てとてと さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
P.A.WORKSの処女作にして最高傑作。自分のアニメ視聴歴で最高一作だけ挙げろと言われたらこれ
富山県南砺市を舞台にした青春群像劇ラブコメ。全13話。P.A.WORKSの処女作。
※作品データベース様より転載
【良い点】
恋愛アドベンチャーゲーム原作(アニメは別物)らしさ、最初から最後の瞬間までノンストップの濃密で目まぐるしい恋愛劇。
一場面毎に修羅場の連続で息も付かせぬ、逆転に次ぐ逆転で最後までどのヒロインが勝つか!?一瞬たりとも目が離せぬ面白さ!
最後の最後までハラハラドキドキさせつつ、ラストは納得のいく完璧な結末。この路線のラブコメアニメでは最高峰。
恋愛劇としては恋愛ゲームらしく主人公が複数ヒロインに…な王道でありつつ、全く嫌味感じさせず。
本作が特筆すべき点は「少女漫画」ではなく「男性向け恋愛ゲーム」的な構造で昼ドラを展開してのけた為か、
少女漫画的昼ドラに見えつつ、実態は主人公対ヒロイン各々の一対一が成立している点にある。
乃絵と比呂美は序盤にキャットファイトはするがこれは各ヒロインの現在の立ち位置を示すのが狙い、
以降互いに足引っ張り合うような恋の駆け引きは淡泊。愛ちゃんに至っては他ふたりと殆ど接点が無い。
各々が一対一で心情が揺れ動く、結果、意外やドロドロしてない。
凄まじい昼ドラ展開でありつつ、少女漫画原作にありがちな嫌味を奇跡的に排除出来ている、これを両立したラブコメは類を見ない。
意地悪く見れば男性視聴者に都合の良い恋愛ゲーム的なんだけど、そこに西村純二監督のテーマ性と
岡田麿里氏の持ち味が奇跡的に噛み合い、他ラブコメアニメには真似の出来ない境地に到達した。
未だ自分の気持ちも相手の想いも気付いていない少年少女たちが成長していく青春劇としても最高水準に近い。
これを絵本作家志望の主人公による詩的モノローグや水彩画のような美しい止め絵演出で芸術的に活写。
三者三葉な魅力的ヒロインたち、男の子たちやサブキャラの存在感も抜群。
地元(富山県南砺市)の風景描写が美しく、ドラマチックな恋愛劇を盛り立てている。御当地アニメとしても最高水準。
地元の祭り(城端むぎや祭と城端曳山祭を題材にした麦端踊り)を主人公の成長とロマンスに巧みに組み込んだのも良い。
作画の綺麗さ美しさが傑出している。キャラデザの可愛さ、特に石動乃絵ちゃんの絵的な可愛さは圧倒的。
喜怒哀楽の表情も自由奔放な仕草も抜群に可憐で、問答無用で萌えてしまう。2021年から振り返っても匹敵する作品が殆ど無いレベル。
背景も冬の富山、旧家の木造家屋の描写など細部に渡り丁寧、アニメ世界のリアリティーに引き込まれる。
特徴的な止め絵演出も、恋のときめきや青春の戸惑いの美しい一瞬を切り取って、芸準の域にまで昇華させている。
1話の眞一郎と乃絵ちゃんの出会いなど、一瞬を切り取ったドラマチック感が抜群。開幕のこの場面だけで一気に惹き込まれる。
季節感をドラスティックに活かす演出も素晴らしい。冬の北陸、雪、荒れた日本海と堤防のテトラポット…
テトラポットは景観の邪魔とか言われてるけれど、生活圏に馴染んだ人工構造物の何が醜いものか。
そしてOP映像も素晴らしい。恋愛ゲーム路線のOPの最高峰、まずOPの時点で並のアニメじゃないと刮目させられる。
OP主題歌「リフレクティア」が圧巻。作品のテーマ、少年少女たちの恋心を透明感ある歌声と歌詞で疾走。
挿入歌「そのままの僕で」もクライマックスをグッと盛り上げた。
眞一郎が雪道を自転車で駆けたシーンは恋愛アニメ史上屈指の名場面。
雪うさぎ氏やSunset氏(シムーンのレビュー)が言及されている通り、西村純二監督の前作「シムーン」を彷彿とさせる高いテーマ性を、
恋愛ゲーム的なラブコメと、ニワトリの絵本(雷轟丸とジベタ、飛ぼうとして命落としたニワトリと、飛ばなかったニワトリ)や
乃絵ちゃんのアブラムシの歌などの寓意を巧みに用いて、分かり易くあざとく描いている。詩的な美しさと分かり易さが抜群。
このお陰で、典型的なギャルゲー主人公ぽい眞一郎が悩める等身大の少年として共感・好感が持てる。
彼含めた6人各々が悩み戸惑いながら自分の本当の気持ちと立ち位置を知っていく。
紆余曲折目まぐるしく動く幼い恋のゲームの果て、彼らは本当に大切な自分と相手に気付く。
「ちゃんとするから」
ちゃんとしていなかった眞一郎や比呂美たちが「ちゃんとする」までの物語、「ちゃんとする」とはどういう事か?
