「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない(TVアニメ動画)」

総合得点
95.0
感想・評価
1834
棚に入れた
7765
ランキング
3
★★★★☆ 4.0 (1834)
物語
4.0
作画
4.0
声優
4.0
音楽
3.8
キャラ
4.0

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

次世代青春怪異

私は好きな作品を根拠もなく「パクリ」や「フォロワー作品」なんて言われたら腹が立つ性分なので、なるだけ自分のレビューでは使わないように努めてはいるのだけれど、本作に限ってはそのポリシーを適用できなかった。
この作品は2009年から8年ほど続いた《物語シリーズ》に非常に酷似している。人によっては『涼宮ハルヒの憂鬱』や『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』なども思い出すかも知れない。
物語シリーズは視覚的又は聴覚的にあっと言わせる秀逸なオリジナル妖怪を使って少女の内面にある闇と、それを払おうと奮起する主人公という男女の青春劇を描いた“青春怪異”の代表作であり、現在でも根強い人気を誇る。だからこそ30代のアニオタが本作を観るとその類似性を見出してしまうことは恐らく避けられない。この作品もまた、ジャンルとしては青春怪異に分類されるだろう。

【ココがひどい?:思春期症候群という名の『怪異』】
現実でも思春期(青年期)は身体的成長が急速に進み、精神面でも親から自立し自らの足で歩もうとする大人への移行期間。この時期には自己の確立が進んでいき、その過程で多くの悩みや葛藤が生まれ、時には精神的な危機に陥り拒食症や強迫観念といった「心の病気」を患うことが、我々の世界でもごくごく普通に起こり得ることは学があれば理解できる範疇にある。
この「心の病気」が、本作では一般的な物理法則を超えて登場人物に不可思議をもたらす。これが『思春期症候群』。第1話冒頭の蠱惑的かつ衝撃的な「野生のバニーガール」もその内の1つだ。
後に『観測理論』という言葉や『シュレーディンガーの猫』を思わせる描写が出てくる。猫を隠した箱の中に毒ガスを充満させても、その箱を開けて中を確認しない限り「猫が死んでいるか生きているかを断定することができない」という屁理屈じみた思考実験────「量子力学」と呼ばれる類いである。これが最初のヒロイン・桜島麻衣(さくらじま まい)が発症した思春期症候群だった。
「学校」という思春期で過ごす最大のコミュニティが麻衣を「いないもの」として扱い、彼女自身もその扱いを進んで受け入れる。これが成立することで彼女は真に周囲から観測されなくなる。シュレーディンガーの猫の理屈で考えれば、観測されない人物は始めからいなかったことに等しい。この帳尻合わせのため、彼女の存在はポツポツとその証を失い、知人や{netabare}実の母親{/netabare}の記憶・認識からも外れていく。
この荒唐無稽な展開をアッサリと信じ、ヒロインに力を貸すのが男性主人公・梓川咲太(あずさがわ さくた)というわけで、まあココが『化物語』と瓜二つだな、と思う部分でもある。
彼もまた自分と妹が怪異────ではなく思春期症候群に見舞われ社会的地位を落としてしまった人物だ。故にそのテの現象は物語開始時点で事情通。さらに(後のヒロイン兼任だが)主人公に助言を与えるアドバイザーまでいるという共通点の多さには、とくに色眼鏡をかけず純粋にびっくりしてしまった。
こじつけレベルだが、1人目のヒロインである麻衣が黒髪ロングの女王様気質というのも物語シリーズのヒロイン・戦場ケ原ひたぎと酷似している。

