キャポックちゃん さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 5.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
ゲームと現実の狭間で…
【総合評価☆☆☆】
「ゲーム世界に閉じ込められる」というと、最近では夥しい類似作があって珍しくもないが、本作は2002年という比較的早い時期に制作された佳作。
脚本家の伊藤和典は、1980年代、押井守らとゲームセンターに入り浸っていたというが、そのときの体験が作品として形をとったのが、2001年の実写映画『アヴァロン』(脚本・伊藤和典、監督・押井守)だろう。「ゲームに惑溺した末の精神崩壊」や「リアルとバーチャルの境界の曖昧化」などのテーマが提起されており、私は、『市民ケーン』や『2001: A Space Odyssey』に匹敵する傑作と評価する。
『アヴァロン』の翌年に発表された『.hack://sign』は、伊藤がシリーズ構成と脚本の大半を担当し、こうしたテーマをテレビアニメの枠内に落とし込んだもの(本編25話+総集編1話、テレビ未放映の番外編2話は本編とほとんど無関係)。ゲームを中心とするメディアミックス企画「Project .hack」の一環という制約からか、『アヴァロン』ほど先鋭的ではないものの、真下耕一(監督)のミステリアスな演出と相まって、類似の設定を採用したテレビアニメの中では屈指の出来となった。特に、伊藤と(彼の弟子筋に当たる)横手美智子が共同で脚本を執筆した回は、人物像が奥深く描き出されており、アニメにおける脚本の重要性を実感させる。
舞台は、不特定多数が参加できるオンラインRPG『The World』が大人気の近未来(と言っても、設定では2010年)。果たしてゲーム制作者が用意したイベントかもはっきりしない不可解な事件が多発し、なぜかログアウトできなくなったらしい司(つかさ)をはじめ、多くのゲーム内キャラが、ゲーム本来の冒険とは別の駆け引きを余儀なくされる。そうした中で、キャラとプレーヤーの間に横たわるある種の断絶が、少しずつ明らかになっていく。
最近のアニメと比べるとアクションの描写はかなり地味で、派手なバトルの好きな人には勧められない。その一方で、登場人物の台詞一つ一つが意味深であり、プレーヤーがどんな思いでキャラに台詞を語らせているか想像すると、ゲームの背後にある現実の広がりが見えてくる。人生経験が豊富らしいベア(の中の人)の語りも興味深いが、私が好きなのは、内気そうな表情と戦斧を持つ姿がいかにもアンバランスな昴(すばる)。なぜ彼女がそんな状況に置かれているか考えると、いろんな推測が膨らんで楽しい。
終盤の展開は、あまりに唐突で煮え切らないように感じる人がいるかもしれないが、この唐突さがゲーム世界に限定されたものであることに気づけば、なぜ伊藤和典がこんな終わり方を選んだかがわかるはずだ。
梶浦由記による音楽は、テレビアニメの劇伴として最高度の水準にある。