nyaro さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
テーマ性・文学性・SF的発想。どれをとっても素晴らしい名作です。
24年4月 追記 第9地区って本作オマージュ?
「デデデデ」のレビューで「第9地区」に似ているというコメントが多かったので、見ていなかった同作を見ました。なるほどUFOは似てましたし、ひょっとしたら似た展開の可能性もありますが、私はむしろ「第9地区」って本作のハードモードの様な気がします。
本作と「デデデデ」を比べると孤独と言う点で、似ているところもありますが、まあ、比較は後半戦を見てからですね。
「第9地区」がせっかくヨハネスブルグが舞台ということで人種差別について描いているのかな、と思ったら、どうも描き切れていませんでした。その点で本作の方が異文化の価値観と分断を良く描けてると思いました。
改めて本作は名作だなあ、と思いました。
以下23年5月レビュー
この名作をレビューしていませんでした。というかこういう作品を名作アニメだというんだ、と改めて思いました。
非常に独特です。ストーリー性は無い…あるいは無い様に見えますが、裏にあるSF的な視点がありました。また、荒唐無稽な設定ではありますが、分断・貧困・差別・移民化が進んだ人間の暮らしが妙な現実感をもって迫ってくる作品です。
そして、それらが組み合わさって、妙に郷愁を誘う感情が揺さぶられるアニメでした。
被差別民である宇宙人の中でも最下層のニアが、優秀だけど貧乏ななヒロインの下宿に居候する話です。近くにスラムがあり、開発が進まない明らかに貧困地区な感じです。
ヒロインは友達付き合いが下手、本音を話のが下手です。これがまるで2023年現在のハイティーンとか大学生の子たちを見ているようなリアリティを感じてしまいます。
宇宙人=外国人(特にインド人)は犯罪行為を行いますが、それは道徳観の違いであって生活するための知恵です。そして、コミュニティーを持っており彼らなりの生活をして行きます。時折、ニアも巻き込まれ犯罪行為を無自覚でやってしまうところなど「今じゃん」と思ってしまいます。
そして、このアニメの特徴ですが、その辺に道徳的な価値づけをしないことです。淡々と生活が描かれます。最後の方にニアがいなくなるという事件が起きます。隣にいる人間の大切さ、と言葉にすれば簡単ですが、ここで宇宙船の話と絡んできます。
宇宙船は宇宙人にとっての故郷でありアイデンティティです。それがあるからこそ自分が自分でいられた。ニアに戸籍がないことが分かったり、どんな存在でもないことがわかる。
でも、いつの間にか帰って来てまた、時間が過ぎてゆきます。ただし、元通りではありません。季節が進み夏から秋へ。これは別れに一歩近づいたような雰囲気を醸し出します。そして、宇宙船の作成に成功するニア。オープンエンディングで落ちがないように見えますがこの生活が永遠には続かないことを示唆しています。
SF的にもニアに何かあるのではないかと薄ーく示唆されている気がしました。そして、それは誰でもある可能性なのかもしれません。受け取り方は人それぞれでいいでしょう。
この作品を見ると今の日本の間違いは「皆平等、皆権利がある、貧困は悪だ」という思想に毒されているからでは?と考えが広がります。
特に自分が人より経済的にも友人関係でもルックスでもそういうところが劣っていることを「理不尽」と捉えることが不幸の原因だと考えさせられます。最下層を受け入れると自分のやるべきことが分かる。UFO作りに取り組むニアの成果と予備校通いでニアに依存するヒロインの違いが非常によく描かれています。
自由という言葉がちょっと安っぽく使われますけどね。最後の方を見るとあえて本質ではない感じを出したのかもしれません。
とまあ、語り出すとSF的にもテーマ的にも素晴らしく、また、文学性もありました。非常にクオリティの高く現実感あるキャラデザが生み出したリアリティが不安や物悲しさを醸し出していました。最後のホタルと宇宙船の対比なども素晴らしかったです。
ということで、この10倍くらいレビューできそうな読み取るべき内容が多層的で非常に深い2000年の名作です。受け取り手が自分の立場でいろんなことを考えることができます。ですが、なんとこのアニメがサブスクにないんですよね。私はリアルタイムではなく、中古屋の投げ売りで買った円盤があったので見られましたが…
この作品が消えるのは余りにも惜しいです。20年以上前に今を予言したような、差別・区別・人種・出自・経済格差など人間には当たり前にあってその中でどう人間は生きてゆくのかという視点が素晴らしいアニメでした。
以上のようにストーリー・キャラ付けはもちろんですが、OPを始めとした音楽性も豊かです。安易につけた満点ではないと思います。