が、複雑な設定を上手にカバーしているのだと思える。
その王道さはラフィールとジントの関係性からも伺い知ることができる。
それは、関係を深めるために重要な要素、例えば「お互いの足りない部分を補いあっていく関係」や「皇族や貴族であることの孤独がある」という事が挙げられるだろう。
しかしそれ以上に、ラフィールの「気高さ」「純真さ」や、ジントの「真面目さ」が強調されているところが大きいのではないだろうか。
例えば、物語の主人公といえば熱血漢や少しズレた性格の人間が好まれる傾向があるが、本作に至っては、最初から最後まで「気高さ」や「真面目」というところでズレがなく一貫しており、時折挟まれるコミカルな掛け合いも含めて、素直に2人を応援したい気持ちにさせられたところだ。
そして、他の男女のキャラクターを見てもその多くのキャラクターのベースとしては主役2人の性格から派生しているようにも感じられることも大きかったと思う。
そんな中で、巡察艦ゴースロスの爆散や、フェブダーシュ男爵との戦闘は本作における大きな2つの悲劇ではあるが、それもドラマを生み出すことに一役買っており、設定の複雑さをある程度無視しても楽しめるようになっていたことは本作が親切な物語構成であると感じた部分である。
もう一つの惹きつけられる理由としては、話は戻るが、本作が「映画的な手法」で作られているアニメであるからではないかと考える。
「映画的な手法」というと、とても抽象的な表現になってしまったが、そもそも「良い映画」とはどんなものなのか?と考えていくと答えが自ずとわかってくる。
それは、【何回も繰り返して観たくなるもの】と言ってしまえば簡単だが、そこには
・インパクトのある壮大な音楽
・主役の目的がはっきりしていること
・短い時間枠で収めるための伏線回収劇
・観客が色々な視点で楽しめるよう、様々な視点から物語を楽しめる工夫がなされていること
など、様々な要素が挙げられる。
本作はこれに倣って制作されているような気もしていて、特に「様々な視点から物語を楽しめる工夫がなされていること」に関しては、アニメ作品ならではの昇華がされていたと思う。
それは、純愛的ストーリー・SF・戦闘・世界観の複雑さという、どこから入るにしても、興味を惹きやすいことにあるが、作中における風景や、小物に至るまで制作側のこだわりが見えた部分でもある。
例えば、フェブダーシュ男爵との食事シーンでは盃にお酒を注いで飲むシーンがあり、そこに出てくる料理も日本式の魚料理や豆料理といったところで、宇宙を舞台とするSF作品の中でこういった描写があるのは面白いと思えたし、惑星クラスビュールの街は欧米感が漂うものになり、その場所ごとで全く違う空気が流れていることの表現をアニメでもできてしまうことには素直に驚かされた。
また、特に主役2人に関しての部分にはなるが、セリフの最中に「空にさんざめく星の動き」「ゴミ箱にものが捨てられる」「グラスから水が零れる」
といった描写を入れることで、高揚感や不安感を示しているところもうまいと思えた演出で、より物語にのめり込めるきっかけが随所に現れていた部分は、本作品の素晴らしいところであると思う。
有名小説原作のアニメ化、そしてWOWOW有料枠での放送ということだけあって、制作側からの力もかなり入っており、スペースオペラやSFが好きな方で未視聴ということであれば是非視聴していただきたい作品である。
ただし、アーヴ語や専門用語など、複雑な設定に視点を移してしまうと初見ではわかりにくい部分も多々あるため、その際は是非、登場人物の人間関係や感情に注目してみてほしい。
そうなれば、本作品が「全13話のアニメ」という枠に収まらず「約6時間の映画」と捉えられることに気づくでしょう。
また、本作の続編として「星界の戦旗」もあり、こちらはアクション中心の迫力あるシーンも多めなのでおススメだ。
{/netabare}