ナルユキ さんの感想・評価
3.4
物語 : 3.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 2.5
状態:観終わった
ファンタジーとミステリーの属性反発作用
六花を「りっか」ではなく「ろっか」と読む本作。原作は『このライトノベルがすごい!2013』で3位を受賞、しかし当時はずっと『ソードアート・オンライン』や『とある魔術の禁書目録』のシリーズがトップを席巻してきた事情を鑑みれば、そこに初タイトルとして割って入ってきたという凄まじい快挙を持ち、内容がきちんと評価されている1作である。
その内容はファンタジー+人狼サスペンスという斬新なものだった。
【ココが面白い:偽者は誰だ? “7人目”に翻弄される勇者たち】
「復活する魔神を6人の選ばれし勇者が倒す」。この設定なら主人公が旅をする中でその選ばれし勇者がどんどんと仲間になっていき、最終的には魔神というラスボスを倒すのが王道かつシンプルなファンタジーストーリーと言える。しかしそんな内容では原作時点で数多の作品に埋もれ鳴りを潜めたに違いない。
仲間自体は4話という序中盤でもう全員集結してしまうのだが本題はここからだ。人数を数えると奇妙なことに1人多いのである。
天(一輪の聖者)が定めし勇者は6人。これは絶対的なこの物語の伝承であり例外はないとされる。さらに仲間が余計に多いことが知れる前には結界によって全員が森の中に閉じ込められてしまい、一同はどういう状況にあるのか理解してしまった。
この中に1人、偽者がいる!
そう、この作品はファンタジーでありながら同時に人狼的なサスペンスを提供する。絶対に6人しかいない勇者が7人。裏切り者は誰か?ファンタジーの世界であえて現代的な「サスペンス」や「ミステリー」を展開する事で原作ノベルでは読者の興味を一気に引き込み確かな人気を得た作品だ。しっかりと王道ファンタジーを匂わせたからこそサスペンスという属性に舵を切る物語が素直に面白いと評せる。
【でもココがつまらない:見どころの「遅刻」】
ただ残念ながら第4話で物語の本性を魅せるというのは2011年以降のアニメーションでは若干、遅い。その理由はアニオタなら「あの作品のせいか」と見当がつく次第だろう。
そう、『魔法少女まどか☆マギカ』である。彼の作品も1・2話は王道に見せかけて、第3話でその化けの皮を脱ぎ捨てたダークファンタジーだ。まどマギが作った「3話切り」の風潮は彼の作品の歴史的大ヒットと共に多くのアニオタに広まったと言える。その風潮にギリ間に合ってないというのは地味に痛い構成だ。
4話以前にも見どころがあり面白ければまだ良かったのだが、正直に書いて私には見つけられなかった。
第1話からして「勇者候補を自負していた主人公がそのまま順当に勇者に選ばれました」というだけの話であり何のひねりもない。主人公の戦い方やその強さはアピールされるものの、間もなくその辺の衛兵に捕らえられることでほぼ台無しになってしまっているし、そこから無期懲役を過ごすという時間の経過を描くのは無駄な描写に思える。
まどマギは見せかけである第1話でも「主人公が夢で見た少女が翌日転校生としてやってきた。その彼女は後々敵対する魔法少女かもしれない」という伏線にもなった訴求力の高い展開を入れ込んでいるのだが、この作品の1話は精々がんばって王道ファンタジーを装いましたね、としか評価できないのである。せめて2話の「六花殺し」と呼ばれるフレミーとの出会いを1話に前倒しておけばある程度の訴求力は確保できたのではないだろうか。
【ココもつまらない?:動いてはいるが止まって見えるぜ】
そして4話以降は異様なまでにテンポが悪い。原作がライトノベルの場合、1クールのアニメ化で平均約4巻分の内容が消費されるのが普通だが、本作はなんと第1巻で1クール────通常のラノベ原作の4分の1の内容でアニメ化してしまっている。話が間延びしてしまうのは当然で、とくに6話以降は話の停滞感を顕著に感じてしまう。
{netabare}描くのは状況証拠で主人公・アドレットに疑惑の目が向けられたことによる1VS6の四面楚歌な状況。率直に書いて「面白い」というよりも「可哀想、ちょっと見てられない」と思ってしまうような展開である。その中で主人公は殺されないよう奮闘していくのでミステリーとしては「事件は起きたが誰も死なない・脱落しない」という趣に欠ける展開を最終話手前まで引っ張ってしまった。
「話が動いてない」とまで言うのは語弊がある。濡れ衣を着せられそれを晴らせないでいるアドレットの絶望的な状況からの推理と逆転劇は『金田一少年の事件簿』の「金田一少年の殺人」のようなカタルシスやサスペンス的緊張感が味わえ、決して悪くない。
しかし、それを丁寧に描き過ぎているせいで本来の目的である「魔神の討伐」が遅々として────いや全く進んでおらず、最終話でようやく偽者を暴き出して「俺たちの戦いはここからだ」エンドで〆てしまい、もどかしさからの落胆ぶりが半端ではないのである。{/netabare}
出会ったばかりの仲間と衝突した分、何かしらの絆が芽生えたという点で本作は無駄な展開を描いてはいないのかもしれないが、本当にドライな方がファンタジーとして本作を観れば「序盤の森でワチャワチャしてただけ」と結論づけてしまっても可笑しくはない。
