「Do It Yourself!! どぅー・いっと・ゆあせるふ(TVアニメ動画)」

総合得点
70.2
感想・評価
220
棚に入れた
641
ランキング
1627
★★★★☆ 3.5 (220)
物語
3.4
作画
3.5
声優
3.5
音楽
3.4
キャラ
3.5

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 5.0 作画 : 3.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

2022年のダークホース。DIYの真の意味とは?

のんびりとした主人公と真面目で優秀らしい幼馴染み。少女2人の関係は案の定といった感じであり、「きらら系」を彷彿とさせる微笑ましい雰囲気を作り出している。
キャラクターデザインはややクセが強い。最近のアニメというよりは00年代前半くらいの『あずまんが大王』や『ぱにぽにだっしゅ』のような日常アニメの系譜を感じ、事実1話冒頭は本当に何気ない日常だ。
朝起きて登校し、下校して入浴し、夕飯を食べて寝て、また登校する。そんな主人公の日常を描くアニメーションは意外にもぬるぬるとよく動き、妙に目を奪われる所だ。
そんな世界ではあるものの、この作品の舞台はやや近未来を描く。もろにSFじみた未来ではなく、私達が生きている「現在」から30年か40年くらい過ぎたくらいの技術の進歩が背景────街並みやキャラクターたちの小道具にさりげなく取り入れられている。

【ココが面白い:女の子+DIY、未来に対するDIY(1)】
技術の進歩で現在より少しだけ便利になった世の中で、女学生という素人が敢えて今一度原点に立ち戻り、DIY────自らの手で自分オリジナルの物を作り出すことに価値を見出だしていく。そんなストーリー展開に強引さが何も感じられないところが本作の凄いところだ。
流石にくれいこと矢差暮礼{やさく れい}はホームセンター勤めの両親の影響という設定のみでそうなっているが、そんな彼女が主人公・せるふの自転車を直してあげたことで物語が始まる。現実であれば単に「ラッキー」「いい人もいるもんだ」とさらりと流してしまう中で、せるふはこの物語の主人公だからこそそのちょっとしたきっかけでくれいの顔を覚え、学校で再会し、彼女の部活であるDIYにハマる。この手の部活系のアニメではベタな流れではあるものの、だからこそ不自然ではない。
いま出来ないからこそやってみたい。出来るようになりたい。長年、親から工作を禁止されてきたからこそ胸の奥に溜まっていた「物作り」への憧れが溢れ出す主人公・せるふの姿が情緒的だ。
小さな頃、家にあったベンチ。今は無いベンチがあれば何故かすれ違うようになってしまった幼馴染みとまた仲良く過ごせるかもしれない。
そんな思いがせるふをDIYへの道へと進ませる。

【ココが面白い:女の子+DIY、未来に対するDIY(2)】
そんなせるふの幼馴染みである「ぷりん」は彼女とは違う学校に通っている。どこかですれ違ってしまった2人。昔は素直に仲良くしていた筈なのに、ちょっとしたきっかけで2人の関係性は以前とは違うものになってしまっている。
価値観の違いもある。ぷりんは偏差値の高い学校で3Dプリンターなどの最新技術を学び、「何もしなくていい世界」を作ろうとしている。そんな彼女にとって「何かを自分の手で作る」というDIYは古臭いのだ。わざわざ自分で作らずとも優秀な既製品が多い世の中で、あえてDIY部に入部したせるふのことを彼女は理解できずに扱き下ろしてしまう。
そんな手前、主人公がDIY部の活動を楽しむ姿を見ても「仲間に入れて」とは言えない。違う学校でも外部部員という手があるのだが、取ろうとはしない。自分から突き放したせるふとよりを戻したいと考えながらも袂を別つべきとも考える、そんな葛藤がぷりんを御手本のような「ツンデレ」にしており、あだ名の由来である頬を膨らませた怒り方が確かに可愛いヒロインの1人となっているのだ。
非常に丁寧なストーリー運びが心地よく、メインキャラクターを1人ひとり丁寧に掘り下げながら、それぞれの立ち位置とキャラの魅力を感じさせながら、まるで教科書通りのようなストーリー展開を見せてくれる。果たしてぷりんがOPのように無事、DIY部の環に加わることが出来るのか。それが本作を追う楽しみの1つにもなっている。

【ココが面白い:女の子+DIY、未来に対するDIY(3)】
DIYの過程も非常に丁寧な描写だ。序盤から、部員を集めるために看板を可愛く作り直したり、スキー板を材料にしたベンチを作るという中々大がかりな工作模様が細かく描かれる。
タイルに接着剤を塗って貼り、タイルの隙間を埋める目地材(めじざい)を塗る。シンプルな過程ではあるものの、目地材の説明などもきちんとすることで、初心者である主人公らとともに視聴者もDIYを学ぶことができる。
1話1話丁寧に部員を増やしながら、各々が各々のアイデアで作りたい物を作る。物と技術に溢れて便利な世の中、商売上では棄てられるしかない廃材や余り物を活用して何かを作るDIYの意味を改めて考えるような内容だ。
DIYといえば自分で工作して何かをする、といった意味合いがある。だが、この作品はそれだけでなく、自分の意志で「なにか」をすることそのものをDIYと定義づけて作品のテーマにしているようだ。
それはある種の「自己表現」だろう。自分で作り上げる喜びを感じ、自分で作り上げたものを褒められる喜びを感じ、そして自分で作ったものを誰かに「あげたい」と願う。
そういった「気持ち」そのものがDIYだと伝えてきている様であり、そういう意味であればDIYはどれだけ時代が未来へ進んでも決して時代錯誤なものとはならない。
序盤はその形が見えてこないだろう。この作品の方向性、何を描こうとしているのか。原作の無いアニメオリジナルだからこそ、観ている側の中で徐々にこの作品の方向性やテーマが積み上げられていく。

