「オッドタクシー(TVアニメ動画)」

総合得点
87.6
感想・評価
661
棚に入れた
2216
ランキング
146
★★★★☆ 4.0 (661)
物語
4.3
作画
3.8
声優
4.0
音楽
3.9
キャラ
4.1

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 5.0 作画 : 3.0 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

2、3度観ても飽き足らないスルメアニメ

偶然。奇跡。巡り合わせ────こういった要素を多分に含ませると心無い批評家からは「ご都合主義」となじられてしまう。正であっても負であっても。しかし現代サスペンスにおいては良い刺激(スパイス)だ。
この作品は面白いくらいに新宿────ひいては世間の“狭さ”を描いている。乗降客数世界一を誇る「広い」筈の新宿。そこで勤める“1頭”のタクシー運転手と友人、劇中の乗客全員が思わぬところである1人(1匹?)の女子高生失踪事件に繋がっていく。
こんな偶然あり得るか。そんな野次は捨てて是非ともご覧いただきたい。

【ココが謎:なぜ動物人間?】
日本は新宿が舞台である筈なのに主人公はセイウチ。ヒロインのナースはアルパカで医者はゴリラ、友人は白猿で飲み屋の女将はカンガルーetc.本作で登場するキャラクターは全て擬人化された動物で統一されている。『ズートピア』のような動物人間────というよりは人間の登場人物を動物で表現しているようにも見える(名前は日本人)。
各キャラを覚えやすくするためか?
或いはキャラクターグッズを作って売り捌くためか?
そんな邪推をしてしまう程にサスペンスというジャンルには不釣り合いなほのぼの動物アニメで第一印象を飾ってしまっている。
しかし、この“動物に見える”ということが最期の伏線になろうとは、観始めの時点では誰も想像だにしないであろう。

【ココが面白い:練馬区女子高生失踪事件(1)】
さて、主人公である小戸川(おどがわ)はセイウチでありタクシー運転手でもある。昼夜問わず不特定多数のお客を運び、決してお喋りではないものの口を開けば小粋とも偏屈とも言えるトークであらゆるお客に自身を印象づけている。そのおかげで乗客の誰もが小戸川というタクシー運転手がいることを覚え、また小戸川も一度乗せた客の顔は絶対に忘れない。たった1度の乗車で互いが互いに面識を得ることになるのである。
そういう下地があってこそ、展開されるのが面白い『練馬区女子高生失踪事件』。被害者は終盤まで名前すら明かされないのだが、確かなのは「1度だけ小戸川のタクシーに乗車した」ことであり、その記録も車内のドライブレコーダーに残っていたらしい。しかしその肝心のレコーダーは双子兄弟で警察官を勤めている大門(だいもん)兄の手によって押収されてしまう。
大門兄は小戸川を練馬区女子高生失踪事件の犯人と疑っているが、そう視聴者に思わせる点もいくつかある。
1番の理由はやはり彼が一人暮らしの部屋で「押し入れに向けて誰かに話しかけている」ことであろう。それが行方知れずの女子高生だとしたら、彼はなぜ彼女を匿っているのだろうか。違うとしたら、彼は一体「何」を匿っているのだろうか。
謎が謎を呼ぶミステリー、主人公すら「容疑者」だと疑わせるサスペンス。ほのぼの動物アニメーションと皮肉混じりの軽快なトークとは裏腹な不穏な雰囲気に視聴者はのめり込んでいく。

【ココが面白い:練馬区女子高生失踪事件(2)】
容疑者候補としてもう1人挙がるのは狒々(ヒヒ)の溝口恭平──通称“ドブ”──である。東京中にその名を轟かせているヤクザであり、指名手配犯でもある奴ならば女子高生の1人や2人拐ってても可笑しくはないと世間はそう思っているご時世だ。
しかしドブは小戸川のタクシーに乗り込むと拳銃を突きつけながらも『神に誓ってそんなことはしていない』と言う。逆にドブはボスの命令で行方不明の女子高生を捜す側におり、その手柄や上納金の額を後輩のヤノ(ヤマアラシ)と競っている最中であった。
第3の容疑者・ヤノ。彼はメジャーデビュー目前のアイドルグループ『ミステリーキッス』の後ろ楯(バック)に付いており、そのアイドルたちのマネージャー・山本(キツネ)が小戸川のドライブレコーダーを欲しがっている。奴らこそが女子高生失踪事件の犯人、そうでなくても大きな関わりを持っているに違いないと、ドブは踏む。
ドブはヤノを失墜させるため、そして自分を脅かす相手を全て排除するために小戸川のタクシーや類い稀なる「認識能力」を度々、利用するようになる。
脅されながらも堅気とヤクザが協力し合う奇妙な関係が築かれ話が続いていく。しかしその心内では悪を許せず、ドブやヤノの“シノギ”を白日の下に晒してやろうと小戸川の正義が燃え上がっている。只のタクシー運転手が裏社会相手にどんな立ち回りを見せるのか。それもまた本作を追う大きな楽しみだ。

