てとてと さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
サムライと西部劇とレース。面白いんだけどやや方向性が分かりづらい
P.A.WORKSのオリジナルアニメ。明治後期にアメリカに漂着した日本人ふたりが、アメリカ横断自動車レースに挑む活劇。
※作品データベース様より転載
【良い点】
ストーリーの着想がユニーク。
未だ明治維新や幕末の気風が残る日本人がひょんな事から(このひょんな事が破天荒で既に面白い)アメリカに漂着、
この時点で面白い予感だが更にアメリカ横断カーレースに出るぜ!?
奇妙奇天烈な展開だがあり得なくもない?と思わせるフィクションの舞台設定でワクワクさせる。
サムライが何故か英語通じてたり、史実とは異なるカーレースなどのフィクションの嘘も上手い、こういうのはアニメの醍醐味の一つ。
刀で銃弾斬るなどの外連味もアニメならではで良かった。
作画も良質でアクションも見応えあり。
19世紀末〜20世紀初頭のアメリカの良き雰囲気。
日本より先んじた文明が発展しつつある黎明期、荒々しいフロンティアな感じや、異邦人に対する奇異と許容のバランスなど。
主要キャラが日本の傾奇者とサムライ、中華系の女性レーサー、ネイティブアメリカンの少年、メキシコ系と思われるアウトロー兄弟、
欧州の貴公子とフィアンセなどなど…アメリカの非主流派たち。
ネイティブアメリカンのホトトは白人に親を殺され、中国系女性シャーレンは人種以上に性別の壁に苦しむ…
それでも復讐や挫折を乗り越えて前向きにストーリーが進む、舞台となるアメリカの人々もそんな彼らを許容する懐の広さを見せる。
ホトトに復讐の虚しさを諭したのは小雨だが、ホトトを救ったのは白人のアウトロー・ディランであったり、
シャーレンの実力をチームの白人監督が最後には正当に評価するなど。新聞や観衆も彼らを好意的に見ている。
フロンティアなアメリカを好意的に描写しているのも、作風が暗くならない要因。
自動車という新技術や輸血で命が繋がった事に対する感動など、文明に対する明るい希望。
また最終話、天晴がアメリカに残る選択したのも注目に値する。
この時代だと彼の才能と夢を思えば、日本よりアメリカで存分に暴れた方がいい。(この時代に限らないか)
日本人だから日本に帰国が当然という暗黙のお約束?に捉われなかったのは破天荒な天晴らしくて良いと思う。
主要キャラクターの個性と魅力は十分。
全員ではないが掘り下げや交流も丁寧、回が進む程にライバルながら良き仲間な気風が醸成される。
主人公天晴は最初の内は印象悪いが回が進むと成長、可愛げが見えてくる。
苦労人な女房役のサムライ小雨はコメディー要員からの後半大活躍、サムライの優しさと強さを示した。
他面々いずれも好感が持てる人物、アウトローたちがいずれも憎めない奴らだったり、GMのレース責任者セスも吹っ切れて見せ場ある等。
ストーリーの方向性はともかく、キャラクタードラマとしては回が進む程に面白味が増した。
主要キャラ同士の雰囲気が良いのと掛け合いが楽しいのも、多少のシリアスあっても概ね作風が明るくて見やすかった。
ギル一味とのシリアスバトルも、小雨が小動物に新ホトトと名付けてピンチ切り抜けたり、終盤のアクションがどこかコミカルだったり。
12話では「なんじゃこりゃああ!」と松田優作ネタかましたり。
【悪い点】
天晴の印象が序盤から長らく芳しくない。
最終的に可愛げ出てくるが、成長の切っ掛けや掘り下げがやや浅かった。
レースアニメと思いきやレースがメインでは無かったという、方向性の分かりづらさ。
ギル関連の話はハラハラして面白くはあったけれど、レースは台無し。
アメリカ横断というスケール感も感じにくい、レース物としてはテンポが悪く、また見所も乏しかった。
主要キャラ間の関係が良好なのは、身内で慣れ合っている感も。
ライバル同士が競い合うレース物としての盛り上がりにはマイナスにも働いた。
ラストも別に誰が勝ってもめでたい状態、アメリカ横断レースという企画自体が肩透かし。
ギルの暴虐が不快要素に。
底の浅い破壊者な上にモブに厳しい、作劇上の役割は分かるけれど、折角のポジティブな作風に水を差した感。
【総合評価】6~5点
独創的な題材でキャラもテーマも明るく面白かったけれど、凄く面白いか?と言われると、楽しみどころに迷うアニメ。
レースはオマケで、主題は当時のアメリカ舞台にしたマイノリティーたちの活劇と見れば、十二分に面白い。
ただその部分も深くはない、良くも悪くも雰囲気アニメの域を出られなかった。
とはいえ、1クールのオリジナルアニメとしては捨て難い魅力はある。
評価はとても良いには至らない「良い」