螺旋常連からくり剣豪 さんの感想・評価
2.5
物語 : 1.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.0
キャラ : 1.0
状態:観終わった
緩やかに国の破滅に向かってて草
小説家になろう原作のアニメ。
話は大まかに悪役令嬢と男性向け異世界転生のハイブリット。悪役令嬢のストーリーから攻略対象となるヒーローを削除し、代わりに女性キャラのアニスフィアを据えた形になります。
継承権を放棄し、自由奔放にしている主人公アニスフィアの性格はリコリコの錦木千束ほぼそのままと考えてもらって構わないと思います。現代世界の回想から彼女はおそらく異世界転生者であり、その知識を活かした魔学で文化の発展に尽力したいという夢を持っています。あとユフィリアにガチ恋しているような描写があります。
ヒロインであるユフィリアは良くも悪くも真面目系。こちらはリコリコの井ノ上たきなとは別物です。暴虐の限りを尽くすアニスフィアの弟、アルガルドに婚約破棄されたのをきっかけに自分の在り方について葛藤してしまいますが、アニスフィアとの出会いを期に、何物にも縛られない彼女に憧れ、惹かれていきます。
最新話である4話までを見ると、ゆっくりな展開ゆえに人物描写は巧みであり、登場人物に感情移入しやすい作りになっています。特に葛藤するユフィリアの描写には力が入っていますね。
悪い点は話のテンポの悪さ。異世界迷宮リスペクトかな。人物描写に注力し過ぎたのが災いしてか、肝心の話がなかなか進まない。これに関して、ユフィリアの掘り下げに丸々使った2、3話は顕著だと思います。
4話で強敵とされるドラゴン出現という新展開こそありますが、この話も半分くらいはユフィリアの描写に充てていました。
5話で展開が動くとなお良いとは思います。
8話まで
ユフィリアを掘り下げ過ぎてアルガルドをなかなか出さなかったのがちょっと悪い方向に行ってるかな。彼とアニスフィアの対立描写も足りない。アニスとの軋轢や慢性化する国内の歪なカースト制度への不満から生まれた、彼の国を吸血鬼の力で統一するという苛烈な思想は世界観にも大きく関わってくるはずなのにここまであまり深掘りしていないのは謎。
なんか百合物語だからアルガルドは出さなくて良いとか言われたりしてるけど、実際ユフィリアが話の核になってくれてるかと言われたらアルガルドたちが起こした事件の火付け役程度の役回りだし、アルガルドより重要性が低いと言わざるを得ないです。
現にアルガルドとの決戦に入ってもいまいち影薄いし、なんならサブキャラのレイニの方がキーマンになっちゃってる。
アニスもアニスでユフィリア関連が枷になって本領を発揮できてない印象。ユフィリアにばっか目を向けるんじゃなくて、彼女の魅力の大部分が詰まっているであろう魔学へのアプローチとかも演説回以外でも1話じっくりかけた形でもっと見たかった。要するにDr.STONEみたいに一から試行錯誤して発明品を作る回とか。彼女とアルガルドの関係についても同様にしっかりしたストーリーが欲しい。
何より思想を貫くべく立ちはだかってくるアルガルドに自分なりの解答をもって対峙するアニスフィアっていう本来ならクソ熱いシーンに8話から入ったのに問題点が目立つせいで物足りないのが個人的な感想になります。
9話
アルガルドとの決着回。
この話自体は良いんだけど案の定アルガルドの掘り下げは弱いまま。これまでの話で一応台詞で説明はされてるから話の流れの理解だけはできるけど彼の出番が少な過ぎて動機が薄っぺらくみえてしまうので大部分を想像で補完するしかないのが辛いところ。
メインヒロインのはずのユフィリアももっと良い活躍のさせ方があったと思う。これだと、演説以外だと常に状況に流されているプラスαのキャラでしかない。あの役回りなら当事者であるレイニやイリアにもできるからいる意味はあまり無かった。
実のところアニスとユフィの絡み自体、ユフィリアの独白が話の大部分を占めていたせいで多くないし、ユフィリアはアニスフィアとアルガルドの兄弟間の問題に関してはほとんど蚊帳の外だったから安易に首を突っ込めるだけの説得力も無い。
問題の渦中にいたレイニやアニスに十分な理解のあるイリアならともかく、積み重ねが薄いユフィリアを仲裁役に選んだ理由がメインヒロインであること以外に見当たらなかった。
