フリ-クス さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
とある科学の反社会砲(ハンドガン)
金曜夜九時、中野駅近くにある安い居酒屋のテーブル席にて。
三十代の男Aと、職場の後輩らしき二十代半ばに見える男B女Aが、
生ビールを飲みながら話をしている。
すでに何度かビールのおかわりをして、半分ぐらい出来上がっている感じ。
男A「オレ思うんだけどさ~、メイド喫茶ってけっこうヤクザな商売だよな」
男B「あ、自分それわかります、センパイ」
女A「あたし、行ったことないからわかんない。そうなんですか?」
男A「そうよ。素人バイトが作ったオムライスやらなんやらでバカっ高い値段とってさ」
男B「まあ、ふつうの喫茶店として見たら、ほとんど崩壊してるっスよね」
男A「おまえさ、ちょっとこの焼き鳥に『おいしくな~れ、もえもえきゅん』って言ってみ」
女A「はい? (棒読み調に)おいしくなあれ、もえもえきゅん」
男A「食ってみ」
女A「はあ……。もぐもぐ」
男A「美味くなったか?」
女A「(口に含みながら)いいえ。……てか、なるわけないですよね」
男A「だろ? なのに値段が三割り増しとか倍とかなんだぜ」
男B「チェキとか、メイドさんと一緒に写真撮るだけで千円とかっスもんね」
女A「それ、めっちゃぼられてんじゃん。ま、かわいい子多いなら仕方ないのか」
男A「うんにゃ。ぜんぜん」
男B「まあ、並みならアタリって感じっスかね」
女A「え゛そうなの? ふへえ……。そんじゃ、みんな何しに行くんですか?」
男A「世界観の……共有?」
女A「いや、質問形で答えるのやめてくださいよ」
男B「あ~でも、わかるっス。その場の空気にカネ払ってるつ~か」
女A「なにそれ。水商売よりタチ悪いじゃん」
男A「だからヤクザだ、つってんの。水商売じゃなくて空気商売」
男B「オンナ慣れしてないヲタって、カネ巻き上げるのカンタンっスから」
女A「あこぎだ……ガチもんのあこぎだ……」
男A「だからさ、いっそ、全部ヤクザが経営してるって方がすっきりすると思うわけよ、オレは」
男B「あ~、それいいっスね。抗争とかあったりして」
男A「メイドもみんな構成員でさ。上納金あつめんのに四苦八苦してたりすんの」
男B「対立してる店のメイド、パンしちゃったりするんスかね」
男A「そりゃあるだろ、カチコミとかもふつうに」
女A「あのお~、オタクの人たちって、そんな物騒な店行くんですか?」
男A「いやほら、そこは表の顔と裏の顔ってやつでさ」
男B「きゃぴ~んなんて言われて大ヨロコビしてる連中っスよ。騙すのなんかわけないっス」
女A「ん~……そこはまあ、そうかなあ。あ、生チュ-おかわりください」
男A「でさあ、男だけでなく女の子もたまに騙されるわけよ。メイドに憧れて上京したりさ」
男B「そいで、タコ部屋にぶち込まれて抗争巻き込まれたりっスね」
男A「そ~そ~。そいでも『あたしは暴力キラいです』ってツッパったり」
男B「そのくせ、やたら戦闘能力高かったりするんスよ」
男A「んで、ムショ帰りの姉さんメイドに背中で語られたりするわけだ」
男B「そいで『極道』ならぬ『メイド道』に目覚めたりとかしちゃうんスよね」
男A「わかってんじゃねえかおい。まあ飲め飲め」
男B「飲むっス」
女A「(ためいき)はあ~っ。ほんと、男の子ってこういう話好きよねえ」
男B「好きっス。アニメ化して欲しいぐらいっス」
男A「ん? ん~~……ひょっとして、これ、いけんじゃね? アニメ化」
女A「はあっ?」
男B「おおっ」
男A「だって、男ってヤクザもん好きじゃん? メイドも好きじゃん? だったらいけんじゃん?」
男B「マリアー~~ジュうっ!」
女A「いやいやいやいや。そんなもん、誰が板買ってくれんですか」
男A「舞台をアキバにして人気声優とか使ったら大丈夫だって」
女A「いやいや、アキバって萌えの街なわけでしょ? ヤクザって似合わないじゃないですか」
男A「うんにゃ。アキバが萌えに走ったのって、この二十年ぐらいだから」
女A「マジで? 昭和の話とかではなく?」
男A「そ。それまでは小汚い電気街でさ~。設定を1999年ぐらいにしたら、雰囲気とかバッチシだから」
男B「そっちの方が、おっさんヲタが懐かしヨロコブんじゃないスか?」
