tot さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
実は青春恋愛王道もの
傑作。
恋愛学園ものが部活・文化祭・バレンタイン・卒業式といったベタで使い古されたクリシェの使い回しで、かつ幻想としての古くさい恋愛観の反復であるのに対し、本作は女性視点でちゃんと恋愛を描き切っている。
監督は絶縁のテンペストや花咲くいろはの安藤真裕とfateほかの塚田拓郎で脚本は岡田麿里。原作は絵本奈央で、ストーリーと一つ一つの細部や展開が考え抜かれて安心感がある。
前半は、たしかに女子高生達の過剰な「性」への意識(自意識)を書いているようだが、漫画でもアニメでも女性視点の「性」への妄想や当たり前にある志向性がほとんど描かれてこなかったことへのアンチテーゼになっている。正面からそれを描いているのは他に「クズの本懐」がわずかに挙げられるくらいだろう。
青春期の恋愛と性意識は切り離せず、だからこそ生じる葛藤や、恋愛と性との分裂、年上との恋愛幻想、同性愛、作中人物達それぞれが正面から向かい合ってそれと切り結んでいく様が丁寧に描かれている。一組のカップルのトラウマ的な障害とその解決、共依存的恋愛関係の成立といったエロゲー的な恋愛とも、内気で恋心を告白できないという葛藤を延々と引き延ばすようなストーリー展開とも無縁。主人公の小野寺和紗と典元泉の恋人関係が成立してしまった後も、その関係をめぐって文芸部の「乙女」達はさらに一歩踏み込んで互いの間の関係を確かめ合う。「荒ぶる」「季節」にしかありえない、そんな貴重な感情と経験が一つ一つ描かれている。
原作未読なので、おそらく原作の細かな設定や取り上げるべき細部が多く省略されているのだろうが、それでも全十二話でテンポよく構成して、和紗の「鉄道」(=男根)をめぐる妄想をラストシーンで拾い上げる、「色鬼」に托されたモチーフと学校への抵抗とを呼応させるなど、細部をきれいに組み上げている。葛藤を一つ一つ乗り越えてぶつかり合う人物達の真摯さに、笑いつつ泣ける爽快なラストである。