【ココも面白い:「偶然」の8連鎖(1)】
本作最大の面白さは、序盤に見せた何気ないキャラクターの行動や台詞、そして「アイテム」に至るまであらゆる物が新たな展開に繋がり、最終的には女子高生失踪事件やその結末へ辿り着くという「巡り合わせ」を描いたところにある。簡単に書くなら怒涛の「伏線」と「伏線回収」で以て映像の力に頼らない純粋な脚本力を視聴者に叩きつけてくれる。
『呑楽消しゴム』という物1つとってもとんでもない展開となる。世界に1つしかないものの、たかが落語家の呑楽(どんらく)を象っただけのキャラ消しだ。これが第1話で先ずナースの白川の所持品として登場し、何気なく小戸川にプレゼントされる。
これが16年前、ピューマの田中が親のクレジットカードを盗んでまで手に入れようとし結局、彼が手にすることはなかった曰く付きの品であることが第4話『田中革命』で明かされる。

【でもココがつまらない?:田中革命】
話変わるが、この田中革命というエピソードは本作を視聴継続するか切ってしまうかの分かれ目となるくらいアングラな内容だ。4話までに気になる謎を一時、全部ほっぽってサブキャラ同然の田中の過去話をモノローグ付きで掘り下げていく。それも要は幼少期の消しゴム集めから現在廃課金しているソシャゲの話────1つのことに熱中して見境がなくなるギークな猫人間を延々と描写するのだ。人によっては少しも感情移入できない「くだらない」話であり、その時は完全に作品のテンポを阻害していると思ってしまうだろう。しかし、そんな過去話も根気よく追っていけば現在の時間軸に繋がるのである。
{netabare}往来ど真ん中で歓喜の涙を流し叫んでいる田中。彼は歩きスマホでガチャを回し続け、念願の最高レアをそのタイミングで引き当てていた。そこを「たまたま」急いでいた小戸川のタクシーが接触ギリギリで通ってしまう。
飛び退いた拍子に側溝へ落として破損・水没してしまったスマホ。後日、端末を直してデータを復旧しても引き当てた最高レアは無かったことになっていた。
恨むべきはあんな所でガチャを回していた田中自身だろう。しかし、彼は「自業自得」ということで被った怒りを『呑楽消しゴム』の件で納めてしまっている。今回もそうするほど、できた人物ではない。
同じ日に可愛がっていたペットのオカメインコが死んでしまう。これも只、インコの天寿(15~6年)を全うしたに過ぎないのだが、田中にとってはどうして悲しい出来事が2ついっぺんにやってくるのか理解できない。この世に神様がいるのだとしたら刺し違えてでもこの悲しみや怒りをぶつけてやりたい。そんな破滅的な心境に陥る。
そしてペットを埋葬しようと木の下を掘ると、彼は見つけてしまう。引き金1つで人命を奪い取れる圧倒的な武器──「拳銃」──を。これまた偶然にもドブが小戸川の脅迫に持ち出した後、念入りに隠そうと木の下に埋めていた奴の持ち物であった。
只でさえ理性のタガが外れやすく、課金依存症の気もある田中という人物を丸々1話かけて描いた状態。当然──否、天命を受けたか──の様に拳銃を持ち出して街を彷徨う彼は、タクシーを走らせる小戸川を見つけると、ニタリと醜悪な笑顔をドアップで我々に見せつけるのである。
本来、どのキャラクターとも関係が無い田中が正に「運命のいたずら」によって群像劇の中心にいる主人公をつけ狙う“追跡者”として参戦。このいつ・どこで謂れのない恨みを買うのかが解らなくなるような、決して他人事ではない顛末には思わず怖気が走ってしまう。{/netabare}

