レトスぺマン さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「真面目な子供」な頃に帰れるアニメ
長文なので本文はネタバレで隠します。
{netabare}
本作品は朝アニメの監督として著名な佐藤順一氏の監督作品である。
佐藤順一氏といえば「美少女戦士セーラームーン」「おジャ魔女どれみ」などの少女向けアニメをイメージするが、
90年代〜00年代にかけては少女年齢層より高めのティーン層向け作品を数多く作っていたことでも知られる。
本作「プリンセスチュチュ」はそのどちらの良さも取り入られているようにも思え、
90〜00年代前半に至る佐藤順一氏の集大成的作品といえばマイナーながらも本作を指すこともあるようだ。
この話は、おとぎ話に出てくるような街(金冠町)を舞台に、おちこぼれの「あひる」があこがれの先輩である「みゅうと」に人の心を持たせてあげられるよう、プリンセスチュチュに変身し、助けていく物語であると同時に、
「あひる」にプリンセスチュチュに変身する力を授けた「ドロッセルマイヤー」という謎の老人との対決も描くわかりやすいストーリーだ。
それでいて、それまでのアニメではなかった「バレエ」「クラシック音楽」をテーマに添えて話が展開されている。
そしてその「バレエ」の演目内容や「クラシック音楽」が持つ背景、
つまりそういったものがどのようにして作られたのかという意味合いまで掬い取った上で、
キャラクターのセリフやストーリーに反映されているのである。
また、ストーリー自体にもドラマ性があり、ここは監督らしく上記のようなおとぎ話のストーリーを意識したものとなっている。
というわけで、ここからはストーリーの内容からは外れた別観点での評価をしてみたい。
まず、本作の視聴対象者層(あるいは年齢層)は具体的に明示されているわけではないのだが、結構わかりづらい。
佐藤順一氏の監督作品は朝アニメが多く、10歳前後の年齢層に向けて描かれた作品が多いだろう。
それでも本作は、少女漫画の要素もあれば先述の通りそれより上のティーン層に向けているようにも見える要素もあるから一概に「対象者層はこれです」と決定づけられないところでもある。
そして極めつけは、本作が「バレエ」や「クラシック音楽」を深い域にまで題材として扱っていることだ。
もちろん「バレエ」や「クラシック音楽」を深く勉強したことのある人であればとっつきやすいというのはあるかもしれないが、「深く勉強できる環境を持てる人」の割合は日本ではとっても少ない。
言い換えれば取っつきづらいとてもマニアックな事柄を、アニメという媒体に落とし込んでいる時点で挑戦的な作風ともいえるが、
そういった作品は限られたチャンネルでしか放映されず、多くの支持を集められない傾向が強いのだ。
例に漏れず、本作も放映された2002年当時、放送されたチャンネルも少なく好評価ではあったものの、
それは限られた範疇の中での評価といった感じであったようだ。
しかし、2017年にブルーレイが発売され、さらには2020年にTwitterで本作の評価が鰻登りとなり、現在ではようやくマイナーアニメの域を脱却しつつある傾向がある。
それでいて、それらを見ていると若いティーン層からの評価もあったが、20代以上(特に女性)の層からの高評価の方が多い印象であった。
また、物語への感動もそうなのだが、一部「真面目で綺麗な子供に戻れそうだ」といった意見もあったのである。
その「真面目で綺麗な子供」というちょっとおかしな表現と「視聴対象者層」の関連性を紐解くとなかなか面白いのではないかと思い、色々自分なりに考えてみたのだが、こういうことなのではないかと思う事案が見つかった。
一つ目として、確かに「バレエ」や「クラシック音楽」というものは格式が高いもので、深く勉強するには先述の通り環境の整備がないと難しい。
しかし、「浅く勉強する」レベルであれば、例えば親や友達からの薦めで一時期「バレエ」や「ピアノ」を習ったという人は多いだろう。
そんな記憶を自分の中の導き出そうとするときに、例えばカルチャースクールにを通うとか、楽典を勉強しなおすといったやり方でもいいのだが、
取っつきやすくするためには子供のころに慣れ親しんだアニメという媒体を通じて得る情報のほうが感情を揺さぶる意味で強力だ。
先ほど、私は20代以上の層からの人気が高いと書いたが、加えて楽器の演奏経験者が多かったのも印象的だったのである。
ここでわかることは、過去にそういった習い事をしていた経験者に向けられている可能性があるということだ。
二つ目として「バレエ」や「クラシック音楽」を「浅く勉強する」ことに関してだが、それらの習い事をやっていなくとも、そこに接点を持つ機会は誰にでも平等にあるということだ。
例えば子供の頃、【社会科見学や課題学習と称して、美術館へ足を運ぶだとか演劇を鑑賞した経験】はなかっただろうか?
【演劇を見た感想を書いて先生に提出したり、生徒間で感想を話し合ったりした経験】もないだろうか?
ここでの意味合いとはそういうことである。
そして子供ながらにそういった「一流の芸術」に触れることによってどのような感想を抱いたのかという答えが、本作を視聴することで再提示されるのである。
もちろんそれはおとぎ話のようなストーリーとクラシック音楽をうまくミックスさせることによって演出が際立つが、
作中のセリフにおいてもヘンテコリンな彫刻を見て「私はこの作品が好き」「えーそうはおもわないなぁ」というものがあり、こういった描写はまさに【子供時代の追体験】そのものである。
もちろん子供時代の追体験ができるアニメは数多く存在する。
しかし、そのようなアニメは自分が子供のころに【遊んだ】経験が呼び起こされるものがほとんどだ。
本作「プリンセスチュチュ」が違うのは、遊んだ経験ではなく子供の頃に【学んだ】経験が呼び起こされるからなのではないか?
そうすれば「真面目で綺麗な子供」という感想と一致するわけだ。
また、本作は海外における「価値のあるアニメ」リストで上がることがそれなりにあるのだが、このリストに出てくるアニメは視聴者の経験として血肉になるような作品が多いのである。
本作がリストアップされるのは上記のような理由があるからなのではないかとも感じる。
まとめると、本作の視聴対象者層とは「大人」である可能性が高く、その中でも【子供のころに新鮮かつ楽しく感じた学びの経験】を追体験したい人向けといえる。
「バレエ」「クラシック音楽」経験者はなおさらだ。
もちろん子供でも楽しめるストーリーではあるが、大人になってからの方がより深く楽しめるだろう。
{/netabare}