薄雪草 さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ツンでもなく、デレでもなく、今でもなく。でも、それだって恋。
ジャパンノベルのSFジュブナイル作品としては、55年にも及ぶロングフォーマット。
そして、いくつものバリエーションモデルを世に打ち出している恋のデザートプレートです。
「青春群像作品」が、映画館からテレビ放送へと移行するときに出現した稀代のアンカーポイントでもあるし、何度でも原点に立ち返り、また、明日へと跳ね上げてくれるスプリングボードにもなっています。
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本作を観るたび、本棚のアルバムには特別な魔法がかけられます。
誰もが未来を疑わなかったし、誰ともエネルギッシュを尽くした高校時代。
自由を謳歌し、可能性に甘苦して、破天荒だったけれど、風のように駆けぬけた3年間。
数学の高次方程式は、てんでうわの空のくせに、恋の三角関数の謎ときには、汲々と入れあげては笑いあった。
昼休みには屋上まで駆けあがって眩しい陽射しに打たれ、放課後には図書室の秘やかな静謐に身を置いては思索を巡らせていた。
そんなクラスメイトたちとのワンシーンが、いつの間にかカラフルな息吹きに彩られていくのです。
真琴が跳躍するたびに、センチメンタルなノスタルジーがどうしようもなく掻き破られていくのです。
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本作は、1967年の鶴書房盛光社刊行版を踏まえたシナリオにもなっているので、現役高校生から先輩方(75歳くらい?)までの幅広い世代に共感しうるDNAを持っています。
それは、昭和から平成にかけての価値観が雑多にミックスされるもので、いろんな新陳代謝が混ざりあい、愉快な茶話会談義も開けそうなものです。
そんな世代間の青春像を、本作は "たった一言" にまとめ上げます。
「お前を未来で待っている。」
千昭のそれは、真琴や巧介ら、現役世代への期待値です。
きっと「未来を創造していくのはお前たちなんだぜ。」っていうことなんでしょうね。
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真琴のタイムリープは、事の大小に無頓着な、謂わば "ハチャメチャなたられば"。
楽観的にも稚拙にも見えるのは、数学Ⅱの小テストに9点しか取れない彼女の知性に窺えそうです。
でも、女の子の魅力はそんなところで留まるものじゃあないんです。
千昭のそれも、消失した絵画を観たいという、なにぶんに "手前勝手なたられば"。
巧介を挟んで真琴とキャッチボールをするのは、歴史に干渉しないギリギリのお作法とも言えそうです。
でも、男の子の勇気もそれだけじゃあ留められないってことなんでしょうね。
Time waits for no one.
時は待ってはくれない。
だから、未来への責任を果たしていく。
若さに呆(ほう)けて、大事を取りこぼさないように。
小事に感(かま)けて、あとでほぞを噛まないように。
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タイムリープなんて "極上のシロモノ" を、高校生風情の欲得勘定で使うなら、真琴や千昭の "たられば" が関の山なのかもしれません。
そもそも平凡な毎日に起きる変化にも、無気力・無関心・無責任な手合いでやり過ごすのが、当時世代の定番と言えば定番。
でも、いつの時代でも、悪気のない無邪気さと、真摯にすぎるひた向きさで突き進むのも、当代世代の特権と言えば特権。
イージーゴーイングに任せた若者らしさという落としどころです。
ですが、千昭のメッセージは、真琴の一歩先を予見させるものです。
過去と未来とをつなぐのは今の行動なんだと。
だからでしょうか・・・。
どんなにささいなことにも全身で跳躍していく真琴をつい応援したくなります。
後頭部、打ってばっかりなのが、どうにも痛々しいのですけれど・・・。
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ツンでもなく、デレでもなく。
友情も、恋心も、何でもありなのがハイティーンの可能性。
だから、なかったことなんてなりはしないし、できもしない。
全部を抱きとめて、何度でもダイブして、まだ見ぬ世界のバイアスをカチ割っていく。
それが "時をかけるお約束" なのです、ね。