薄雪草 さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
いつだってラスト1秒がミラクル
劇場で鑑賞しています。
たしか副題は、タイトル風だったような記憶です。
とは言え、初見は理解に全く及ばす、印象は最悪な自己嫌悪でした。
理系の作品に文系的な期待なんかするんじゃなかったよ・・・。
でも、今になってようやく極上の逸品との評に行きつきました。
それではいつもの私論で、押し切りたいと思います。
悪しからずご容赦くださいませ。
~ ~ ~
推論と結論から申し上げれば、私の視点は唯一、現実世界の一行瑠璃さんにフルシンクロしています。
だから・・・つまり・・・本作を逆回しに観ることで、ようやく腑に落ちたという感じなんです。
最初に、最後のシーン。
ナオミはベッドに昏睡しています。
心配そうにそばにつきそうのは大人の一行さん。
周りには何やら訝しげなハイテク機器が並んでいて。
それって生命維持装置?
それとも量子コンピューター??
つまりは、この地点が一行さんの "現実" ってことです。
~ ~ ~
そんな彼女の想いは、いつだってラスト1秒の奇跡を期待しています。
そうなんです。
彼女は、その1秒を何兆倍にも拡張させるハイテクで、ナオミの意識を覚醒させようとしてるんです。
世界にたった一つの愛を、もう一度呼び覚ますために。
ナオミの記憶に、かならず取り戻させるために。
昏睡状態にあるナオミの脳に干渉し、介入し、刺激を送っているんです。
ときには電気的な "カラスやハンド" で。
あるいはオソロシゲな "狐面や落雷" で。
ナオミが出逢った頃のツンな一行さんを登場させ(ちょっと可愛らしさを盛りすぎな一行さんではなかろうか)。
彼女に出逢った頃の直美を造形して、ナオミを通じて直美に懇願までさせて(どれだけ一行さん必死なんだ)。
かつて京都で恋した二人の軌跡を、ナオミの意識に呼び覚まそうとしているんですね。
今だって、いつまでだって、一行さんは信じている。
その1秒前のミラクルを信じて、ベッドのそばでナオミの回復を待ち続けているのです。
~ ~ ~
そこに思い至った瞬間、私の脳裏に HELLO WORLD の意味を受け取ることができたのです。
(もちろん、私なりにですけれど)
その二文字は、一行さんが絞り出す心の叫びだった。
ナオミと生きていきたい世界の扉をこじ開けるコールサインだった。
HELLO・・・あなたの世界は、今どこに漂っているの?
HELLO・・・わたしの世界と、どう繋いでいけばいいの?
電気信号でしか送ることができない彼女の一念。
月と地球の配置が、二人の隔たりを象徴しているかのようです。
~ ~ ~
視聴者が最初に体験する空前絶後の出来事は、一行さんがナオミと直美に施した "技ありな演算(シナリオ)"。
直美は一行さんがナオミの無意識の世界に滑り込ませたヒトガタの仮想データなんですね。
え?
それって、もしかしたらもの凄いテクノロジーなんじゃないの?
昏睡している脳に、電気的にモノガタリを構築させるなんて!
図書館の出会いから目覚めの再会までを演出するテクノロジーってナニ?
ならば、地球を眺めてるシーンに、私はついつい深読みしてしまいます。
一行さんの情と理を窮(きわ)めた結果として、母星に干渉しない場所を選ばせたのかもしれないと。
あるいは、映画館での鑑賞それ自体が、先端科学と人間の幸福追求の未来性を思いなすためのシミュレーションだったのかもと。
そんな捉え方なら、もう少しSFを "体感" できたかなぁと思っています。
~ ~ ~
まぁ、とにかく、そんなすごい超絶科学を、いかようにも捻じ曲げてしまう "愛のチカラ" です。
キービジュアルをようくご覧になってください。
一行さんが手に引いているのは、ヴァージンな頃の二人の記憶です。
向かう先には、無頼を押しつける仲介役のナオミが待ち構えています。
一行さんは、そこへ連れて行こうとしているように私には見えます。
二人に一番まぶしかった景色を、目覚めのきっかけにするために。
どうしてどうして、女の初一念は侮れないものでしょ?
さぁ、貴方にもそんな HELLO WORLD の世界観を!
もしも一行さんみたいなタイプがお好きなら・・・。
もちろん、そうじゃなくたっても・・・。
未知のバーチャルリアリティ世界に、本気でダイブなさってみてはいかがでしょうか?