【そしてココがひどい:終わった後のキャラの好感度が……】
とかく、ファンタジーと人狼サスペンスは相性が良くないな、と思うのは視聴した後のキャラの好感度の低さである。
まあ、みんなあれだけシロだった主人公を短絡的に疑って命まで奪い取ろうとしたのだから、観てるこちらとしては他の勇者たちにどんな魅力を見出だせばいいのか困るわけだ。最終的には主人公に協力的になった勇者の株が上がり、最後まで敵対した勇者の株は下がる。そういう仕組みとなる。
{netabare}とりわけ酷いのが山の聖者・モーラだろう。彼女は年長者として勇者一行の中で積極的にリーダーシップを取っていき、始めは冷静な方針も打ち出していた。しかし一度アドレットに容疑がかかると思考は一変。頑なにアドレットが偽者だと断定し、彼を殺すためならと「仲間を手にかけた」という嘘の罪を着せてしまうのである。『Among Us』でこれをやったら次のゲームでは発言の信用を失ってしまう筈だ。{/netabare}
キャラクターへの感情移入が捗る演出としてはやはり過去回想を使うのが1番であるが、この作品は主人公以外のキャラ全員がミステリーにおける「犯人候補」であるため、シロかクロか一発でわかってしまう心情描写は入れられないときている。なのでヒロインの1人であるフレミーが人を信用しきれない理由────自身の凄惨な過去を語る際も「同情を誘ったウソの可能性」を考慮して映像の類いは一切挿入されず、本当の話かもしれないのにその感動は半減以下となってしまっている。
【他キャラ評】
ナッシェタニア
{netabare}最終話で本人も自己評価していたが、真犯人として行動に積極性が無かったことが残念。勇者一行は「時間のロス」程度しか被害を被っていないというつまらない結果に終わった。ただその分、偽者候補からは真っ先に外される筈なので多くの視聴者の度肝を抜くことにはなるだろう。
出来ればハンスも殺したかったのかな?「アドレットを庇うのは可笑しい」と度々書かれているようだけど、2話の手合わせである程度アドレットの力を測った上で「1VS6は過剰戦力」と考えて、従者のゴルドフの前で『仲間を庇う自分』を演じつつ、2人でハンスを殺そうとしたのではないだろうか。個人的には違和感は感じなかった部分だった。{/netabare}
ゴルドフ
{netabare}なのでこの男もモーラみたいにアドレットを偽者だと断定せず、普通に忠義を尽くしているナッシェタニア姫に従っていれば、アクションとしてはVSハンスという対戦カードが増えて充実した内容になっていただろうに────『野ウサギは自我を持つな』とはよく言ったものである(笑)
本作の性質上、会話劇も多かったのに彼に限っては口数が少ないのもどうかな、と思うところ。全体的に非常に勿体無い動きをしていたキャラクターと言える。{/netabare}
【総評】
このラノ入賞作品にしては期待外れで中途半端な作品と評する。ファンタジーと人狼サスペンスという斬新な組み合わせには目を見張るものがあったが、その相性の悪さがモロに出てしまってるのがマイナスだ。
結界を発動させてパーティを閉じ込めた7人目の勇者(偽者)は誰か。それが中盤以降の話の主軸となり、ミステリーアニメのごとく推理するのだが本作は剣と魔法の「ファンタジー」でもある。最終的にはパーティを全滅に追い込む筈の偽者があそこまで消極的だったのも各々がそう簡単には殺されない戦闘のプロだったり聖者という魔法の達人であるためで結果、濡れ衣を着せられた主人公がひたすら貧乏くじであったが、事自体はそこまで大きく荒立たない地味な展開を霧の森という変わり映えのしない舞台で繰り広げることとなってしまった。
トリック自体も「魔法」という超現象が絡み、後出しの情報が多く普通のミステリーアニメのように視聴者が「推理」することが難しい。犯人自体はミステリー慣れしてる人にとっては誰か目星を付けやすくはあるが、その犯人がどうやって主人公をハメたのかは本作が解説してくれるまで絶対に解らない。
{netabare}「霧の結界が発動したと見せかけるために太陽の聖者(六花の勇者ではない外部の人)を脅して周囲の気温を高乱下させていた」なんて我々には絶対予測が出来ないだろう。{/netabare}
これらを飽くまで「ミステリー風」とし本作のファンタジーストーリーに面白味と新鮮味を出す演出の一環として捉えようにも、この1クールが「1人の偽者」と「1つの事件」を解決する物語で締め括っている点、そして多くの登場人物の「犯人候補」らしい行動により好感度を稼げなかった点が今度は足を引っ張ってしまう。やはり「彼(彼女)はどうしてこんな性格なのか?」「どうしてこんな行動を取るのか?」といった人物像を掘り下げるのに回想が一切、使えなかったので名誉挽回がかなり厳しかったと言える。
主人公が濡れ衣を着せられて殺されてしまうのかというファンタジーでは中々見られない緊張感、そして7人目が誰かが最後まで本当に解らないというサスペンスやミステリーの面白さを得るためにその整合性や納得感、そして大半のキャラクターの魅力を担保にしてしまったようで、とても残念である。