「【推しの子】(TVアニメ動画)」

総合得点
85.0
感想・評価
730
棚に入れた
2140
ランキング
258
★★★★☆ 4.0 (730)
物語
3.9
作画
4.1
声優
3.9
音楽
4.1
キャラ
3.9

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ネタバレ

ビックカメラ厳選 さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.7
物語 : 2.0 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 2.0 キャラ : 2.0 状態:途中で断念した

もしあなたの右の目が罪を犯させるなら、それを抜き出して捨てなさい。

結局のところ、偶像崇拝は人を幸せにしない。このことを様々なアングルから教えてくれる。反面教師的な作品であり、不道徳の教科書。
各登場人物の思考はことごとく閉鎖的で、心に自由がない。そこに救いは無く、希望が語られることはない。驚きも感動もない。諦観と厭世観を土台とし、作中では誠の愛を知らぬ者たちによる虚しい戦いが繰り広げられている。いやこれは実に悲しい作品だ。
仕事の舞台裏を見せる類の作品は、個人的には好きなジャンルではある。しかし本作は、現場で働く人々のあり方を露悪的に表す方向に傾き過ぎていて、不自然さが否めない。本作を観ていると、数字を稼ぐことだけを目的に書かれている、出鱈目な記事を読んでしまった時のような虚しい気分になる。

本作は群像劇のようでもあり、それぞれの登場人物についてあれこれ書いていくと話がとっ散らかり収拾がつかなくなりそうなので、ここから先は「主役の男(中身はオジサン)」に焦点を絞って書いていくことにしよう。転生後の主役の男には、感銘を受ける言動が見当たらない。殺害され、赤子として生まれ変わり、精神まで退行したのだろうか?主役の男は転生後、まるで思春期の拗ねたガキのような態度を取り続ける。主役の男は作中において、何か意義のあることを言ったりやったりしているように見えるが、なんてことはない。彼の言動の多くは、私怨に基づく復讐のための小細工に過ぎず、見聞していて甚だ残念な気分にさせられる。
彼は痛みを知る身でありながら、他者の気持ちに寄り添うことをしない。それどころか、優しさを弱さだと捉え、感情を殺し、復讐心の奴隷として生きる道を選択している。結果主義に傾倒し、己を欺き、他者を騙し、表向きは紳士を装うが腹の内では相手を嘲り、時に公然と他者や同僚を蔑む姿勢が常態化している。その生き様はあまりに哀しく、痛々しい。彼は誠の愛を知らぬがゆえ、傷ついた魂は癒えることが無い。不憫な男だ。彼にこそ救いが必要だろう。

話は飛んで、6話では、主役の男が、自ら死のうとする人を寸でのところで助けるシーンが描かれた。その行為は結果として美談にもなるわけだが、成り行きを考えると決して穏やかな話ではない。
作中における事実として、主役の男は、日ごろから関わりのある身近な人が、自ら死のうとする段階に至るまで放置し、タイミングを見計らって助けに入った。その用意周到な計画を実行する姿を見て、バカらしさを覚えた。
それまでの経緯に鑑みて、その人が傷を負い、困難に立たされ追い詰められていることに気が付かなかったわけではないだろう。その人の状態を把握し、その人の行動を監視していない限り、その人の死に際に居合わせることなど不可能に近い。
そしてなぜ、主役の男はその人が飛び降りる瞬間まで待っていたのだろうか。劇的な救出を演出するため、雨の中、傘も差さずに今か今かと待機していたのか?百歩譲って、偶然見かけて慌てて駆け寄りギリギリ間に合った、という流れだったとしてもだ、そもそも、お前の細腕では、落下する学生を抱えて支え、その場で持ち上げて回収するといったパワフルかつアクロバティックな仕事など、できるわけがなかろうて。なんだこの演出は。視聴者をバカにしているのか?いっそのこと、作中でメタフィクションだと言明してくれた方がスッキリするくらいには、雑な演出だと思った。
仮に、復讐のために分別を失っている主役の男が己の計略のため、その人の苦しみを知りながら何もせず、追い詰められ限界が近づいているにもかかわらず放置していたとするのなら、それは悪徳以外の何ものでもなく、そこに誉れはない。

無論、作品内の事象と現実の事象とを比較し、良し悪しを論ずることは不毛であるといった議論については、それなりに理解しているつもりだ。ただそうした(自壊する無価値な)議論をいちいち気にしていたらマジでなにも書けなくなるので、気にせず書き進めることにしよう。

世の中には、たとえ偽善者と罵られようと気にとめることなく、困っている人を放置せず、具体的な支援や手助けをする人がいることを、俺は知っている。数多の怨念が渦巻くこの世の地獄でもあり、人々の露悪的な部分ばかりが悪目立ちする「インターネットの世界」においてすら、人の良心や善意が存在し機能している場面を、俺は知っている。つまりはそれが、俺にとってのリアルってわけだ。
本作の主役の男は、コンテンツの成功を担う鍵として作られ、人々の前に提示された「偶像」だ。けれどもその偶像からは、俺が知る、市井の粋人に匹敵する輝きが放たれてはいない。なればこそ、俺が本作の主役の男に魅力を感じないのは当然だ。

ただし、俺にとって本作の主役の男は反面教師であり、悪い手本でもある。彼には学べる点がある。
確かにだれしも、時に深く傷つき、世と人を憎む気持ちを募らせることがあるだろう。それは人間である以上、仕方がない。またその結果、復讐心を糧に生きる自分に酔いしれ、視野が狭くなり、誤った選択をし続けることになったとしても、なんら不思議な話ではない。
だからといって、己の身に如何なる悲惨な不幸や理不尽が降りかかったとしても、それを理由に他者へ冷酷になる自分を正当化し、感情を押し殺し、己を欺き、他者を騙し、腹の内で世と人を蔑み、進んで悪しき道を歩んで自ら罪を犯す事態を招かんとするならば、それは愚かであり、全くもって「粋」ではない。恰好よくないんだよ要するに。いや本当に。

つまり本作は、そうした感想を抱く俺が観て喜べる作品ではないのだろう。
とはいえ、まだ6話までしか観ていないので、結論を出すことはできない。6話まで観てきて、主役の男には、計算高さの背後に潜む、腐臭を放つ精神の澱のようなものが感じられた。そのため、本来、彼に備わっているはずの善良な資質が、悪臭に覆われ感じ取れなくなってしまっているようにも思えた。だから残念なのだ。
どれだけ清潔感のある身なりで装ったとしても、誰もが認めざるを得ない端正な顔立ちをしていたとしても、彼からは粋な者が放つ香しさが感じられない。やはり彼にこそ、救いが必要だ。

そんな不憫な主役の男が7話以降のエピソードの中で、誠の愛を知り傷が癒え、生き方を修正し、愚かさを認め、知恵と悟りを得て、悪に染まらず義を示し、誉ある生き様を貫く全き男として生まれ変わっていくのなら、俺の本作への評価は大幅に変わるだろう。
ただ実際のところ、原作の内容は最新話まである程度把握しているので、当分の間は本作がそうした展開にならないことは分かっている。そもそも作り手にそうした展開を用意する意図が無いのなら、それは実現し得ないと考えるのが妥当だろう。そもそも需要ねえだろうし。

そういうわけなので、俺は6話まで観て本作の視聴を辞めることにした。今後、原作を読むこともないだろう。

投稿 : 2023/05/21
閲覧 : 139
サンキュー:

6

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