nyaro さんの感想・評価
3.5
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ゲームは匿名会話劇の舞台。内容は30歳でもときめきたいという話。
女性の異世界転生(ゲーム転生)ものかと思い視聴。はっきり言えばまったくカテゴリーが違う、超ご都合主義恋愛シミュレーション(女性版)、あるいは昭和の少女マンガ(30歳版)という感じでした。
この作品は、会社を辞めるところからスタートするので、女性の生き方的なテーマ性があるのかなあと思うと、まったく違います。一言で言えば、数ある女性の願望のうちの1つのパターンを突き詰めた作品かと思います。
男女入れ替えに思想性があるかなあと思い、いろいろ考えましたがあまり感じませんでした。どうやって暮らすんだろうというビジョンも提示されないので、つまりゴールイメージは恋愛の成就=結婚かなあという感じです。
正直、ゲーム内の世界はゲーム攻略とかまったく関係なく、匿名の会話劇のためのアバターでしかないです。現実世界が男性なのに女性アバターが服装を気にするところとか、いかにも女性原作者(ですよね?)ですね。
この昭和の少女マンガのような、角を曲がったらぶつかって恋に落ちる…だけでなく、ツッコミどころしかないくらい偶然の連続が多すぎて要するに整合性というかリアリティは鼻から放棄している作品です。
金髪のモテそうなイケメンサラリーマン、しかも課金額とか食べているもの、身なりなどから言って稼いでそうです。これが現代のアラサー30歳女子にとっての白馬の王子様という話です。
すべてをなげうった=仕事をしなくていい状態を先に持ってくることで「私なんか」という昭和の貧困少女(要するにシンデレラ)の状況を作っています。そして、男との接触の機会がなかったけど、なぜか男から寄ってくる。しかも美しく変身します。
そして、いろんな男からチヤホヤされる逆ハーレム展開が「何も持たないヒロイン」の承認欲求を満たしてくれます。
更に女性→男性への恋愛感情が実はゲーム内のキャラと同一だっとということですから「匿名性」のおかげでルッキズムじゃないんだぞ、というエクスキューズもあります。
この構造を30歳あるいはそれ以上の女性に向けて発信した、男性用の異世界転生の女性バージョンと言えると思います。
男は現実とはつながらない世界で、スローライフをおくりたい、無敵になってハーレムを作りたい、などの欲求を持ちます。
女性は「現実世界で」「働かないで」「イケメンと」「ときめきの出会い」をして…ようするに「平均より上の生活ができて旦那が自慢できる専業主婦」になりたいということでしょう。ここをオブラートに包むために会社を辞める設定を先に持って来たのかもしれません。
これは昨今の「ときめき」主義にも通じるところがあります。判断において「ときめき」が重要とする人が増えているみたいです。「ときめき」とは「不安」「危険性」「未知」などからくるドキドキが正体みたいですけど、これを追い求めている人が非常に増えているみたいです。だから作中の匿名性とかアクシデントによる接触が重要なファクターになっているのでしょう。
つまり従来はときめきなんて10代まででしょ?だったのが30歳以降老人になっても「ときめき」が必要だというニーズに応えて、ストーリーにしたのが本作だと思います。
ただ、作中では最終回までゴールまでたどり着いてはいけないのでしょう。つまり、この恋愛が成就するまでのドキドキを楽しむ「ときめき」が大事だからです。ゴールしてしまえば、その先にあるのは現実と「飽き」、つまり「ときめき」が無くなるプロセスです。
ですので、こういう「ときめき」を口にする女性は浮気率、離婚率が高いみたいなのでなんですね。気をつけましょう。
ということで、本作は30歳になってもときめきたいという、女性の願望をそのまま作品にしたような感じです。ストーリーはご都合主義の極致でまったくリアリティはないです。
以上のように書くと、つまらない様に聞こえますが、ヒロインがなかなかのめんどくさい女性なのが魅力的なので、結構面白く見られたと思います。また10話だし、現実とゲーム世界があるので飽きないのも良かったでしょう。あるいは「ああ、こんな願望マンガががネットだと流行ったんだ」という気付きもありました。
なお、OPの前半部分のバックのアニメは作品世界の説明としてはなかなか秀逸なセンスでした。
また、1話冒頭のスーツ姿で疲れて帰って来て、花をゴミ箱に入れるシーン。これだけで状況がわかりますので、なかなか優れた演出だなあ、と思うと「会社に行かなくてもいいんだ」とセリフで行ってしまいます。ここはセリフ要らないでしょう…こういうところが惜しいですね。