ナルユキ さんの感想・評価
3.5
物語 : 4.0
作画 : 2.5
声優 : 3.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
意外と悪くねぇ~にゃ!
2019年3月に同名の声優ユニットが解散。個々のメンバーは現在も声優活動を続けており、中でも頭1つ抜けているのが青山吉能と田中美海の2人だろう。
いやまさか後藤ひとり役の人のデビュー作がこのシリーズとはね、評判の悪い監督のせいで色々言われてしまったまま終了となったようだけども、この作品含めた諸々のプロジェクト『Wake Up,Girls!』(以下、WUG)がなければ皆の大好きなぼざろも別の形になっていたんじゃ……と考えると、本作にも感慨深いものが湧いてきてしまった。
とは言え、シリーズそのものは拙いアイドルアニメであったことには違いない。タツノコプロってあんまり綺麗なアニメーションを作らないんだよね、これは共同制作だから全部タツノコのせいとは書けないのだけど。
さらに出し方も良くなかった。物語の始まり(第1・2話に該当する部分)をこの劇場アニメにしてしまい、続きを地上波放映にするというセオリーとは真逆のリリースは当時、非常に取っつきづらく、アイドルアニメの金字塔『THE IDOLM@STER』やそのライバル『ラブライブ!』シリーズなどに勝る部分をそもそも観てもらえなかったのだと思う。
そして時が経ちサブスク主流時代、時系列を整理し本作からWUGの物語を追って観ると、この作品だけは「意外と悪くないな」と思った次第である。そのわずかな魅力をこのレビューで伝えていきたい。
【ココが面白い:徹底されたリアル路線】
この作品はアイドルアニメの序幕ながらもアイドルたちが主人公ではない。WUGを立ち上げる『グリーンリーヴス』の所属タレントは物語開始時点で続々と抜けて0人。そんな土俵際の芸能事務所が無謀にもアイドル界に参入するというのだから、序盤はその人材確保に奔走する「マネージャー」が主人公として描かれるわけだ。
あまりアイドルアニメを観ていない私だが、これは結構な「リアル路線」だと思う。初めから都合よく事務所に美少女が所属しているわけでもないし、何故か端正な顔立ちをしている一般人が自ら思い立ちアイドル活動を始めるのでもない。弱小芸能事務所の懐事情と「そこにお金の匂いがするから」という山登りのような理由でアイドル界参入を決意した頭の悪そうな社長────“汚い大人”の甘言や執拗さによって一般の少女が1人、また1人と集められていく、なんとも生々しいストーリーである。
唯一の社員である松田のキレの悪さも、その生々しさに拍車をかけている。いきなり知らない人へ気さくに話しかけられるやり手も現実ではそう多くはない。視聴者の大半が、声をかけた女性にそっぽを向かれては社長の叱責を受ける彼に同情することは禁じ得ないだろう。名刺は手早く出す方が現実でも大事だけどね
そんな要領の悪い彼のスカウトでもときめく少女は少なからずいる。パッとしない平凡な人生、失敗や挫折を味わい陰った人生、井の中の蛙のような人生を歩んできた少女たちにこそ「アイドル」というものへの憧れが人一倍強いのではないだろうか。選眼と弁舌に長ける社長自らが動いていたこともあり、そんな「訳(わけ)」もありそうな少女6人がオーディションに挑む。
【でもココがひどい:全体的に低クオリティ】
しかし後にセンターとなる7人目のアイドル・島田真夢(しまだ まゆ)との出会いはかなりご都合だ。
{netabare}オーディションという体裁を取ったものの所属タレントがいないグリーンリーヴスは6人全員を合格とする。しかし社長は言う、「このグループには“核”がない」と。彼女の構想ではWUGのメンバーは7人。奇数のユニットを組んで中央に他人とはオーラそのものが違う「センター」を置きたがっていた。
「ダイヤの原石を探してこい!」と尻を叩かれる松田だが「そう簡単に見つかるはずないだろ」と途方に暮れて公園のベンチで寝そべる。その時にブランコを見たらなんと元大手アイドルグループのセンターにいた島田真夢が!────という流れ。実に都合がよろしい{/netabare}
都落ちアイドルと駆け出し芸能マネージャーの運命的な邂逅を描きたかったのかも知れないが、残念ながら作画があまり伴っていない。敢えて地味なデザインを通したのは他のアイドルアニメとの差別化を図る上で悪くない選択肢なのだけれども、仕上げが悪いのか洗練されていないのである。これでは主人公であり他とは「オーラが違う」設定のある島田真夢の魅力を感じ取ることは視聴者にとってとても難しい。
中の人の演技次第でキャラクターに箔が付く例も少なくないが、WUGは当時のプロジェクトの一環として主演全員を本作でデビューした新人声優で固めてしまっている。その声優たちも現在、芽が出ず主演に起用されることの少ない、ポテンシャルの低い人材だ。
島田真夢役の吉岡茉祐も、本作の他には『あんハピ♪』の江古田蓮がはまり役だったくらいしか良点がないレベルの声優である。「棒演技」「下手くそ」と罵るほどではないものの、なまじ女優歴があるせいか全然アニメに合った発声をしてくれない。
{netabare}そんな低クオリティな『彼女の口ずさんだ歌声に松田は魅了され、彼女にWUGへ加入するよう、勧誘を繰り返していく』────と百科事典系サイトでは書かれているのだが、聴いたこちらとしては「あ、それが決め手になったのね(笑)」と気勢が削がれてしまった。設定では「歌が上手い」ということになっていても、中の人の別段上手ではない歌声がわざわざBGMまで消してしまうことでより際立ってしまっている。{/netabare}
【でもココがすごい!:崖っぷちのパンチライブ(1)】