男A「だよな。つ~か、おっさんヲタの方がカネもってるもんな」
女A「も~。またそうやって他人(ひと)のサイフ覗き込むようなマネを」
男A「なに言ってんだ、マーケティングだよマーケティング」
男B「そうっス。カネのあるトコロからかっぱぐのは正統なビジネスっス」
女A「あ、かっぱぐ言った」
男A「よっしゃあ、なんか燃えてきた。おいおまえ、企画書かけ」
男B「書くっス」
女A「マジですか~。やめましょうよ、通りませんって。また笑われるだけですよ」
男A「だいじょうぶ。ウチの会社バカばっかだからゼッタイ通るって」
男B「通るっス」
男A「タイトルは『アキバ冥途戦争』。あ、メイドはカタカナじゃなくって漢字。極楽浄土の『冥途』な」
男B「ぎゃはははは。サイコ-っス」
女A「え~~……」
というような会話が実際にあったのかどうかはわかりませんが、
おそらくはそんなグダグダ話だったのが本当にアニメ化までされちゃったのが、
本作『アキバ冥途戦争』であります。
制作はみんな大好きP.A.WORKS。
お仕事アニメに飽きたのか疲れたのか新機軸を模索中で、
前作『パリピ孔明』同様、みごとな迷走っぷりです。
面白いかどうかは、本当に「人による」としか言いようがなく。
僕個人としては、こういう
『アホなことを大真面目にやる』
という作風は大好きですし面白いとも思うのですが、
本当にパンしちゃったりしてるので苦手なひとは苦手かもです。
(というか、安倍元総理の事件の後でよくOAできたなあ、と)
基本的な構成は前フリ(長げ~よ)のように、
血で血を洗う抗争を繰り広げる1999年の秋葉メイドカフェ業界で、
そういう世界だとは知らずメイドに憧れて上京したヒロインが、
ガチやばい環境に巻き込まれつつ自分の道を模索していく感じです。
(まあ、広義のお仕事系アニメと言えなくもなく)
お話は、だいたいは1~2話完結式。
ただし、その都度状況が変わって物語がうまく転がっていくので、
惰性的なワンパタ感はありません。
物語の中心は主人公が勤務するさえないメイド喫茶で、
多店舗展開しているケダモノランドグル-プの最下層に位置する『とんとことん』。
対立するメイドカフェグル-プとの抗争だの合併だの、
15年前の抗争事件の仇討ちだのという泥臭い背景を抱えながら、
必死にあがいて生きていくメイドたちの群像劇的なアレになっております。
ふんっ、メイド+ヤクザなんて、
どうせ中途半端なスラップスティックコメディなんでしょ、
なんて思ってたら大マチガイ。
毎回、人、死にます。ガチで。
大真面目にメイドさんが任侠・極道やってるわけですよ。
もちろんコメディ的な演出も随所にあり、
なんでこんな街をケーサツが放置するかなとかツッコミどころも満載。
おバカな設定をこれでもかとシリアスにやりきる、
徹頭徹尾ブラック・ジョ-クに特化した、
ちょっと類を見ない感じの『おバカ殺伐エンターテインメント』なのであります。
{netabare}
「幸せになろうなとどはメイドの道に入ったときから考えておりません」
なんて台詞がさらっと出てきちゃったりして、
脚本家さんもノリノリで書いているのがまるわかりですしね。
{/netabare}
役者さんや制作者が口々に本作を『お仕事アニメ』と呼んでますが、
それもまたブラック・ジョ-クで言ってるわけで、
そこがわかんないとまるっきり楽しめない一本なのではあるまいかと。
僕的なおすすめ度は、
完全に『人による』という前提でAランク。
そもそもブラック・ジョ-クというのは、
アニメに限らず、基本的にあまり日本人ウケしないテイストなんですよね。
感性というか国民性というか、
『くまみこ』だってボコボコに批判されちゃうし、
天下の北野武監督だって、
ヴェネツィアで金獅子とるまでは国内で見向きもされなかったわけで。
(『ソナチネ』とか、めっちゃ面白かったんですが)
ですから、たとえばバーホーベンの『スターシップ・トゥルーパーズ』あたりを
こんなおバカな話にこんなカネかけて、ほっんとバカだね~
などと(好意的に)笑いながら見ていられる方なんかにオススメの一本かなと。
ただし、ホントに類を見ない作風なので、世界観をつかむまでは一苦労。
エラそうに書いてる僕にしたって一話を見たときは
えっと……なんじゃこれ?