が大事なテーマであり、それがちゃんと描かれていた。
12話乃絵「ジベタが飛べないのではなく飛ばないことを選んだ」夢見がちな少女がそれに気付くなど
終盤からラストまで成長劇だった。
青春劇としてはケンカや雪道のバイクで停学、雪道を自転車で彼女追いかけるなどのロックなあざとさも堪らない。
精神的に幼い乃絵ちゃんが飛ぼうとして骨折とかも萌える。良き青春である。
雪は滑って危険だけど、転んだ少年少女を致命的な怪我から守ってくれた。これも北陸の冬を活かした作劇で上手い。
石動乃絵ちゃんが可愛すぎる。2021年時点で見て乃絵ちゃんに匹敵するのはろこどるの宇佐美奈々子ちゃんくらいか。
電波系の最たるヒロインだけど、電波っぷりが単なる不思議ちゃんではなく、彼女なりの筋が通っている点で
凡百の電波少女と一線を画す。言動も一挙手一投足が可愛かった。
湯浅比呂美ちゃんもヒロイン度で終始リードし続けた。正統派の最高水準の美少女。
幼馴染という恋愛物のハンデをものともしない。
彼女はシリーズ構成の岡田麿里氏の真骨頂が出ていた名ヒロイン、眞一郎母との確執や
抑圧されての裏表のある嫌な女な側面すらひっくるめて魅力的だった。
裏表のある嫌なところを正々堂々とぶつける分かり易さが魅力、なんとなく「人類は衰退しました」のわたしちゃんみたいな。
まさに裏表の無い素敵なヒロインで、名塚佳織氏は最高にはまり役だった。
ヒロインのうち愛ちゃんだけは早々に負けヒロインだな…と分かってしまう切なさ、でも可愛さでは決してヒケを取らなかった。
一番普通に可愛いんだけど、普通過ぎて、傑出したふたりには勝ち目が無かった。
三代吉いい奴すぎる切なすぎる…
サブキャラも無駄なキャラはいない。
眞一郎父は寡黙で地味だけど、要所で息子の夢を応援しそっと背中を押してくれた。
意外に注目したいのが一見ただのモブに思える、酒蔵の少年。
高校生の眞一郎とそう歳は変わらなさそうな彼は青春と無縁に見えるが、眞一郎父から酒造を学ぶ彼は生き生きしている。
酒蔵の少年が過去に恋愛や青春があったかは語られないけれど、今の彼はやりたい仕事で立派に飛び立っている。
現在進行形で悩んでいる眞一郎坊ちゃんとの対比で、一皮むけている飄々とした在り方を示しているキャラクターかもしれない。
【悪い点】
ほぼ完全無欠の傑作アニメ。
強いて挙げるなら眞一郎母の掘り下げと心境の変化だけど、1クールでここは枝葉なので、テンポ良く和解して良かったと思う。
短い描写で彼女の胸の内は何となく推し量れるし、若いころは比呂美ちゃんタイプだったのかな?という推測で
間接的に比呂美ちゃんの描写から眞一郎母も肉付けが出来ている(ような気がする)ので。
愛ちゃんと三代吉かわいそすぎない?
ここも青春劇の一側面だし、ラストは恋がやり直せそうなので良かったかなと。
タイトルである「true tears」、「真実の涙」にまつわる乃絵ちゃんのテーマに関しては
若干ではあるが無理があり、物足りなかったかもしれない。
とはいえ乃絵ちゃんもちゃんと成長して泣けたのだから細かいことは許せる。
乃絵ちゃんのお兄ちゃんが難儀な性格と立ち位置だったなと。
とはいえ妹離れして?ちゃんと道を歩んでいくラストで良かった。
総じて自分が超贔屓目に見てしまっているためか、強いて挙げないと欠点が見つからない。
【総合評価】10点満点
P.A.WORKSの処女作にして(2023年1月1日時点で)最高傑作。
以降の恋愛アニメの括りで匹敵しうるのは「WHITE ALBUM」か「月がきれい」劇場版なら「君の名は」くらいか。
キャラクターや脚本もさることながら、純粋にアニメーションとして美しい。「AIR」を凌駕していた。
自分が知る限り、最も美しいアニメ作品の一つ。
評価は自信をもって「最高」
自分的に「最高の中の最高」候補の一角。
P.A.WORKSの処女作にして最高傑作という事は、未だこれを超える作品出せていないという事で…
近い路線を狙ったと思われる西村監督作品「グラスリップ」がイマイチ上手くいかなかったり。
以降は美しい作画で贅沢に作った物足りない佳作がP.A.の定番になっていく。
まあ贅沢な佳作も十分評価はできるんだけど。