nyaro さんの感想・評価
3.5
物語 : 2.0
作画 : 4.5
声優 : 3.0
音楽 : 4.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
無駄な難解さが攻殻芸でいいのか?テーマ理解の爽快感がない。
レビューを書こうと思い、数話みて内容を確認したら驚くべきことに個別の11人の屋上のシーンが12話と2クールの真ん中でした。最後の方だと思ってたのに。で、後半を見たんですけど、ほとんど記憶にありませんでした。
タチコマの個性の議論とか最終回のシーン、少佐のベットのシーンとかそういうのは覚えていたので、見たことは見たと思いますが、結論から言って後半はつまらないです。サブストーリーとかタチコマで話の内容がないとはいいませんが。肝心の本筋が面白くないです。面白くない理由はテーマ性が薄い気がするからです。
ですので忘れていたのでしょう。屋上のシーン以降はかなりどうでも良くなっていたのでしょう。
それと、話の中心である合田の思想ですが、9話の長セリフで説明しています。アニメのクリエータの力量としてはどうなのよ?と思ってしまいます。
前半、国粋主義的な思想と幻の書を絡めた、合田の陰謀は結構面白かったと思います。いかにも日本の右翼みたいなマークの意匠もいいし、雰囲気も作れていました。男くさいですし。
それと対比するような女性首相のキャラ付けも良かったです。
しかし、後半話が何となく難民排斥とアメリカの陰謀=合田の思想のように感じてしまい、それは攻殻機動隊のテーマなの?と思ってしまいます。というのは攻殻機動隊に望むのはサイバーパンクであり、政治的な思想ではありません。
そう。話の展開の中心が難民排斥とアメリカの軍事介入という部分が上手く機能しなかった気がします。「個別の11人」の屋上での結末はつまり三島由紀夫です。反アメリカ、安保反対とセットになった国粋主義であれば、右翼的な「個別の11人」としっくりきますが、難民排斥はイジメです。逆に弱いものいじめによる反発=革命を促しているなら、難民側に立っていることになります。
加えて、ウイルスのせいで自殺が必然なら、三島役…あるいは三島になれなかった久世の行動が良く分かりません。なにか対抗できる理由ありましたっけ?
ウイルスの性質的に自殺が必然であれば、合田の英雄をつくるという思想ってやっぱり三島的な伝説を作るという意味だと思いますが、その三島的な思想の先にある操っている合田が何がしたいのかが、個人的な事情なのでよく分かりません。
結局は、雰囲気と設定止まりで作品で心に残るようなテーマ性に結びついていません。
そして、9話のデカトンケール内で長々と語られる合田の思想ですが…彼の語っていることです。7、8分近いでしょうか。これをセリフでいうのはどうなのかと…
内容ですが、放射能除去技術で一躍復活した日本ですが、その復活の中で言語能力に特化した合田は思うように特権階級に入れません。それを理不尽に感じています。
合田が考える問題点は、情報が変質する…個性が並列化してしまうことが欠陥で、ゴーストは身体の変化に応じて変わってしまうと言います。つまりそれが消費という行為で簡単に個性を並列化してしまうと嘆きます。
自分の功績が評価されないのは、システム自身が望む人格がある。自分がカリスマになれないのは身体のせいだ、と。しかし、事故に会うことで身体が変化することで国家を変貌させるという使命を得たといいます。英雄になりたいのでなく、プロデュースすることだと言います。
これわかりますか?長セリフで分かりづらく、私は正直理解を半分放棄しました。何となく、消費社会=供給側の大衆の欲望のコントロール、欲望の統一化=人格の並列という感じは分かります。また、行動する人間に対する憧れや劣等感なども感じられます。
要するに合田にとって、社会を望む通りにコントロールできる=消費をコントロールできる=特権と捉えているような感じがしました。それを自分が作った英雄にやらせる…???
それは私の能力不足で内容や理論展開は理解できないのかもしれませんが、この問題テーマに据えた場合、何が見えてくるか?ですね。
もともと誇大妄想的な特権意識を持った合田が事故で気が狂って、言葉=情報の変容によって大衆をマインドコントロールをすることで、日本を自分の思っているようにデザインをする。
タチコマたちの個性と、消費による並列化を描くことで、言葉、情報に騙されることが一番怖いんだぞというネット社会のことでしょうか。
SNS=意識の並列化、消費者=GAFAというネット社会のアナロジー批判プラスAIの個性という問題ならもっと描き方はあったでしょう。むしろこれがテーマなら個別の11人はいりませんし、久世が生き残る理由もありません。
うーん。何か爽快感がありません。サイバーパンクが真骨頂であってほしかった。展開は難解でも読み取れるものに分かりやすさが欲しかった。しかし、合田や久世などのやっていること…タチコマを加えてもいいですが、攻殻機動隊的な集合的無意識とか得体のしれないネットワーク社会の不気味さみたいなものが見えて来るでしょうか?
そもそもこの9話。セリフでそれだけしゃべらせないと物語が成立しないなら、その時点でアニメとしてはアウトでしょう。私は今回見返して、あの9話で理解を放棄しました。どこかで読み解いた人がいれば、後で参考にするかもしれませんが、それってアニメとしてはどうよ?と思います。テーマの秀逸性と難解さは別物だし、言いたい事はストーリーに織り込むものでしょう?
結局のところ、サブエピソード以外の本筋の話では9課の活躍も言葉だけのシーンが多いし、タチコマたちの議論も取って付けた感がありました。いや、むしろタチコマの個性問題に集中すれば、その方が個性と並列化、情報の変容やゴーストの問題は分かりやすく描けたのではないでしょうか。
前半はアニメ作品として面白いと思います。しかし、テーマ的には9話のせいで煙に巻かれている感じです。後半はサブエピソード以外の本筋がはっきりつまらないです。ですので記憶から消えていたのでしょう。
攻殻機動隊的なサイバーパンク的なテーマ性が消えたせいで、難解さが不必要な攻殻芸に見えてしまい、不快に感じてしまいました。
OPは素晴らしかったです。OPの戦闘シーンで2話くらいあったらもっと良かったのに…
ということで、ちょっとがっかりの内容でした。