【ココも面白い:「偶然」の8連鎖(2)】
このような偶然やキャラクター間の隠された関係は他にも沢山用意されており、とくに後者は「この2人が繋がっていたのか」「こんな因縁があったのか」と毎回、驚かされてしまうし、判明しない内に予想・考察するのも楽しい時間となる。
{netabare}ミステリーキッスのメンバーとマッチングし盲目の恋のまま貢ぎ続けていたら実はヤノの仕掛けた美人局(つつもたせ)で手酷くやられてしまう柿花、第1話で撮った小戸川との2ショット写真に偶々写ったドブのおかげでバズると調子に乗って私人逮捕系YouTuberの様な活動に傾倒してしまう樺沢太一(かばさわ たいち)、小戸川の羅列した番号で当てた10億円の宝くじをSNSで報告してしまいヤノとドブに狙われてしまう今井etc.{/netabare}
事件とはまるで無関係な一般人が風刺の効いた形でヤクザたちに絡む展開となっており、とくに迂闊なSNS利用は現実で最も頻発するトラブルであるだけにそのリアリティにも感服してしまう。

【そしてココがすごい!:真相を覆い隠した叙述トリック(1)】
偶然の連鎖から実に30匹弱もの動物キャラクターを1つの事件やヤクザの抗争に関わらせた壮大な群像劇。それが本作であるのだが、やはりストーリーを追う時点ではキャラが動物人間である意味合いが限りなく薄い。どうして主人公がセイウチで、他も人間ではないのだろうか。
{netabare}実は動物に見えているのは小戸川唯一人だけであり、彼らは始めから全員、人間だったのである。小戸川は幼い頃に培った人間不信と交通事故のショックで人間が動物に見えるようになってしまい、然れど都合が良いのでおよそ30年もその状態で生きてきた。この作品は動物が人間のように振る舞う世界観であるという思い込みを利用した「叙述トリック」を仕掛けていたのである。
これは勘の鋭い人なら序盤から気づけるが、鈍い人は恐らく最終話のタネ明かしまで気づくことはできない。私は中盤辺りでなんとなく察することができたのでまあ、普通くらいかな(笑) 2週目を観るとこの事実へのヒントが劇中随所に散りばめられていたことも解り、新たな発見に二度、驚く仕掛けにもなっている。{/netabare}
{netabare}さて、そんな叙述トリックが話のどこに関係するのかというと、思いっきりオチである。
ドブの『オッドタクシー作戦』をぶち壊し、ヤノ陣営に追われてタクシーごと海へ飛び込んだ小戸川。これが嘗ての交通事故に酷似していたおかげか、目を覚ますと正常な視界に──人物は全て人間に──戻っていた。
行方不明の女子高生は死体で上がり身元が判明。それはミステリーキッスのメンバーの1人・三矢ユキであり、劇中で活動していた三矢ユキは山本が用意した替え玉であった。
この替え玉こそ、本物の三矢ユキを殺した真犯人だったのである。{/netabare}

【そしてココがすごい!:真相を覆い隠した叙述トリック(2)】
{netabare}全てが彼女にとって都合良く事が運んだ。殺した三矢はリーダーの二階堂ルイが呼び出しており、動機も固い。なのでマネージャーの山本も心内ではルイが殺ったと思い込んでしまい、然れどミステリーキッス存続のために穏便に済まそうと後ろ楯のヤノ陣営と共に遺体を解体、海に投げ捨ててしまったのである(この義理があってミステリーキッスはヤノのシノギを一部、手伝うことになる)。
結果、真犯人に繋がる物的証拠が出る筈もなく、逮捕されたのはルイ・山本・ヤノ・関口の4人。真犯人=和田垣さくらは彼らにとって冤罪である殺人罪を擦り付けることに成功したのだった。
残るは自分が事件当日に事務所へ向かった証拠となる小戸川のタクシーにあったドライブレコーダーのみ──これは既に大門兄の手で押収されているので懸念しても手遅れなのだが和田垣には知る由もない──。彼女は芝公園で休憩する小戸川のタクシーに再び乗り込む。
これまで1度乗せた客を絶対に忘れなかった小戸川ももう彼女の顔を覚えていない。彼の類い稀なる「認識能力」は人間が動物に見えてしまう「病気」にあった。
本物の三矢も三矢を演じていた和田垣も同じ「黒猫」として見ていた小戸川にとって、人間の少女となった和田垣が自分を殺してレコーダーを奪い取ろうとしていることなど、微塵にも思わないのである。
『どちらまで?』と尋ねる小戸川に対し、後部座席に乗った和田垣がニッコリと微笑むところで、物語は締め括られる。{/netabare}