『なにもしなくてよくなる未来か~。なにもしなくてよくなったら、(私は)なにしようかな~♪』

これからは必要な時間が減っていくことで自由な時間がより伸びていく。それをどう充実した活動に充てるかを問われているのは間違いない。

【キャラクター評価】
結愛せるふ{ゆあ ー}
タイトルに引っ掛けたダジャレ系主人公。その気質は妄想癖も拗らせたのんびり屋という主人公らしからぬものだが、主人公らしく秘めたる思いは熱く、時として自身の立ち位置に思い悩む一面もあった。
DIY部の主人公なのに「不器用」というのがミソだろう。部が盛り上がってきても、彼女の作品は他の娘の物と違って売れず、自分の立ち位置を悩みつつ、自分にできることを模索する。
そんなせるふを支えるのもまた「仲間」だ。彼女にしかできないこともある。それを他の誰でもない仲間が認めてくれる。
自分にできないことは誰かに任せてもいい。支え合いながら、手に絆創膏をいっぱい貼り付けながら、せるふがDIYに勤しむ姿に心が暖かくなる。自分にできないことを「できない」と否定されるのではなく「できる」ことを認めてもらう。
不向きだったDIY部に入るという彼女の選択、そんな選択を「間違ってなかった」「入ってよかった」と噛みしめる姿に感動した。

ぷりん/須理出未来{すりで みく}
王道のツンデレを令和の時代に改めて観ると、やはり少しキツめで理不尽に感じるかも知れない(汗 しかしそんなぷりんのイライラや皮肉をのほほんとマイペースにあしらうせるふ、という図式が本作屈指の笑いと癒しにもなっている。きっかけは同じ学校に通えなくなったことだからね、拗ねてるだけなんですよきっと(笑)
{netabare}──と思っていたら、最終話にて過去、せるふが意図せず世話焼きなぷりんを突き放すような言動をとったことが発覚。そして案の定、本人はそのことを覚えておらず……なんてこったい(笑){/netabare}
どこかで素直になれず、すれ違った2人。そんな2人──ぷりんの気持ち──が1クールを通して徐々にもう1度「リメイク」されていく。最終話Bパートに2人だけの時間を設けて締めるのが粋。若干の百合テイストすら感じる彼女のせるふへの思いはとてもいじらしく、とても可愛らしい。

【総評】
全体的にみて素晴らしいアニオリ作品だ。
淡い色彩でゆるやかな雰囲気を醸し出しつつも、世界観設定からメインテーマであるDIYが否定されるような下地を作ることでストーリーに波乱や逆境といった要素も巧く取り入れており、青春系作品──部活モノ──として確かな面白さを持たせることに成功している。
近未来の日本を舞台にし、様々な技術が進歩した中で「自分で何かを作る」というDIYの意味を問いつつ、そんなDIYを通じて、彼女たち自身の中で一歩を踏み出し、オンリーワンの物を作り上げる物語が1クール綺麗に描かれてもいた。
キャラクターデザインはやや癖があり、若干の古臭さは感じる。アップはいいもののルーズでは雑な作画になっていることもあった。しかし、癖自体はこの作品の柔らかく優しい味わいにマッチしており、簡素なキャラデザになるシーンがあったかと思えばぬるぬると動くシーンがあったりと、日常アニメで会話劇が基本でありながらキャラの動きに可愛らしさがある。
序盤から中盤まで丁寧にキャラクターと世界観を掘り下げつつ、そんな中で「せるふ」と「ぷりん」、2人の幼なじみの関係性の再構築が描かれており、1クールの中での2人の変化が最終話の素晴らしい余韻につながっている。その前哨戦ともいえる「ジョブ子」との邂逅から送別までのエピソードもしんみりとしたものがあり涙腺を刺激されてしまったが、空気自体は感動の押し付けがましさを感じさせない、やはり本作の雰囲気にとても合っていたものであった。
TVアニメオリジナル作品でありながら日常青春モノで、派手な展開やシリアスなシチュエーションやショッキングなシーンがあるわけでもない。キャラクターデザインも「萌え」な感じでもない。巨乳キャラによる官能的な主張も全くといって皆無である。なのでインパクトやキャッチーさという意味では薄く、序盤で切ってしまう方も多くいることだろう(私も一度そうした笑)。そういった派手さが無い中で丁寧に、まるでアニメをDIYするかの様にコツコツと展開を組み上げて終盤という「完成形」の出来栄えに浸れる、そんな作品であった。

投稿 : 2024/01/25
閲覧 : 91
サンキュー:

6

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