メインストーリーも終わっただろうし、あと3話どうするんだろう。
10話
登場人物の思考、行動が幼稚過ぎる。この話はアニスの自由奔放な気質が完全に裏目に出た形になる。
当作品より評価が低いはずの冰剣の登場人物の方がキャラクターとしての完成度が高いと思わせるくらいにはこのエピソードでのキャラクターのものの考え方は酷いです。なんでみんな精神的にアルガルドとの決着前よりも退化してるんだ。
アニスフィアがアルガルドを止めたことで王位継承者がいなくなったので、現状王位を継承できるのは一回放棄はしているものの、王族の血を引いているアニスだけなのになんで嫌々な雰囲気丸出しで仕方なく継ぎますみたいな幼稚なことやってんのか理解できません。アルガルドの時と同様、アニス自身がこの状況を作ったくせに嫌々やるとか無責任にも程がある。アルガルドがキレたのはそういうとこだぞ。まるで成長してない。
これまでの話を見る限り、アニスフィアは覚悟を決めたからアルガルドを国に仇なす存在だと見做し、排除したんでしょ?じゃあ残された唯一の王族の子孫として課せられた責務を果たさなきゃダメだと思うんですが。
それに反発するように国の行く末を決めかねない重大な話に持ち出すべきじゃない甘ったるい理想論をどいつもこいつも振り翳して冷静な立場で正論を述べているユフィリアに強要してくるのが本気で意味不明。これに関してはユフィリアは完全に被害者だと思う。
10話時点でユフィリアの考え方が合理性の面では一番の安牌なのに、ティルティやイリアがユフィリアに対して言っていることは中身や現実味が伴ってない感情論でしかなく、話の流れではなんか論破しちゃってますが実際はユフィリアを説得するために提示しなければならない、アニスが王にならずに済むための代替案も無いままに正論を言っているユフィリアを頭ごなしに否定しているに過ぎず全く論破できてないです。
正しいことだけが良いこととは限らない、とかじゃなくてこれはアニスが一度決めたことへの筋を通す通さないの話だから。良い話風に見せて論点をすり替えようとするな。
自分のやったことの尻拭いもできないならアニスがアルガルドのやり方に口出す権利なんて無いです。アルガルドの目指す結末や実際にやらかしたことは立派な悪なので擁護こそしかねますが、スタンスがブレまくりなアニスより、曲がりなりにも最後まで国を想って突き進んでいった彼の考え方の方がよっぽど筋が通ってます。
そもそも王になるとアニスの自由が完全に無くなるってどこソース?別にアニス一人で国を全部支えろとか言われてるんじゃないんだし、それこそ補佐役として優秀な人材であろうユフィリアに細かな政策のことなんて結構な割合で投げて、自分は王になったことで得られる信頼や人材を活かして得意な魔学を広めて国の発展に尽力するとか、色々やりようがあるでしょ。
このように王位継承後にも彼女らしいことができる道はたくさんあるはずなのに、アニスが先の人生を不幸だと決めつけて一人で全部抱え込んで自滅しようとする理由が分からない。
唐突にぶっ込まれた精霊術師リュミエルのくだりもかなり酷い。ファンタジーを悪い嘘の使い方で利用してしまっており、とんでもなく悪辣なご都合主義になっている。
精霊と契約したら血筋とか関係無く王になれるとか最高に意味分からん。そんなんだったら才能さえあれば極論精霊と契約するだけでどんな馬の骨でも王位を簒奪することができるわけで、この事実が明るみに出ればあれだけ登場人物たちが大事だと強調してきた王家の血の価値が地に堕ちるというこれまでと矛盾した話になるんですが。これはしっかりまとまっていたはずのアルガルドの話すら茶番になりうる明らかなクソ設定です。アルガルドは王族の血を引いていたがゆえにあれだけ苦しんでいたのに、この設定はそれを根本的に否定してしまっています。
アルガルドの話は空きまくっている行間さえ読み切れれば面白かったのに、王位継承の話は客観性を求められる政治の話では無縁であるべきな幼稚な感情論ばかりで理解しても個人的にですが面白くないです。
11話
弟を醜い後継者争いから解放するために王位継承権を放棄→わかる
アルガルドを止めるために戦う決意を固める→まあわかる
話の流れから読み取って、王女になる決意を固めてアルガルドを倒したのにいざ継承するとなると嫌々なの丸出し→???