【他キャラ評】
ホモサピエンス(柴垣&馬場)
{netabare}一見無関係な人物がまさかの所で絡んでくる────という展開を連発する作品だからこそ「何か関係してきそうだけど最後までそこまで重要じゃなかった」キャラも笑って赦せてしまう。ホモサピエンスはそんな本作を彩り、視聴者をミスリードする漫才コンビだ。
彼ら自身が骨太なサイドストーリーの主役でもある。口は悪いがお笑いに対する熱い情熱で相方を引っ張っていく柴垣{しばがき}と、そこまで意識が高くなくとも相方を諌めつつ付いていこうとする馬場{ばば}。上京してからいまいちブレイクしない2人の仲は劇中で大きく歪んでしまう。{/netabare}
{netabare}「コンビ格差」というヤツであろう。ホモサピエンスとしてではなく馬場ピンでの仕事が舞い込み彼だけの人気が集中していく。まあみ○ぞん然りや○子然り、現実の芸能界の流行的に考えても当然な抜擢であろう。コンビで売るには柴垣のヒートアップ癖がそのまま炎上に繋がりそうで使う側も怖い(笑)
彼らは某漫才大会に勝ち上がりながら各々の仕事をこなしていくが、次第に馬場の方がネタ合わせの時間を確保出来なくなってしまう。弥の明後日{やのあさって}の予定まで訊く柴垣とそれを断る馬場の気まずさよ……。
元は相方に発破を掛ける意味で柴垣が宣言した“負けたら解散”も現実味を帯びてきてしまう。1人で売れている馬場はいつの間にか強気になっており、コンビ解散など何の脅しにもならなくなっていた。そして敗者復活戦当日、密かな相方への不満をぶちまける。

{netabare}『お前昔の方がオモロかったで……腐っていくお前もう見てられへんねん。今流行っているドラマも映画も売れてる芸人も全部『オモんない』って────それってもう“お前が”ズレてんねん』

『お前が漫才好きなんもよう知ってる。俺がそれの足引っ張ってんのもわかる。だからごめん柴垣……今日で解散させてくれ』{/netabare}

これがメンタルに来てしまったのか、柴垣は鉄板ネタの披露中になんとネタを飛ばしてしまい、復活戦敗退。ここまで追い込まれて柴垣はようやく自分が間違ってたことに気づいたのだろう。
自分は相方に厳しくしたかったんじゃない。そもそもそんなことするような上下関係じゃない。
1人お笑いで売れたいわけでもコンビで売れれば誰と組んでもいいわけでもない。素人でも柴垣1番の理解者である長嶋の誘いを蹴ったのもこれが理由だ。

自分が相方と一緒に漫才をやり続けたい。この気持ちをたった1度も相方に伝えたことがなかったんじゃないか、と。

コンビの顛末自体はエピローグの勢いに任せてダイジェストで流すという雑な作りになってしまっていたが、2キャラには本物の漫才師を起用したこともあって会話や漫才の空気を見事、再現しており本編そっちのけで中々、見応えがあったと評する。{/netabare}
{netabare}余談だがこの『ホモサピエンス』というコンビ名、思えば堂々と本編のネタばらしである『人間』を表しており、2週目を観てる途中で「そういうこと!?」と膝を打ったものだ。{/netabare}

