nyaro さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
人間の描き方が凄い。特に女性が良かったです。裏には芸の恐ろしさが…
この作品の大きな特徴は、キャラの描き方、特に女性…そして年上の描き方だと思います。原作はアニメの範囲は既読です。この先も若干知っています。なので原作の情報も入っていたらすみません。
なんといっても、初めに出てきた立樹ユナですね。この後登場するかわかりませんが、半同棲の彼氏がいて芸能界を目指すキャバ嬢。雪にとって初めての東京で頼りになるお姉さんです。
ですが、立樹ユナの内面と状況が見えてきます。彼女の夢の終わりと入れ替わるように、雪が自分の音探しを始めるわけですが、1話できっぱりいなくなるキャラを置いたのは素晴らしいです。
彼女のおかげでこの物語が何を目指すのか、雪というキャラはどういう人間か、などを上手く描写していました。
それにしてもこの立樹ユナは魅力的なキャラでした。いわゆる「だめんず」にやられてしまった、貢ぐ女でしたが、この子の性格の良さと、学生時代に持てはやされて夢見てしまったような田舎少女がよく描けていました。彼氏の才能は認めていても、雪の才能の凄さの前に圧倒され委縮したところも良かったです。彼女が描けているからこそ部屋=夢を追う立場と才能のバトンタッチが効果的でした。将来再び雪の前に現れるのでしょうか。
そして母親です。母はカベとか対立、抑圧の象徴、あるいは受容、助言、指導などの母性の象徴として記号的に描かれることが極めて多いですが、目的と立場、性格をちゃんと持った人間として描かれていました。また、中年だと思いますが、美しく描いているのも、ファッションのレベルが高いのもいいですね。
教師にしても、同級生や下宿の中学生の女の子にしても記号的でないキャラ立ちがちゃんとしていました。
男性たちもそれぞれがテンプレキャラではなく、物語を展開するのにうまく役割と性格付けをしていました。それだけに男性作家作品に慣れていると、ちょっとストーリーの理解が難しいかもしれません。
ちょっと佐々木倫子的な性格のデフォルメ…あるいは才能の世界ということでは「ちはやぶる」みたいな印象も受けます。家族関係は「かげきしょうじょ」も思い出します。女性作家の視点ですね。
それだけに特徴がきついケースもありますが、そのクセのあるキャラクターを上手く動かして、女性作家的人間描写が非常に物語に説得性を持たせていました。
この作品の良いところは、人間一人一人が、記号=コマでなくちゃんと人間として描かれているところでしょう。
ですので、長期連載でもこの描き方なら、展開はキャラが勝手に動いてくれる気がします。
で、ストーリーですが、模倣すべき相手=目標を見失いつつ、立樹ユナとの出会い、周囲の目論見に巻き込まれる形で自分の中を見つめて行き、合わせる、そして聞いてもらうという、周囲との関係まで行き着きました。最後は模倣と自分らしさの折衷まで行き着きました。この後どうなるか、ですね。
三味線のウンチクは、かなり描いているとは思いますが、正直そちらに興味は行きません。三味線という「芸」の世界の雰囲気を感じればいいと思います。というか、本題はそこにつながる気もします。
じいちゃんとは、つまり芸の亡霊だと思います。そのためだけに生きた人間の執念が、登場人物たちの呪いになっているという恐ろしもある作品だと思います。その執念=芸の怨念から主人公は逃れられるのか、という話にも見えます。
あのお祖母ちゃんが登場した意味は、何十年も人間を絡めとる芸の恐ろしさ、ホラーだという意味もあるでしょう。立樹ユナが才能の呪縛から解かれたのは救済の意味もあると思います。
三味線(長唄)の世界の狂気を描いた「絃の聖域」(栗本薫)という古い推理小説があるので、その作品と通じるものがありました。
最終回で単なる部活ものでないのがわかるのがいいですね。三味線から何かを得た人と、三味線が目的な人の考え方の差が良かったです。
正直絵柄は、原作の雰囲気を出そうとして、失敗している感じがあります。もっとアニメ絵に寄せたほうが見やすかったと思います。
アニメ作品としては、原作の良さを活かしきれているのは音楽が聞こえていることくらいでしょうか。
ただ、三味線の聞き分けはできないです。制作陣も分かっているのでしょう。ボリュームや、エフェクトと作画の迫力ですごさ、登場人物の表情とモノローグくらいでしか表現できていませんでした。聞く人が聞けばわかるのかもしれませんが、評価のしようがありませんでした。
評価としては作画、キャラデザが気に入らないので3にしています。その他は高水準です。キャラの点数を満点にしないのは、周囲のキャラはものすごくリアリティがあるんですけど、正直肝心の主人公の内面が描けてない気がしたからです。