「リコリス・リコイル(TVアニメ動画)」

総合得点
87.0
感想・評価
1026
棚に入れた
2865
ランキング
174
★★★★☆ 4.0 (1026)
物語
3.7
作画
4.2
声優
4.0
音楽
3.9
キャラ
4.0

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ネタバレ

アジオフライ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 2.5 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

「良いアニメ」ではないが「楽しいアニメ」

{netabare} 脚本は決して良い出来ではないですね.SF作品として観ると,そもそもの舞台設定の不明瞭さが目立ちます.その一方で,登場人物の心情描写に関する演出は神がかっていて,奇跡的なバランスでエンターテインメントとして大成した作品だったと思います.「良いアニメ」ではないけれど,とても「楽しいアニメ」でした.ただ後続作品は,こういう作りを追随しない方が良いでしょうね.

・舞台
{netabare} この作品の舞台は,表向きこそ世界随一の平和大国として名を馳せていた一方,犯罪者検知AI「ラジアータ」を使用する秘密組織「DA」によって,孤児の少女「リコリス」による重大犯罪者の超法規的な射殺が,秘密裏に行われている架空の日本となります.端的に説明するならば,『PSYCHO-PASS』の世界観をベースにした『GUNSLINGER GIRL』といった趣でしょうか.ただ元ネタと比べると,この設定の詰めは少々甘いように思います.そもそもラジアータの動作基準が不明瞭極まりないですし,SNSが頻出するような世界観で秘密裏の暗殺が成立するとも思えません.そして何より,治安維持のためとはいえ,孤児の少女を使った殺人が行われている点への悲壮感が全く触れられません.この作品が全編通して,結構明るい雰囲気の作風となっているのも相まって,相当不気味で強い違和感を感じました.{/netabare}

・心情描写
{netabare} 一方この作品は,主人公・錦木千束とその相棒・井ノ上たきなの心情変化が,明快かつ簡潔に描写されている点は特筆すべきだと思います.例えば3話では,DAを追われて居場所を失ったと感じたたきなが,自分の居場所として彼女を受け止めた千束に心を許す流れが,明快に示されています.そのため,千束とたきなの物語としてエンターテインメント的に割り切ってしまえば,舞台設定が詰められていない欠点もある程度許容できるかと思います.そもそもこの作品が明るい作風になったのも,『GUNSLINGER GIRL』という前例との差別化を図ったものです.ガンアクションを取り扱った萌えアニメとして新境地を開いたという意味では,その選択はエンタメ的には間違いではなかったのではないでしょうか.
 また,映像表現には強いこだわりを感じました.作画自体はよく観ると粗い作りでしたが,アクションシーンの動きに臨場感があふれているのみならず,日常生活の何気ない所作も丁寧に描く「静」の表現の妙も感じられました.{/netabare}

・人工心臓
{netabare} 中盤,千束が人殺しの才能を機関に認められた「アランチルドレン」として,虚弱だった心臓を人工のものにすることで生き永らえていたことが判明します.まるでゼロ年代の泣きゲーを彷彿とさせる展開ですが,押しつけがましさを感じないのは,登場人物が安易に涙を流さないからでしょう.また,犯罪者殺しを使命とされているDAに属しながら,敵味方問わず命を救おうとする彼女のキャラクターが,この「人工心臓」という設定を中心としているため,彼女の心情は大変分かりやすくなっています.そしてそんな千束のために行動を始めるたきなにも,感情移入しやすい構造となっているわけです.
 一方,その動きを阻もうとするキャラクターも登場します.アラン機関のエージェント・吉松シンジです.彼は世界の利益のため,千束の高い運動能力を殺しに使うよう画策します.その手段はかなり強引で,彼女の人工心臓を破損させるのみならず,代替機を自分の身体に埋め込んで,自身を殺して奪わせようとします.この作品は,登場人物が自らの主義や正義に基づいて行動しているので見通しやすく,その結論にいたるまでの感情の発露は心に訴えてくるものがあります.{/netabare}

・真島
{netabare} もう一人,この作品には千束たちに敵対するキャラクターがいます.真島と呼ばれるテロリストは,DAによって秘密裏に犯罪者が処刑され,人々が見せかけの平和と安全を享受している日本に疑問を投げかけます.そんな彼がとったのは,腕利きの若手ハッカー・ロボ太と共謀しての電波塔「延空木」ジャックと,東京中にバラまいた千丁の拳銃による民衆パニックの誘発でした.まさに『PSYCHO-PASS』の槙島聖護のようなキャラクターですね.
 しかし途中で,彼の目的は「千束との決着」になってしまいます.正直,拍子抜けでした.真島は,この作品に不可欠なキャラクターではなかったでしょう.そもそもこの作品は,キャラクターの心情描写の演出に長けている一方,SF作品としては舞台設定が脆弱だったため,作品世界の在りように疑問を投げかけるキャラクターが成立しにくいと思います.しかも作中には,既にDA(楠木)にアラン機関(吉松)にと,千束とたきなの対立軸が既に2つもある状況ですから,全13話の作品に組み込むには蛇足だったのではないでしょうか.結局物語は,真島との決着をちゃんとつけないまま,ある意味色々な要素を「投げた」形で幕を下ろしてしまいます.放送中後でかなりの人気を集めた作品ですし,私自身も非常に楽しめた作品ではありますが,突き詰めると脚本の粗が際立つ以上「良い作品」とは言えないのかな,と思います.{/netabare}{/netabare}

投稿 : 2023/03/27
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