【でもココがすごい!:作画】
『化物語』との相違点を挙げるなら「作画」になる。その点だけで見て軍配を上げるのは2018年、CloverWorksが制作したこちらしかないだろう。
単に制作年の隔たりから来る格差ではなく、原作を預かった会社としての風紀が如実に現れている。シャフトは化物語で遊んでいるかのような、はたまた実験しているかのような様々な演出──現在で言う「シャフ度」等──をふんだんに使っていた。結果的に成功したからいいものの、原作をまるで「自分の作品」のように扱うことの多いシャフトには制作してほしくない各作品ファンもいることだろう。最近は作画もヘタってて円盤修正も多いしな
対してCloverWorksは青ブタ(本タイトルの略称)の、神奈川県藤沢市を中心とする湘南の風景を美麗に描写している。私も一時期あの地域に住んでいたことがあったが、自分のこの目でずっと見てきた景色がよりアニメに馴染んだ形でそのまま描写されており、シーンが移り変わる度に感嘆の連続であった。
とくに海に訪れれば背景の波がちゃんと動いているのは何気にすごい仕事ではないだろうか。まあ実際の湘南の海は細かい泥砂が海の中で舞ってしまっていて、近くで見ると汚い灰茶色をしている。だのに沖縄のような透明度のある青色で描いてしまっているのは完全に「嘘」ではあるんだけどそれはそれでいい、真実は地元民の心の胸にしまっておくのが礼儀だろう(笑)

【そしてココが熱い!:「空気」と戦うブタ野郎の大告白(1)】
最大の魅力は単行本第1巻、桜島麻衣をメインヒロインとする『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』をアニメ化した第1~3話のエピソードであろう。『電撃文庫』での長期刊行を勝ち取ったラノベシリーズであるだけにその始まりの物語は面白く、熱く、そして感動的である。
{netabare}加速する麻衣の認識阻害は主人公の咲太へも伸びていく。どれだけ強く麻衣を意識しても眠ってしまえばその意識は途切れてしまう。そのまま誰もが麻衣のことを忘れてしまい、彼女を認識することは出来なくなる。世界の誰にも観測されなければその対象は世界で存在しないに等しい。こんな馬鹿げた公式を成り立たせるために。
それを知った咲太は眠らないようにする。自分が桜島麻衣という存在を繋ぎ止める唯一の観測者になろうとする。けれどもそれは生物学上、只の無謀だ。2日、3日、4日と経つ毎に不眠を貫く咲太は憔悴してしまう。大抵は欲求に負けて眠りこけてしまうのだろうが咲太の──主人公としての──強い意思如何によっては死ぬまで続けても可笑しくはない。そう思わせる狂気をはらんだ展開である。
そんな彼の戦いにタオルを投げたのは麻衣だった。

『お休み咲太……さよなら』

薬を盛られて朦朧とするも、眠りと忘却に抗う愛しの男子の頭を撫でながら、彼女は永遠の別れを優しく告げる。1話2話で描いた認識されない恐怖と不安と孤独感、そしてせとちゃんこと瀬戸麻沙美の演技も相まって非常に切ないシーンとなっていた。{/netabare}

【そしてココが熱い!:「空気」と戦う青春ブタ野郎の大告白(2)】
{netabare}こうして一時は咲太も麻衣をいないものとして扱う「場の空気」に囚われてしまうが、自身で書き残しておいた日記や理央からのメモ、そして意識を失う直前の「ホショウ」という漢字の記憶がトリガーとなり、咲太は記憶を取り戻す──ここらへんの下りがややアッサリと感じられるのは、より“尺”が限られるアニメ特有の問題にあるのだと思う。麻衣編を3話に全部納めたのは収納上手過ぎたかな──。
場の空気────「レッテル」とも言うのだろう。周りが1度こうと定めたものは簡単には覆らない。そして学生にとっての周囲は学校────学校こそが少年少女の「世界」そのものということになる。そして大抵の人間がその世界の「常識」や「無意識」といったものに何の疑問も抱かず──或いは疑問を抱くことすら恐れて──迎合していく。
これらに個人が立ち向かうことは紛れもない無謀であり、だからこそそれをやってやろうとする主人公が青臭くもエネルギッシュ、素直に書けば格好良い。そしてラノベ原作特有のモノローグが本作においてはかなりいい味を出している。

{netabare}いつも僕を年下扱いでからかってきた彼女。お色気ネタで自爆して、顔を真っ赤にしていた彼女。その失敗を隠そうとして意地になって強がってた彼女。ワガママで、女王様で、気分屋で、そのクセ意外とウブだった一つ年上の先輩────もう無視なんかさせない。見て見ぬフリなんかさせない。出来ないくらいに、みんなの記憶に刻み付けてやる!{/netabare}

