nyaro さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「なぜ山に登るの?」という疑問に「回答はない」という作品。
原作はかなり昔に読んだので詳細は忘れました。ただ、エヴェレストに登頂する前に少しでも身軽になるためにスプーンの柄を削ったり、ノートの表紙を破るとかいう表現があって、そのギリギリを表現した8000M級登山の恐ろしさすさまじさに戦慄した記憶があります。
アニメになった本作は、上下2巻しかも結構厚い作品を良くまとめたとは思います。山に魅せられた男たちの狂気を良く描いていました。ただ、そういう鬼気迫るディテールが描けていたかどうかはちょっと疑問です。
文太郎のシーンを丁寧に描いていたし、長谷に対する感情も説明しすぎない感じで上手に表現できていたのは、すごいなあと思いました。
が、最後の日記のシーンが割愛されていました。リンゴを種以外すべて食べつくすような、凍えるような、酸素が薄くなった極限の感覚が無くなったので、作品の迫力が半減した気がします。
マロリーのカメラは登山をする人なら分かるのでしょうか?あまり、ストーリーとは関係ない「そこに山があるからだ」という表現にしかなっていない気がするのですが、どうでしょう?それがテーマと言えばテーマですけど。これは原作でも確かそういう印象だったと思います。
キャラデザはちょっと地味すぎです。このテイストなら実写版でいいのでは?とも思いますが、考えて見たら山岳ロケって大変ですもんね。谷川岳の一ノ倉沢とか屏風岩のオーバーハングとかの描写は確かにアニメ向きです。
不思議なことに中盤のシーンの新聞記事が全く関係ない東日本大震災の記事だったのは、何か含意が?それとも手抜き?ここはいただけません。
内容が内容だけにずっと暗い色調の画面だし、山の絵も美しいという感じの作画ではないので、爽快感はかけらもありません。寒いだけのアニメでしたが、それは多分演出意図としてはあっているのでしょう。
総評すると、山岳もの一人の山に魅入られた男の人生を描いた作品として、出来はいいと思います。が、エンタメとしてのカタルシスや登山のウンチクには期待しない方がいいです。
なぜ、登山なんかするんだろう?と思う人にたいして、回答なんてないよ、という作品です。人の本質を描いているという点では文学的でした。
なお、冒険ミステリーと言ってますがミステリー要素はほぼ無いです。