かがみ さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
虚構の時代の申し子
「宇宙戦艦ヤマト」のヒットを契機として1970年代後半以降のアニメは従来の子供番組としての立ち位置を脱して当時のユースカルチャーの一つに成長しつつあった。そしてこの流れを決定的にした作品が本作「機動戦士ガンダム」であった。
人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになってから半世紀あまりが経った宇宙世紀0079年、地球からもっとも遠いスペースコロニー群サイド3はジオン公国を名乗り地球連邦政府に独立戦争を起こす。こうした中でサイド7に暮らす少年アムロ・レイはジオンの空襲で焼け出されたことがきっかけで連邦軍の新兵器「ガンダム」と出会い、ジオン対連邦が繰り広げる「一年戦争」にその身を投じることになった。
主人公アムロは自意識と社会との距離に悩み傷つきやすい内向的な少年として設定されている。そしてアムロ最大の宿敵であるシャア・アズナブルもまた「赤い彗星」という二つ名で知られるジオン軍のエースパイロットという表の顔とは別に亡父の復讐を目論むジオン公国建国者の息子という裏の顔を持ち、さらにその内面は戦争の大義も復讐の価値にも自身の生の意味を見出すことができないというニヒリズムに蝕まれている。そして、こうしたアムロの内向やシャアのニヒリズムは共に「政治の季節」が終わり、今や「革命なき時代」を生きる当時の若年層の気分と見事に同調していったのである。ここからさらに本作の革新性として以下の三点を挙げることができるだろう。
第一に本作は「宇宙世紀」という架空年代記を構築して、この偽史に基づき登場人物たちの行動を徹底的にシュミレートすることで、極めて高度なリアリズムに裏打ちされた物語を生み出すことに成功した。また「宇宙世紀」の緻密な設定はこの時期のオタク系文化に顕著であった個々の作品の背景にある世界観設定を消費する「物語消費」の要請に結果的に対応することになった。
第二に本作は「モビルスーツ」という名の工業製品へとロボットを再定義することで、従来の「鉄人28号」や「マジンガーZ」に代表されるロボットアニメにおいて反復された主人公の少年が機械仕掛けの身体を操り仮初めの社会的自己実現を成し遂げるという戦後日本的なアイロニズムに規定された成熟観をより批判的に継承することになった。
第三に本作は「ニュータイプ」という概念を導入することで、従来の戦後日本的成熟観に規定された主体に代わるオルタナティブな主体を提示することになった。ここでいう「ニュータイプ」とは宇宙環境に適応した超空間的コミュニケーション能力を持った主体のことを指しており、もともとはただの少年兵であるはずのアムロが短期間でエースパイロットに急成長する展開に説得力を与えるための設定に過ぎなかったが、やがて本作が社会現象と化していく中で当時の新しい情報環境の台頭と消費社会の進行に適応した新しい感性を持つ新人類世代の比喩として理解されるようになった。
確かに本作が描きだす「ニュータイプ」という主体は同時代に一世を風靡したポストモダニズムが称揚する「パラノ・ドライヴからスキゾ・キッズへ」「ツリーからリゾームへ」というパラダイムシフトにも共鳴しているといえるだろう。この点、社会学者の見田宗介氏は70年代中盤以降の反現実を「虚構の時代」と位置付けていたが、こうした意味で「虚構の世界(宇宙世紀)」において「虚構の身体(モビルスーツ)」を操る「虚構の主体(ニュータイプ)」を提示した本作はまさしく「虚構の時代」の申し子のような作品であったといえる。