そして世界の中心ならぬ「校庭の中心」で愛を叫ぶ咲太。『麻衣さん好きだ』と聴いているこちらが恥ずかしくなる位に連呼する。そう他者に思わせることこそ麻衣を観測させる唯一の方法だ。
恥ずかしいだろう。後で教師に大目玉も喰らうであろう。あまりの羞恥に学校にも通えなくなるかもしれない。そんなリスクを確定的に負ってでも彼女の存在を繋ぎ止めようとするのは、もはや善意や成り行きでは成り立たない。
空気と戦うなんて馬鹿馬鹿しい。そう言っていたスカした男子が「空気」と戦い、愛を取り戻す。咲太は麻衣を愛し、愛する者のためならどんな恥もかける男────理央曰く“青春ブタ野郎”なのだ。
こちらも人によっては「こんな簡単なことで……」と思ってしまう輩も少なからずいる様だ。そんな輩にも向けて相談者・理央は最初の事件をこう締め括る。

{netabare}『まあでも、私たちの世界なんて告白一つでガラッと変わってしまうくらいに単純なのかもね。梓川が証明したようにさ』{/netabare}
{/netabare}

【総評】
著名な電撃文庫ノベルや化物語全盛期を思い出すような作品だ。
スカした男子主人公にツンデレ風味なメインヒロイン、そして豊富なサブヒロインたちと織り成す青春物語は既視感が強く、一見すればハーレムものかと勘違いするような展開も描かれる。しかし得体の知れない思春期の悩みを大袈裟に具現化し、そこに高校生らしい知恵と力、とりわけ「胆力」を駆使してぶつかっていく主人公の熱血ぶりを観れば年甲斐もなく心が燃える。その抽象的で観念的なファイトを面白いと思うかどうか。この点が本作への評価の分かれ目となるのだろう。
なので本作の重要用語である『思春期症候群』にどうしてもリアリティや整合性を求めてしまう様な輩がいるなら、その方にはお勧め出来ない。この現象を化学的に証明することは科学部員の理央の口からも不可能を唱えられており、本作で解説するつもりは全く無い。思春期症候群は完全なるファンタジーに両足を突っ込んでおり、それこそ物語シリーズの怪異と何も変わりはしない。ただそう考えればいちいちそんなナンセンスな追求をして不満を募らせながら本作を観る、ということは誰もしないだろう(笑)
物語シリーズとの最大の違いは「大衆」の有無であるのは間違いない。前者は主人公とヒロインを中心に、怪異の内容と他登場人物を描くのみで不思議と世界を成立させている作品だ。だからこそ物語の主役ではないモブは抽象的かつおざなりに描き捨てて主要人物たちへのクローズ・アップに注力している(シャフトにそこまで手の回るリソースが無いという方が正しいかも知れないが笑)。比べてこちらはモブこそが重要であり、登場人物は皆、大衆による「他己評価」に振り回されることになる。麻衣もそうだし、次のメインヒロインとなる古賀朋絵{こが ともえ}や咲太の妹・カエデが特に解りやすく、現代のSNSの絡んだ若者コミュニティに翻弄されることで各々が別の思春期症候群を発症していくのである。
咲太の様な「他人からどう思われてもいい。関係ない」という毅然とした態度も最適解とは言えず、彼らの本音や結論ではない。そんな思春期高校生たちの緻密で繊細な感情が現代社会で無意識的に構築された「空気感」でより浮き彫りとなっている。その影響を強く表現するために大衆はメインの登場人物と遜色無いクオリティで描かれ、背景となる藤沢の描写にも注力している。
【青春怪異】という称号は永らく物語シリーズだけに与えられていたものだが、その系譜を継ぐかのように現れ同じく10年以上はオタク界隈を盛り上げている。それが“青ブタ”シリーズだ。今さら呼称するにはもう随分と時が経ちシリーズ展開も終盤となってしまったが、この作品こそが“次世代”の青春怪異────少女の内面にある闇とそれを払おうと奮起する主人公という男女の青春劇を描いた素晴らしい作品なのである。

投稿 : 2024/06/19
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サンキュー:

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