蒼い✨️ さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
マインが選ばざるを得なかった決断の話。
【概要】
アニメーション制作:亜細亜堂
2022年4月12日 - 6月14日に放映された全10話のTVアニメ。
原作は、「小説家になろう」に連載し完結したweb小説を改訂し、
TOブックスから刊行されている、香月美夜による小説。
原作イラストは、椎名優が担当し、2期と3期にあたる『第二部 神殿の巫女見習い』は、
TOブックスの『コロナEX』とニコニコ静画の『comicコロナ』にて、
漫画家の鈴華の作画によるコミカライズ版がweb連載中。
監督は、本郷みつる。
【あらすじ】
異世界転生者で兵士の娘のマイン・5歳になった、元日本人の本須麗乃は、
前世で他の何よりも最優先で溺愛していた本が、
この世界では高価すぎて庶民が手を出せないものであることを知り、
ならば、自分で本をつくろうとしたのだが失敗続き。
前世で覚えたこの世界にはない雑学知識から作った商品で、
ギルベルタ商会に多大な利益をもたらし、
大旦那のベンノのもとで商いの心得を学びながら植物紙づくりに成功。
それと同時に、マインは平民でありながらも並外れた魔力の持ち主なのがわかり、
貴族社会といった権力機構から逃れることが不可能になり、
7歳で、生地であるエーレンフェストの神殿の巫女見習いとなったのだった。
本来なら貴族にしか許されない青い衣を認められた平民であることから、
マインは、貴族でありながらも神殿に追いやられた青色神官から疎まれ、
孤児院出身で青色神官に取り入って安泰を得ようとする考えの灰色神官からは、
子供で平民のマインが貴族と同じ地位にあることに対するやっかみを持たれて、
身分差をわきまえるよう青色神官から言われたり、嫌がらせをする者も存在したりだった。
マインはそれらにムキになることもなく、悲惨な状況の孤児院を改革したり、
貴族向けの高級品でない本(簡素ではあるがそれでも庶民からはまだ高い)
を様々な人の手を借りて完成させたり、自分のやりたいことを一つ一つ叶えていた。
「トロンベ討伐」 での巫女の仕事で同行することになったマインは、
そこで、平民出身のマインを見下す一人の騎士から、
強い悪意を向けられて危害にさらされる。
上司である神官長フェルディナンドらがかけつけて事なきを得たが、
この世界の身分社会の闇は思いの外深かったのだった。
その後、神官長に神殿の隠し部屋に呼ばれたマインは、
マインが有害な人物あるかどうかを判断するために、
薬と魔術具によって神官長とともにマインの記憶から構成された夢の世界に入り込む。
マインの夢の世界とは前世の記憶から構築された日本。
自分の知る世界の常識から遥かに進んでいる日本の建築や文化・教育に驚く神官長。
実家を思い浮かべたマインは二度と会えない前世の母親を前に、
自分が母親の愛情に気づかなかった親不孝な娘だったこと、
そして母を残して先に死んでしまったことに涙を流す。
精神が同調してマインの感情と一体化していて涙を流した神官長は、
マインを非常識ではあるが悪意はなく、知識は領地にとてつもなく有益であると判断。
マインは、前世で自分を育ててくれたシングルマザーの母親に恩を返させなかった分、
この世界で自分を愛してくれている家族の、父・ギュンター、母・エーファ、姉のトゥーリを、
大切にしようと心に誓うのだった。
【感想】
連載漫画の『第二部 神殿の巫女見習い』は中盤であり、
別の漫画家によって同時連載されている、『第三部 領主の養女』
の開始までの第二部の残りをビジュアル化ということで興味深く観ることが出来ました。
ちなみに、『第四部 貴族院の自称図書委員』も更に別の漫画家で同時進行しています。
何故そうなったかと言うと、普通に連載していたら20年かかるそうだからです。
貴族や神殿内部の者たちから敵意を向けられて、用心せざるを得なくなったマインですが、
敵意を向けて害をなす相手に対して誠意を持った話し合いで何とかしましょう!