結婚したくない、個性取られたくない→?????
カタルシス不足のさきっちょまでたっぷりの鬱展開はとりあえず置いとくとして、アニスに王女やる気無いのダダ漏れかつ結婚したくないだのアイデンティティ奪わないでだののわがままを抱えたり喚いたりするのがまあ酷い。これ自体は納得できる理屈が伴ってればそのキャラクターの色を出せるんだけど、アニスの場合は10話からずっと心理描写がごちゃごちゃでなんで王位に固執するかに説得力が全く無いから面白くなりようがないです。
こうしたアニスの心理描写の変遷は人間に元来ある矛盾した感情表現を描きたかったのかもしれませんが、それにしても脈絡が無い。こんなよく分からない展開にするならアニスを邪魔する貴族たちを踏み越えていく方がずっと良い。
精霊契約の問題点は10話と同じ。才能あるなら誰でもなれる可能性があるので誰が犠牲になるかでゴタゴタする意味がわからない。長生きしたい人間にやらせれば誰も不幸にならないのではないでしょうか。
しかも最後はまた戦って黙らせますって流石にワンパターン。異世界薬局かな。
暴力で相手を黙らせるって最終手段なのに何回も頼るとか蛮族にも劣る。話が通じないだろうドラゴンや百歩譲って異形の力を得て暴走したアルガルドなら戦うのは分かりますが、話し合う余地のあるアニスとユフィの決着はもうちょっと別の形にならんかったんかな。
12話
そもそもこの継承者問題のこじれってアニスフィアが簡単に予想できることについて後先考えずに強引に自分のやりたいことを押し進めていったのが全ての元凶なんですよね。このことが終始枷になってアニスの自業自得だろって結論に至るから感情移入できない。
王位継承者がいなくなったらそりゃ唯一継承権を持っているアニスがやらなきゃいけなくなるわけだし、そんな猿でも分かることを見越しておらず、結果自棄になって自己犠牲で収めりゃ解決って考えに至るのはあまりに無責任。ぶっちゃけやる気無いやつに統治されるのはアルガルドの独裁政治と悪辣さのレベルは変わらないですからね。
てか他の人も言ってるんですが、なんで世継ぎが少ないんだ。普通このようなトラブルになってもリカバリできるようにあらかじめ子供は多めにこさえとくでしょ。しかも現国王であるアニスの親父が常に王宮内が何かしらのことで揉めてるのに緊張感無いの丸出しかつ、そのことについてあまり深刻に触れてないのが無能さを際立たせてる。お前の詰めが甘いからアニスは苦しんでんだぞ。
挙句ユフィが精霊契約をしてバレッティア王国最後の王になり、王国が緩やかな破滅を迎えることが示唆されました。散々百合百合した末に次代を担う子供を作らないで破滅を受け入れるとかまともな王の考え方じゃない。たまに見る魔法でふた○りになって子作りしろとかのふざけた考えの方がまだまともに見えるくらいにこの結末は酷い。ハッピーエンドに見せかけたメリーバッドエンドです。
王政の描写はヴィンランド・サガやキングダムの完全下位互換と言っても遜色ない。なろう特有の浅いなんちゃって王政じゃあれらみたいな駆け引きができるわけないし、王政の深掘りには手を出すべきじゃなかった。この辺りは同じなろうでも現実主義勇者の方がまだ見られるレベル。
百合ジャンルと考えると転生者設定が邪魔になってる。アニスの前世の性別が分からないから百合と呼んでいいのか怪しい。中身が男性だったら仮に精神が肉体に引っ張られていたとしても百合とは言い難いと思う。元ニューハーフとかならこれまでにあまり無い斬新さも相まってかなりアリだと思うんだけど、この作品はそこまで深く考えた話ではなさそうではあります。この辺りはかなり繊細で取り扱うのが難しい題材になっていますし。
まあ、どの道最低でも前世の性別については触れるべきだった。転生者設定は前世の性別関連に限らず深掘りせず軽く流してるだけで終わってるし、12話かけてこの程度の描写なら無くても良い。百合恋愛に切り込む心理描写も同様に浅いから唐突にキスする流れになっててたまげました。せめてやが君くらい濃厚な描写が無いと百合アニメとは言えないかな。
10話からの失速具合を踏まえると、今期の中では正直下から数えた方が早いレベルだと思います。