とか思っちゃいましたし(一話切りした方、けっこう多いのでは)。
頭の上に『?』マ-クを浮かべながら2~3話ぐらいまで視聴して、
そうかそういうことかと腑に落ちてからは、
なんとなく目が離せなくなって、
4話あたりで自信が確信にかわった次第であります。
そう思って見てみると、キャスティングからしてブラックジョークそのもの。
主役である和平なごみ(近藤玲奈)さんを囲む『とんとことん』のメンバーは、
・万年嵐子(ムショ帰りで35歳の新人メイド)
→佐藤利奈さん『とある科学の超電磁砲』御坂美琴役
・ゆめち(店のエースメイドにしてバクチ打ち)
→田中美海さん『ハナヤマタ』ハナ・N・フォンテーンスタンド役
・しぃぽん(銃火器の扱いが得意なガングロメイド)
→黒沢ともよさん『響け!ユーフォニアム』黄前久美子役
と、極道とは真逆の出世作もってる役者さんばっかだし。
いやほんと、アクセラレータもまっつぁおのベクトル変換であります。
その他の役者さんも、ゲストキャラに至るまで豪華そのもの。
クライマックス直前、10話まで生き残っていたキャラでいうと、
高垣彩陽さんでしょ、それと皆川純子さん、小林ゆうさん、
さらにはパンダの中身が平野綾さんだったってのに思わずびっくり。
{netabare}
で、準主役だった佐藤利奈さんも11話でぶっすり。
皆川純子さんも最終話でパンされて、
いやほんと、近藤さん、よく最後まで生き残ったもんだ。
{/netabare}
それまでにあえなく死んじゃったキャラも豪華ケンラン。
諏訪部順一さん、内山昂輝さん、
喜多村英梨さん、石見舞菜香さん、竹達彩奈さん、小松未可子さん、
生天目仁美さん、小倉唯さん……{netabare}
高橋李依さんなんか「はい」「ありがとうございます」の台詞二つだけで、
出てきて30秒でパンされちゃってるもんなあ。 {/netabare}
まあ、役者さんというのは基本的に
こういう『おバカを真面目にやる』という芝居が大好きなので、
みんな大喜びで演ってると思いますが。
映像は、1999年秋葉原の『小汚い感』がしっかり出ていてよき。
作画や動きは……まあ、こんなものかしら。
あと『パリピ孔明』でコレジャナイ感が強かったモブキャラですが、
メイドカフェの客層の『たいしたことなさ』が見事に表現されています。
やっぱP.A.WORKSさんはパリピじゃなくてこっちですね。
あと、殺されちゃたけど、内山昂輝さんの演じた取り立て屋、
キャラデがとってもナイスです。
いやほんと、当時ってこんなやつばっかだったんですって。
音楽はOP・EDとも、映像との合わせ技で出色の出来。
OPは世界観をばっちり表現できてますし、
ただ歩いてるだけなのにガラ悪さが伝わってくる最初のカットが秀逸。
作画はもうちょい頑張れ。
EDは、わかる人にはわかる、爆笑必至のド演歌になっております。
歌詞もよくできているし、
なごみが銃弾ポトリと落とすカットは拍手喝采もの。
そしてなんと言っても、
これを唄っているのがレールガンこと佐藤利奈さんなのがサイコ-です。
(佐藤さん、楽しかったろうなあ)
最終話だけ歌唱が近藤玲奈さんに変わっているところも、
本編のシュ-ルなエンディングと合わせ、
いやあ、芸が細かい。
(近藤さん、時系列に合わせて歌と最後の台詞、声かえてますしね)
というわけで、僕的には大ヨロコビの本作なのですが、
賛同していただける方はけっこう少ないだろうなあと思っております。
何度も言うけれど、日本向けの作風じゃないんだもの。
ガイジンさんなら手を叩いて喜びそうだけど、
これ、海外番販売れるか?
大手はまずムリだからやっぱネット頼みしかないような……。
だからまあ「なんで作った?」という声はいつまでも続きそうだけど、
こういうチャレンジ精神は大事です。
よくやった、P.A.WORKS。
あと、MX、KBS京都、サンテレビと、
こんなヤバいアニメを地上波が三局も流してくれてるのというのは、
ほとんど奇跡みたいなものではあるまいかと。
まあ、KBS京都は地上波で唯一、
あの『異種族レビュアーズ』を定時枠で完走した局ですしね。
なんでもアリっちゃアリなのかも知れません。
そういえば『異種族レビュアーズ』も本作と同様、
誰得なのか皆目わからず、
作ったり演ったりしている人間が一番楽しそうなアニメでしたね。
まあでも、
制作も役者も最初から匙を投げているような作品が多い昨今、
こういうアニメは希少であります。
出版社だの声ブタだのが喜んでいるだけで、
制作者や演者はこれっぽっちも楽しくない、面白いとも思わない、
そういうアニメを日々『プロ』として粛々と作っているわけですから、
たまにはこういうご褒美、
キワキワの作品があってもいいんじゃないかと拙は思うわけです。
はあ? なに言ってんの。こっちゃカネ出してんだよ。
いいから原作どおり作りゃいいんだよ、
たかがアニメに芸術家みたいなこと言ってんじゃねえよ。
なんて真顔で言うやつら、ほんとにけっこういますしね。
ここだけの話、
誰かパンしちゃってくれないかしら。