青龍 さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
タイトルから想像される異世界転生、悪役令嬢ものではない
この作品の評価は今のところあまりよろしくない(コメント記入時2.9)
よろしくない理由は、おそらくタイトルから想像される展開、「異世界の王侯貴族として転生した私は、前世での知識を活かし、異世界の優秀な天才令嬢と協力して、異世界の魔法を大改良して、大活躍しました」と違うからだと思われる
つまり、甘いと思って食べたらしょっぱかったので美味しいとは思わなかったという話である
本作は、中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界に現代の価値観と知識を持つが魔法が使えない人(現代の普通の人)を魔法が使えることが王になる条件の一つである王族として転生させた場合、周囲にどういう(悪を含む)影響を与えるかを割と真面目に描いたものであり、案外話が重く俺ツエーといった爽快感はない
したがって、その需要と供給とのミスマッチ(タイトルで損をしている)によって評価を落としていると思われるものの、はじめからしょっぱいものだと思って観れば、普通の現代人が異世界に行ったらこんな苦労もありえるだろうとは思えたので、名作ではないけれど、もっと評価されていい作品だと思います
典型異世界なろう作品に飽きた方は是非!
(以下、ネタバレを含む本作を推す理由を追記)
{netabare} 私は主人公が「転生」者であることに意味がないとは思わない(また、これに意味を見出すかどうかが本作の評価にも繋がっていると思う)
なぜなら、彼女の異世界での価値観にとらわれない生き方は、現代人の自由な価値観に基づいたものであり、中世の封建的な価値観を持つ人からみれば破天荒だからだ
そして、彼女が自由気ままに生きているのは現代人だからであり、かつ、王族で王位継承者ではないというそれが許される境遇にあるからである。また、彼女が自由に生きていなければ、弟は自分の王位継承者としての役割に疑問を持つことはなかっただろう(したがって転生者であることに意味がある)
さらに、SAOのようにゲームの世界に入り込むパターンは、周囲の人間も中身は現代人なので価値観の相違から受けるカルチャーショックはない。しかし、転生した場合は、現代人がおらず異なる歴史を歩んだ「異世界」なのだから、むしろ価値観の相違がないとおかしいはずだ
この辺りの転生者が持つ考え方の「異質さ」を真面目に捉えた作品は少ない(そこが私の評価ポイント)
例えば、現代の知識を活かして様々な発明をしたとして、それを素直に受け入れるというのは、かなり精神的なハードルが高いはずなのに、あっさり受け入れられた上に賞賛されるのがテンプレ展開だ(この点、本作の「魔学」は、現代知識と異世界の価値観との擦り合せをしようとしているように見える)
しかし、わかりやすくいえば、現代にドラえもんが現れて、「どこでもドア」を出してきたときに、あなたは、その理解不能なものを潔く受け入れ、恐れることなく利用できるだろうか(明治時代に蒸気機関車を初めて見た人が近いか)
また、運送や人の移動に革命をもたらすこの道具は、これらに従事している人たちの職を奪い、これらの人たちの反発を招くだろうから、必ずしも快く受け入れられるとは限らない
確かに、本作は、きっちりとその辺を考えているのか?と問われると疑問ではあるが、この転生者がもつ異世界での「異質さ」をある程度真面目に考慮したところが他の典型なろう作品と違う点だろう
(以下、2023年5月15日追記)
もっというと、典型異世界なろう系は、ブラック企業だったりニートだったり現実世界で辛い思いをしてきた人が異世界で救われる話(カタルシス)だ
しかし、本作は、現実世界で救われなかったという背景がなく、異世界で現実を見せられて困難にぶち当たるという典型なろう作品とは真逆のパターンなので、典型作品が持つ爽快感がない
したがって、タイトルから現実逃避を期待したら、むしろ現実の厳しさをみせられるという見たくないものを見せられた結果となる
人間、予想外のことや見たくないものは、スルーするか理解するまで時間がかかるものだ
おそらくこれが、「転生設定要る?」の正体だと思われる
ただ、必ずしも転生が現実逃避の手段である必要はなく、創作は自由なのだから、本作のような展開があってもいいはずだ(もっとも、私も本作の展開が唐突だとは思う)
だから、視聴者側の期待と本作の内容がミスマッチであり、色眼鏡でさえ見なければ、他の典型異世界なろう作品と比べても、ここまで酷評される内容ではないと思う {/netabare}