薄雪草 さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
記録の錆、記憶のさざ波。そして青色へ。
吉浦康裕作品のいちファンとしては、すっかり見逃していました。
"ペイル・コクーン" を直訳すれば、"青白い繭" になります。
その理由は、作品の終盤にわずかに目に留められるチャンスがあります。
ただ、それだけではない含みが本作にはあります。
にがにがしいあと味とともに。
~ ~ ~
"記録" を発掘する。
あるいは、修復する。
まず、そこからバイアスへのスティッキートラップが仕掛けられます。
閉ざされた大地下空間。
深層階に設えられた狭い仕事場。
彼らが丹念に精査し、創り上げていくのは "地球の原風景" です。
海の青、大地の緑、花弁のピンク、プロムナードのネオン・・・。
記録が錆がかったデータであるうちは、彼らはなんの疑問も挟まず、憧憬も持ち得なかったはず。
でも、注ぎ込まれる心血、研ぎ澄まされる専心、忍耐を超える使命感が、ひとつの不思議なシンパシーを呼び覚ましていきます。
それはただ、データの断片で、日々のルーチンに過ぎなかったはずなのに。
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ついに修復できなかったデータがありました。
それは、当時の人間が吹き込んだ音声です。
口唇の解読。 音声波形の解析。
ハーマニィム(同音異義語)。 センテンスの繋がり。
それは日本語なのか? それは標準語なのか?
雑音の中にも耳を澄まし、無音の上にも目を凝らします。
やがて、導き出されるのは "一つの仮説"。
昂ぶるスピリッツが、証明へと足を向かわせます。
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圧し下げられた深い闇のなかで一生を凝視していた彼らの瞳と、深遠に浮かびあがる {netabare} 青い星の射影 {/netabare} とが、鋭く対立し、白熱を見せます。
それは、秘匿され、細切れにされたデータの真実。
ギミックの呪縛とトラップからの解放という瞬間。
圧縮と閉塞に生きていく鬱積から、希望と光明を見出したエウレカなのです。
ぎゅっと凝縮されたSFの醍醐味が、そこには用意されてありました。