しかしストーリー自体は佳境に入っていき、目を見張るものがある。
{netabare}なんとWUGの結成とデビューを主導で推し進めていた社長が突然、デビューライブの費用を持ち出して蒸発してしまうのだ。残された素人たちには最初にして最大の選択が迫られる。
全てを無かったことにするか、無理にでもデビューするか。
後者を選ぼうにも衣装も会場も押さえておらずデビューライブは敗色濃厚、事務所の存続すら危うい状況でWUGがデビュー後に活動できる保証は無い────前者を選ぶしかない絶望的な状況の中、今まで首を縦に振らなかった島田真夢が、冬の凍雨の中を突っ切って事務所に飛び込んできたのである。{/netabare}
{netabare}「アイドル、やらせてください!」
ややあっさり陥落したような印象も受けるものの、ここまででその切欠は十分に揃えてきている。冴えない芸能マネージャー・松田の情熱的な勧誘もその一因であろう。
アイドルをやっていたキミは輝いていた。それを見た俺も頑張ろうと思った。こうやって他人を励ましたり、勇気づけたり、幸せな気持ちにできる人間は限られるのだと思う。キミがその1人だ。
経験が浅いからこその打算のない説得に、嫌がらせと受け取られても怯まずに忍ばせた、
真夢がアイドルをしていた頃の映像。そしてデビュー前に解散危機となり涙する友人・林田藍里(はやしだ あいり)の姿によって、嘗てアイドル活動に傷ついた彼女の本当の気持ちが引き出されたのである。
「私は────私たちは、自分を幸せにするためにここにいる」
歌とダンスが好きな自分。アイドルをやりたい自分をこれ以上、偽らない。これからアイドルを目指すみんなにも諦めて欲しくない。元大手アイドルにして最大の挫折を味わったであろう島田真夢が、弱小事務所の虫の息な地方アイドルユニットに自らを売り込むことでWUGに希望をもたらし、彼女らは一丸となって失敗覚悟のデビューライブに臨む。{/netabare}
【でもココがすごい:崖っぷちのパンチライブ!(2)】
{netabare}こういった事情もあってWUGのデビューはアマチュアバンド祭の飛び入り参加、衣装は各々通う学校の制服(通ってない娘はそれっぽいブレザーにスカート)というお粗末なものになる。そのまま踊ればスカートが舞って下着が丸見えになってしまうことは各メンバーも1度、この劇場版でちゃんと言及してはいるんだよね。
松田も「制服で踊るなら見せパンが要る」とギリギリで気付いて買いに走ろうとする。そこをセクハラに不寛容な菊間夏夜(きくま かや)が制止するのだ。「見せても減るもんじゃない、腹括ろうよ」と。
最初で最後になるかもしれない、この7人だけのデビューライブ。衣装で着飾ることも間借りした会場を弄って演出で盛り立てることも出来ないWUGが唯一、この場に自分たちがいた証を強烈に残す方法────それが「パンツ」なんだと、そう悟ったからこそのあの見せてもOKムードだったんじゃないかと、我ながらバカらしい考察をしてみる。そうすることで普通なら「はしたない」「下品」と思われても可笑しくないパンチライブも比較的、フラットな目線で見届けられるんじゃないかと思う。{/netabare}
そしてワンコーラスの全力ダンス。何処と無く作画班の疲れが見え隠れするものの、監督が3DCGへの対抗心でこだわった手描きの温かみ、そしてキレのある動きに神前暁氏(MONACA所属)作曲の『タチアガレ!』が合わさって悪くない出来映えだ。
確かにこの頃のアイドルアニメのライブシーンはラブライブ然りアイカツ然り、3DCGに頼りきっていた印象がある。血の通った人間が踊っている筈なのに何処か冷たく、ロボットかマネキンが不気味にヌルヌルと動いているような違和感を抱いてしまう。表情も固かった。そんな欠点も当時は多かった3DCGを否定し手描きを貫いたことはクオリティーを抜きにしてひとまず、褒められるべき点である。
ただ、やはり下半身のアップや下方からの画角でパンツを大っぴらに写してしまったことはアイドルアニメとして良くなかったかも知れない。
【総評】
この時点では非常に話の続きが気になる、中々の良作だったと評する。
作画は洗練されておらず、円陣を最後まで映さない、腕が増えているというミスも修正された筈の配信版で残ってしまっており酷い出来ではある。リアル路線のせいか派手な髪色や目立った身体的特徴を持つ人物がWUGの中におらず、この作品でデビューした新人声優らも己の演技を固めずに収録に挑んでいるため、この作品の1時間弱の尺でキャラクターの区別をきちんと付けることは難しい。正直言って、叩いて出るホコリのようにキリがない程に欠点は目についてしまう。
しかし登場人物に「アイドルとは物語である」と言わしめ、その説得力を持たせるための導入部分はリアリティがありつつ、面白い。
稼ぐためにアイドルを作り、{netabare}稼げそうになければ夜逃げするような社長の下にいたばかりに{/netabare}とんでもない割を食わされたアイドルとマネージャーというのは2023年現在でも稀有である。
そんな逆境の中、地味で純真な新人アイドルたちを経験浅なマネージャーがどうマネジメントしていくのか、という期待感を煽る終わり方にしっかりなっており、アイドルアニメであたかも「マネージャー」が主人公であるかのような珍しいキャラの推し方とストーリー展開を行っている。
作画・音楽などのクオリティに粗があっても脚本が良ければ支持をする。それがアニオタというものだ。この劇場版のような生々しい芸能活動と急展開、それに立ち向かうアイドルとマネージャーの物語をTVアニメ版でも続けてくれれば、少なくとも私はこのシリーズに何も文句をつけることは無かったのだが────そのレビューはまたの機会にしたい。