なんて全く通用しない世界。
まして人権や民主主義の概念がない中世の価値観の世界では権力者=ルールであり、
上に立つ者個人の資質によって組織が健全化もすれば腐敗もする。
神殿がおかしくなってるのも、最高権力者である神殿長が、
上位貴族出身の嫡流でありながら統治者に必須の魔力量では落ちこぼれであり、
家を継げずに神職に追いやられて、立場への不満と貴族へのコンプレックスから、
神殿内では絶対権力者として悪事を重ねていて、実家が太い上に諌めても無駄。
そんなところに、魔力の塊であり、幼い年齢なのに利発な小娘のマインが現れて、
自堕落と欲望に生きてきた50歳男の神殿長の劣等感を最高に刺激して憎悪を募らせる。
紫髪の灰色巫女のイェニーも、彼女が神殿長に仕える愛人であったり悪事に協力もしていて、
かつての同じ青色巫女に仕えていた同僚たちがマインのもとで綺麗なままでいるのに対して、
汚れてしまった自分との違いに腹を立てたり、
そのイェニーが、マインの側仕えであるデリアの将来あり得たかもしれない姿であったり、
悪役も生まれつきの悪人というのではなくて、流されて人格に歪みが生じたとも言え、
後日の話になりますが、後継者教育の失敗で暗愚な領主が将来誕生するところを、
マインの提案で更生ルートに変更しよう、ダメなら廃嫡しよう!という話がありまして、
自分で自分の悪いところに向き合って反省することの大切さ、
それが出来なかった者の末路としての愚者になる。
自助努力をせずにこんな人間になっちゃいけませんよ!
単に悪人というだけでなくて、
ちょっとしたボタンの掛け違いで別の生き方もあったのではないか?
と思えるところで、この作品の人物造形は面白いと思います。
その歪みとは大人になってからでは人に言われて直せるものではなくて、
歪んだ輩に吹っかけられた面倒事を解決するには、権力と武力で黙らせる!
原作者の思想がハッキリしているのが清々しくもありますね。
ただ、家族と仲良く暮らしていたいだけなのに、
魔力量の多さゆえに、マインにとって辛い決断をしなくてはいけない。
それは、貴族社会から発生する人間の悪意を相手にするには避けられないことであり、
マインの下剋上=マインが理不尽から自分や大切な家族を守るために、
力を手に入れないといけない理由が切実に語られた、
アニメ第三部(原作では第二部後半)でありましたね。
騙されて神殿長に加担したデリアへの罰が重すぎるという主張もありますが、
罰をヘタに軽くした進言をマインがすると死刑の決定が覆らないから、
わざと中途半端に重くしたっぽいですね。
デリアは神殿長に騙されてマインたちを裏切った形になったとはいえ、元の原作を読むと、
『行動を許したわけではないから。それは忘れないでちょうだい』
のマインの台詞にあるとおりに、罪は罰できっちり償わなければならない思想の話。
『身分をわきまえよ!』はアニメの第二部で使われた台詞ですが、
神殿長と協力者全員への死罪を宣告した領主に対する落とし所として、
最大限の減刑をしたのが、デリアへの扱いっぽいです。
それを見て納得するかは視聴者にもよりますが、ここは身分が絶対の世界でして、
例えば、神官長の筆頭側仕えのアルノー(オカッパとニキビの彼)が、
私怨で神官長にばれないとようにフランとマインに対して、
一見はそうは見えない形での嫌がらせを繰り返していたのですが、
アルノーの心の底の悪意を知った神官長によって、
これからも悪意の行動を続けて災いの火種になる(実際になってた)として、
デリアのようなわかりやすい罪がなくとも、極刑同然の処分をされています。
権力者の胸三寸で、罪がなくても都合が悪ければ平民を切り捨てるのすら当たり前にある価値観。
現代の日本の人権意識がなくて、司法に対する考え方も違う。
罪人であれば身内でも幽閉や極刑に躊躇が必要ない貴族社会でもあります。
現代日本とは違う文化や習慣や価値観の世界として設定を作っていて、
そこに文明品で変化をもたらそうとしているマインは明らかに異物。
そのマインでもこの世界で生きて行くのには、
貴族や既得権益との衝突でいろいろと大変だという話ですね。
作品に対して人それぞれ、いろんな考え方がありますが、
執筆当時に幼い子供もを持つ母親の価値観から創造された作品のアニメとして、
例えば家族の話であったり他のアニメとは違った楽しみがいろいろ得られたと自分は思います。
アニメはここで一区切りですが、また続きを観ることが出来たら良いなと思える内容でした。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。