青龍 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「人が人である理由」ってなんだろう?(※続編制作決定!を追記)
本作は、水島精二監督、ニトロプラスの虚淵玄脚本(『魔法少女まどか☆マギカ』(脚本・原作)、『Fate/Zero』(原作)、『PSYCHO-PASS サイコパス』(ストーリー原案・脚本)など)のSFフルCGアニメーション映画(2014年)(2024.2.1、末尾に続編のHPを追記)。
「楽園追放」というタイトルから、「旧約聖書」の蛇に唆され知恵の実を食べてしまい「楽園」を「追放」されたアダムとイヴの話が思いだされる。
本作では、釘宮理恵さん演じるアンジェラがイヴ、三木眞一郎さん演じるディンゴがアダム、神谷浩史さん演じるフロンティアセッター(AI)が蛇または知恵の実にあたるのだろう。
(なお、チョイ役も声優が豪華なので重要な役と勘違いするかも…。)
【「人が人である理由」】
そうだとすると、{netabare}フロンティアセッターが廃墟と化した地球から脱出するために作った宇宙船には、ディンゴとアンジェラが乗りこみ太陽系外におけるアダムとイヴ(人類の祖)になって終わるというのが旧約聖書に則った王道展開だろう(実際、物語の途中で、そういう展開に行きかける)。
しかし、最終的に、アンジェラもディンゴもその宇宙船には乗らず、挙句の果てには、宇宙船が作られた本来の目的である「楽園」(ディーヴァ)にいる他の人間すら収容せず、フロンティアセッターだけを載せて宇宙船は地球を旅立ってしまう。
果たして、人類が脱出するために作られた宇宙船であるにもかかわらず、人を乗せずに出発してしまって良かったのだろうか?
そのことについて、ディンゴは、楽園に飼いならされて好奇心を失ってしまった今の人より、自由な知的好奇心を持ったフロンティアセッターの方がより「人」っぽいから、AIが「人」を代表しているといっても問題ないだろうという趣旨のことをいっていたと思う。
これは、「人が人である理由」が自由な知的好奇心(知恵の実)を持つ点にあるということなのだろう。
多くのディストピアを描いたSF作品では、人類滅亡の危機に際して、人のDNAを残そうとするものが多い。
そんな中、本作では、そんなもん残してどうすんだよ、自由な知的好奇心こそ、「人が人である理由」なんだから、残す価値があるのはそっちだろ!といわれているように感じた。
宇宙には、人類以外の知的生命体が他にもいるかもしれないわけで、そいつらに我々の文明は、どう思われてるんでしょうかね。{/netabare}
【無駄こそ好奇心の種?】
{netabare}ディーヴァの住人であったアンジェラは、自由な知的好奇心を取り戻したのか、最終的に地球に残ることを決心する。
今まで無駄だと思っていた疲労や倦怠感といった生身の人間が感じる感覚は、確かに、精神体には不要である。しかし、人が無駄だと思って切り捨てたものにこそ、どうやったら疲れなくなるのかとか、病気にならないのかといった好奇心の種がある。
そう考えると、ディーヴァの住人が好奇心を失うのは必然であったのかもしれません。
だからこそ、現代人にもっとも近い価値観を持つと思われるディンゴが、同じ人であるアンジェラよりAIのフロンティアセッターに親近感をもったんでしょうね。{/netabare}
【今ある我々の文明って、必ずしも歴史的必然ではない。(※ゲーム「Horizon Zero Dawn」のネタバレ有りの追記)】
{netabare}「Horizon Zero Dawn」は、あらすじを単純に説明するなら、一回絶滅した人類がもう一度復活していく過程を描いたSFゲーム。
このゲームの中では、人類の歴史が一回リセットされた場合に備えて、残された無知な人類向けの教育プログラムなどがあったのだが…
そうだよな、今ある我々の文明って、必ずしも歴史的必然ではないよなあとか、一回絶滅したんだからむしろ教育プログラムの影響を受けて同じ文明を持ってはいけないのではないかとか思った(宮崎駿監督が描いた原作漫画の『ナウシカ』もそういうテーマだったと思う。)
そうすると、人類の歴史を再開するとしても、人類を物理的に再現することなんかより、どういう文明をもつべきかが重要だったりするなあと。
だから、確かに、物理的に人を残すことなんかより、どういう価値観をもっているかが大事だと思った。{/netabare}
【『楽園追放 心のレゾナンス』の制作が決定!!(2024.1.27追記)】
本作と同じ監督・水島精二、脚本・虚淵玄で、“その先の新たな物語”を描くらしい。めっちゃ楽しみ!
(公式HP)
https://rakuen-tsuiho.com/