二階堂ルイ(にかいどう - )
自分ケモナーではないんですけどね、可愛いねこのトイプードル娘! 今井がゾッコンなのもわかるわ~
神の視点だからこそアイドルではない彼女の裏の姿も見放題なのだが────殊勝。ファンを見下したり気持ち悪がったりすることはない、然れど自分たちミステリーキッスがのし上がるためにファンは食い物にしていかねばならない。もっと魅了してもっとお金を出させる。そのためのファンサービスは決して手を抜かないという心情の吐露はそのままファンへの売り物になりそうな健気さだ。
{netabare}それだけに三矢ユキへの「殺意」は本物であったことだけは残念。本物だからこそ遺体遺棄を手伝ってしまったのかな……もっと早く馬場と出会って「負けてもいい」という生き様を学んでいれば、遠回りでもアイドルの夢・武道館ライブを実現できたかも知れないのにね。ブタ箱に一度ぶちこまれた者はもう──
でも人間体の儚げな表情も良いよね!{/netabare}
【総評】
2、3度観ても飽き足らないスルメのようなアニメだと評する。
事件の概要は終わってしまえば大したものではなかったと言える。{netabare}アイドルの卵であった女子高生が同業者に殺され隠蔽される{/netabare}のは米花町では日常茶飯事以下のレベルであり、だからこそ多人数が個々の事情を抱えて参入する【群像劇】として本作は複雑化されているので観づらいといえば観づらいのかな、とも思えてしまう。
しかしその中心に主人公兼タクシードライバーの小戸川を置いて「言葉のプロレス」のような会話劇を繰り広げさせることにより、言わば『化物語』の様な聴いて楽しい作品として最期まで観客を惹き付けていく。
とくに皮肉屋な小戸川と負けん気の強い白川を象徴する『ジェネレーションギャップアピールいらねぇんだよ』から始まる2人の応酬は、絵面はセイウチとアルパカなものの“ひたらぎ”の様な関係性をも思い起こさせて好ましい。群像劇の中に漫才コンビを入れ込む辺り、脚本家は漫才がすごく好きなようで話の脱線具合が正にそれである。
見た目の世界観も話の牽引力を補強しており、マスコット的な動物たちの可愛らしい世界でありながら、それとは裏腹に物語の主軸はアウトローであるというアンバランスさが初めに物語にしっかり引き込んでくれる。
そういう風に視聴者を引き込んだところで──
主人公のトラウマとは何か?
ラジオで流れてきた事件の詳細は?
テンポよく会話するけれどもこの2人はそもそもどういう関係?
──といった数々の謎を掲示していく。本作への興味・関心が高まったタイミングでの掲示なので自ずと視聴者は謎にのめり込んでいく筈だ。
謎を紐解いていく中でもしっかり飽きさせない。上記した通りに会話は勿論、各キャラが持つ劣等感や正義などといった「感情」も綺麗に生々しく描かれているのがすごい。四十代で結婚したくてマッチングアプリを始めたり、負けるのが嫌で自分にも他人にも厳しくしてしまったり、さらにはSNS上での承認欲求が暴走してしまったり────と、とても現代的な自分の曲げられない信念が人間臭い感じで描かれているため、各登場人物のキャラクター性が確り立っており感情移入も容易なのである。
だからこそ本作は声優や作画といった要素をウリにせず、且つ話題性を獲るための実験的な試みを随所に入れている。そのどれもが失敗しない程度の「計算」をされていて秀逸と言えるだろう。ミステリー兼サスペンスというジャンルで作画がポップでもBGMや主題歌で雰囲気を作れば全然許容される。芸人役には本物のお笑い芸人、双子の兄弟役には本物の双子、そしてラップ調で喋るキャラには本物のラッパーを起用することで声優初挑戦ながらその違和感が殆ど伝わってこないよう配慮されていた。
ここぞという主要キャラにはちゃんと本職の方々を起用しているが、こちらも驚き。41歳の小戸川に声を当てるのはあの花江夏樹であり、いつもの少年役ではなく見事、皮肉屋なおっさん声を再現していた。彼の意外に広い演技幅も見所──否、聴き所──の一部であろう。
本作を肉付けするサイドストーリーは観づらさの要因になっているかも知れないが、「これなしでもOK・より楽しむために」という精神を忘れないながらにしっかりと核心を突いてきており、個人的には脱帽ものだ。だからこそ謎が解かれた2周目・3周目といった繰り返しの視聴の度に本作はより味わい深いものとなっている。
決め手は最後の大どんでん返し。その内容も予想の範囲内レベルではなく革新的。何より伏線をほぼ全て回収して視聴者を驚嘆させてくれる。この綺麗な終わらせ方はジャンル違いながら『魔法少女まどか☆マギカ』を彷彿とさせるものがあり、何よりあちらと違ってゾクゾクと怖気が走るようなオチとなっている。これはアニメ界でもかなり珍しい。
それ故に総集編兼続編となる『オッドタクシー インザウッズ』は蛇足感漂うが、残された謎を回収するならあちらを続けて観るのも乙である。そしてオーディオドラマ『幸せのボールペン』。これは絶対試聴して欲しい。各キャラのさらなる掘り下げ、謎を解く鍵、そして本作の秀逸なオチに箔がつく。YouTubeで無料公開されているので本作と合わせて楽しんでもらいたい。

投稿 : 2024/05/04
閲覧 : 131
サンキュー:

8

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