エイ8 さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
(「ひぐらし」+「シュタゲ」)÷2
『サマータイムレンダ』は、田中靖規による日本の漫画。和歌山県和歌山市の離島を舞台としたSFサスペンス。ウェブコミック配信サイトおよびスマートフォンアプリ『少年ジャンプ+』(集英社)にて、2017年10月23日から2021年2月1日まで毎週月曜日に配信された。
2022年4月から9月までTOKYO MXほかにて連続2クール・全25話で放送された。(wikipedia)
イメージイラストの様相から青春群像劇的なものを予想し視聴を始めたもののその実態は結構バイオレンスなシーンも多いサスペンスものでした。謳い文句には「SF」サスペンスとありますが所謂Science Fiction要素は一切なく、タイムリープするファンタジー色の強い伝奇ものといった感じです。
ループものとしては、あくまでアニメという媒体に限定してですが「シュタインズ・ゲート」を超えた完成度を誇っていると思います。脚本や伏線管理だけでなく、最後まで高水準の作画も特筆すべきポイントです。キャラクター達の喋る「和歌山弁」についてはそれが真性なものかどうか自分には判断つきませんが、少なくとも雰囲気はでていました。
ループ設定についても斬新で、主人公の網代 慎平(あじろ しんぺい)は所謂「死に戻り」によるループをするのですが、それには観測限界“事象の地平線”(イベントホライズン)という制限が付きまといます。ようするにこれはループ開始から死ぬまでの期間が短すぎると「死に戻り」するための着地点を得られないという設定であり、これにより困ったら何度でも繰り返せばよいというご都合感を排除することに成功しています。また、ループするのは慎平だけでなく敵であるハイネも同様に記憶を保持したまま付いてくる形となるためループによるアドバンテージが必ずしもないところも作品をスリリングに彩っていました。
最初から最後まで一部を除き完璧に構成されていると感じさせられる作品です。原作は全13巻とのことで当然アニメでは詰め込み切れなかった描写はあるのでしょう。たとえば途中急に現れたと思ったら死んでいた和歌山北署の三浦さんの事情などは不明なままです。ですが慎平を中心とした主要キャラに関しては概ね説明しきっていると思います。
ラストについてもこれ以上無い、というよりこれ以外無いとすらいえる大団円だったと思います。ところが非常に感動的に仕上げられているのは確かだと思う反面、どういうわけか実際にはあまり感動できなかったのです。
これは一体どういうことなのか自分なりに分析してみたところいくつかの原因に行き当たりました。一つは、元々のテーマが「小舟 澪(こふね みお)を助ける」ということの筈だったのに少々そこから主眼がずれてしまったことがあげられると思います。勿論慎平は世界を実質的に救ったわけですから広い目で見れば澪も助けたとも言えます。ですが基本的に澪は戦いの場には居合わせていないために目立たず、代わりにいた影のミオですらも最終決戦である常夜には帯同させてもらえなかったこともあり結局慎平とウシオ二人の世界で終わってしまいました。
他にいたのが竜之介というのもどうだかなという感じでした。彼も主要キャラではありますが、波稲(はいね)との取ってつけたようなペアリングは果たして必要だったのでしょうか。ラストでは彼らは親子関係になってましたがこれもちょっとよくわからない流れです。作品として綺麗にまとめようとして逆に澪の存在を宙ぶらりんにしてしまったことが今一つ感動しきれなかった原因だったんじゃないかと個人的に判断しています。結局のところ、澪はただの当て馬のような存在でしかなかったわけですから。
他にも常夜での最終決戦に慎平の体を維持していた竜之介が出た後もそれほど大して堪えていない描写もマイナスでした。一応独白的に「酷い痛みが……」みたいなことを言っていたとは思いますが、いくらアドレナリンがドバドバでていたとしても腕まで切れた状態でいくら何でも余裕過ぎではないかと……
余裕過ぎと言えば、これは本編にはほとんど関係の無い話なのですが、そもそも慎平は小舟 潮(こふね うしお)と別の意味での家族になりたくて何の断りもなく単身東京の学校に進学したそうですが、どうして潮ちゃんみたいな美人が独り身のまま待ってくれてると思ったんでしょうね。例え将来を約束しあっていたとしても裏切られるのが現実並びにエロ漫画の世界の定石なのに彼のあの自信はどっから来てたんでしょう。慎平君、ちょっと俯瞰が足りてなかったんと違います?(いや、結果的に待っててくれたわけですから「潮は俺にベタ惚れw」との俯瞰的判断が正しかったということでしょうか。それはそれで自意識過剰の痛い奴だと思いますがw)
最後に伏線としての違和感を。
