逢駆 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
~雲蒸竜変~
これは、怒りと嘆きに駆り立てられた闘争の物語であり
運命に身をなげうった者たちへの祝福の讃歌である―――――
『Fate/stay night』の前日譚としてあらかじめ結末が決まっているなかで、そこに至るまでの過程を魅力的かつ重厚に描かれていた作品です!
一般的に多くのキャラクターを出すほど一人一人の存在が希薄化してしまうことがあるのですが、
7組のマスターとサーヴァント、それを取り囲む人物たち、どのキャラクターも強烈な存在感がありとても見応えがありました。
またお互いが他の人の魅力を引き立てているところも印象的。
ケイネスのような魔術師がいるからこそ近代武器を使っている切嗣の異様さが際立ったり、
キャスターのような悪逆非道な外道がいるからこそウェイバーの成長が輝いて見えたり…
各キャラがそれぞれのベクトルで突出した魅力を放っているので、そのぶん他のキャラの特性がより強調されていて見事でした。
◆聖杯戦争に参加する各陣営◆
【セイバー陣営】マスター:衛宮切嗣
{netabare} 騎士道精神を重んじるセイバーに対し目的のためならどんな手段も辞さない切嗣。
正反対な考えのために終始冷えきった関係でしたが、どこか似通った点が多かったように思います。
マスターには無視され続け、ライダーに王としての在り方を一蹴され、
ランサーの最期を見て、バーサーカーの思いを知って…
セイバーは次の聖杯戦争に何を思ってのぞむのでしょうか。
stay nightにも繋がっていくこの二人は、そこで初めて絆を感じることができるのかもしれません。{/netabare}
【アーチャー陣営】マスター:遠坂時臣
{netabare} この陣営は裏切りと欲望が入り混じりサーヴァントの裏切りによってマスターが死亡する結果に。
ただやはり英雄王・ギルガメッシュにはとても惹きつられました。
ライダーの考え方も綺礼の考え方も賛美する彼の姿はまさに英雄王にふさわしいと思います。{/netabare}
【アサシン陣営】マスター:言峰綺礼
{netabare} アサシンの活躍はほぼ見られませんでしたがマスターである綺礼の心情は丁寧に描かれていました。
悪に堕ちることで快楽を得られるということを知った彼はどんどん悪に染まっていきます。
気まぐれで凛にアソッド剣を渡したときにはほぼstay nightの言峰綺礼になっていたように感じました。{/netabare}
【ライダー陣営】マスター:ウェイバー・ベルベット
{netabare} ライダーの最終宝具・王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)。
それは剣でも槍でもなく同じ大地を駆け抜けた朋友たちでした。
誰でも持てるわけではなく、誰にも奪うことはできない宝。
彼らとの絆こそが至宝であり、征服王が誇る最強宝具であると。
本来ならばマスターに従うべきはずのサーヴァントですが
征服王・イスカンダルは王としてウェイバーを導いていきます。
令呪がなくとも心で繋がる真の絆。主従関係が逆転したラストのシーンには涙が出ました。
漢の背中から学んだ生き様はウェイバーにとって計り知れないぐらい大きなものだったと思います。{/netabare}
【ランサー陣営】マスター:ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ
{netabare} この陣営もマスターとサーヴァントとの関係が最悪だったうちのひとつ。
フィオナ騎士団随一の戦士であるディルムッド・オディナは、
ただ忠義を果たすことだけを願い召喚されましたがそれすらも叶わず悲運の最期を迎えます。
怨嗟を叫びながら消えていった槍使いの狂気に満ちた姿は、英霊というより悪霊に近かったです。
ケイネスに関してもどこまでも報われることはなかったですが、
この陣営が本作により深い味わいを出していたことは言うまでもありません。{/netabare}
【バーサーカー陣営】マスター:間桐雁夜
{netabare} 物語上、絶対に頂点に立つことはないのがはっきりとしているのに応援したくなる陣営。
結局、雁夜は葵を助けたかったわけではなく、葵を助けた恩人になりたかっただけでした。
偽善による行為が報われないどころか最悪の方向に向かってしまうあたりも本作の魅力と言えます。
バーサーカーについては戦闘シーンは良かったものの心理面が少し描写不足だったかなと思います。{/netabare}
【キャスター陣営】マスター:雨生龍之介
{netabare} 互いに他人の話を聞いていない感じだったのに、なぜか当人同士は意気投合していた陣営。
この二人は散々場を掻き乱したあげく報われた最期を遂げていました。
あれだけ生き生きした表情で死んでいったのはこの陣営だけだったと思います。
特に青髭ことジル・ド・レェは、自分の過去の行いに後悔し歪んでしまっていました。
しかしラストでかつて自分もまた一人の騎士として馳せていた日のことを思い出しました。
見失っていたモノを思い出したキャスターの最期はとても救われていて、
本作でも特に素晴らしい散りざまだったと思います。{/netabare}
『一度は人生を終えた者たちが後悔の念とともに蘇って挑む人生のリターンマッチ』
成すべきことをして死んでゆくのか、後悔を取り払えないまま死んでゆくのか。
現代に蘇った英霊たちの『散り様』に注目して観ていましたが
結果、最も後悔し絶望している者と最も後悔してない者が生き残るというやや皮肉な終末を迎えました。
あくまでも『Fate/stay night』の前日譚としての作品。本作だけでも楽しめますが、ラストで感じる空虚感を満たすためにはやはりstay nightを観る必要があるなと感じました。
運命に抗う者や、運命を直視する者。
様々な“運命=Fate”が描かれた本作は単純にバッドエンドとは言えない重厚な物語となっています。