一番違和感あったのは1周目に宿屋のおじさんから慎平がひづるを探していたという証言です。これに関して作中慎平は3週目に何かに気づきます。それが何なのかは(少なくともアニメでは)明言されていませんが、色々考察を調べてみるとそれは影のシンペイが探してたことに気づいたとあります。慎平は1、2周目の葬儀の時既にスキャンされておりそのコピーがやったと言うわけです。
しかしこれは少しおかしいです。第一にひづるが全くのよそ者であるのならば東京から帰ってきた慎平の影に知人であるなどと称して探させるというのはわかりますが、彼女もまた地元の人間でありその存在を葬儀場にいた多くの人達に見られているわけですから直接関係性のない慎平を使うよりも友人である小早川 朝子の影を使うなどした方が適任だと思われますし、そもそも慎平はこの時まだオリジナルが存在しているわけですから二人存在することになる人間を使うのはどう考えても不自然です。
しかも宿のおじさんの話からすれば影の慎平はひづるの名前ではなく巨乳という身体的特徴しか伝えていません。これは慎平自身この時点ではひづるの名前を認識していないという意味では正しいですが、彼はシオリから派生している以上ひづるの名前を知らないのはおかしいですし、彼女を探すという意味においてはわざわざ伏せる必要のないことです。
そもそも本当に1、2周目の葬儀の時スキャンされたのが慎平だったのでしょうか?ハッキリ言ってあんな大勢の衆人環視の中でやるリスクを取る意味自体わかりませんし、仮にそうであるならば3周目以降の時彼をスキャンしなくなった意味もわかりません。ハイネからすれば慎平の重要度は何もわかっていない1,2周目よりもシオリのことを嗅ぎまわりだした3周目の方が遥かに高まっています。にもかかわらず1,2周目の時にはリスクを冒してまで行ったスキャンを3周目では慎平が小早川邸を訪れるまで行わないのはやはり変です。しかもその時慎平が小早川邸を訪れたのは偶然の産物に過ぎずハイネが予期できたわけではありません。ということは彼が訪れなかったら3周目では慎平のスキャンのチャンスがなかったかもしれないのです。やはりこの辺は少し物語の進行のための行動に見えてしまいやや残念な点ではあります。
とはいえこの件に関しては原作で明言されているのか自分は未読なのでわかりません。葬儀の時スキャンされたのはアランの方かもしれませんし、宿のおじさんのもとには実のところ誰も来ていなかったのかもしれません。つまり、おじさんは酔っぱらった状態であるが故に他の世界線の記憶、「シュタインズ・ゲート」でいうところのリーディングシュタイナーを発動しただけの可能性もあります。というかその伏線の方がラストで慎平と潮が記憶を保持している理由にもつながってくると思います(オリジナルの潮は早々に死んでいるので本来的に言えば影の記憶を保持していること自体もおかしいわけですが、波稲が現代に転生している現実よりはまだマシとは言えそうですw)。
ただいずれにしろあの時慎平が何に気づいたのかは不明のままです。実のところ、慎平がその時点に関して言えば単純に「自分の影が巨乳の女を探していた」と判断するのは間違いではないのかもしれません。あの時の彼はひづるが元々島の住人であることや、住民の多くが既に影に成り代わってることに気づいていないのですから。しかしながら俯瞰して考えれば自分の影がひづるを探すため人目につくよう動き回るということ自体おかしいということに気づかなければならないと思います。少なくとも周回しているいずれかの時点には。
そしていずれにしろハイネがどうしてそういう采配をしたかについてはやはり納得いく理由が見当たりません。慎平の影が独断でやったのだとしても、その場合はオリジナルの慎平を先に殺すことを考えなければならない筈なのでやはり不自然であることに違いないと思います。
他の疑問点としては潮の死体がどうなったのか?という点もあります。常夜で影のウシオは澪に集めてもらった自分の髪の毛で多少回復するものの元が少量なだけに大きく危機を脱するまでには至りませんでしたが、時期を考えればこの時まだ菱形医院には彼女のオリジナルの死体があったわけで、さすがに肉片を斬り落としたりとかしないまでも髪の毛をごっそりと持っていくことぐらい出来たと思うんですよね。それをしなかったということはラストの周回にはもう彼女の死体が無かったと判断するしかないと思うのですが、果たしてこの疑問は原作で解消されてるのでしょうか。
少々疑問点が長くなってしまいましたが全体的にはきちっと構成されつくしているためこの程度ではマイナス要素とはなりません。なので充分良く出来た作品であるという評価も変わりません。
ただまあ、やっぱり金髪碧眼スク水なんていうあまりにもあざとすぎるキャラ設定は正直なんとかならんもんかとは思いました。
ていうかこの作品に限ってのことでもないけどフランス人の金髪碧眼なんて割合どれくらいなんでしょうね?結構レアな気もしますが。