蒼い✨️ さんの感想・評価
4.4
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
あったかいアニメ。
【概要】
アニメーション制作:京都アニメーション
2009年4月3日 - 6月26日に放映された本編12話と番外編2話で全14話のTVアニメ。
原作は『まんがタイムきらら』と『まんがタイムきららキャラット』
にて連載されていた漫画作品。
著者は、かきふらい。
監督は、山田尚子。
【あらすじ】
なんとなくぼんやりとマイペースに生きていた平沢唯は、桜が丘高校の新入生。
どの部活に入ろうか迷っていた唯だが、職員室で偶然居合わせた女子高生二人組の律・澪と、
音楽教師の山中さわ子先生の会話を聞いて、軽音部の存在を知る。
軽音楽って何をするのかを全く知らずに、「軽い音楽をする部活」
だからとカスタネットでいいのかな?と部室である音楽室に足を運ぶ唯。
実は軽音部は昨年までいた部員が全員卒業して、
部を構成する最低人数の4人集まらないと廃部の危機だった。
一年生の田井中律が幼なじみで文芸部志望の秋山澪を強引に勧誘して、
合唱部に入るつもりだった琴吹紬も楽しそうという理由で入部。
ギター募集の軽音部でのバンド活動は絶対無理と入部辞退しようとする唯に、
必死に食い下がる律は、せめて自分たちの演奏を聴いて欲しいと申し出る。
律・澪・紬の演奏を聴いて入部を決心する唯。
その理由が「楽しそう」「あんまり上手くなくて自分でも出来そう!」
初心者の唯は、勧められるままにギターを買ったり練習したりで、
充実した部活動を軽音部の仲間と行っていくのだった。
【感想】
「夢や希望、感動を育むアニメーションを世界中に届ける」というのが、
八田英明社長が口にする京都アニメーションの理念ではありますが、
[名](スル)ある物事に深い感銘を受けて強く心を動かされること。
「深い―を覚える」「名曲に―する」
感動とは、喜怒哀楽どれにも通じるものでありまして、泣くこと限定ではなく、
ハラハラ・ドキドキしたり、観ていて心が温かくなって笑顔になることもそれぞれが感動の一つです。
アニメーションでそれを視聴者に伝えるのに京都アニメーションが採用した手法は、
奇をてらわずにキャラクターの笑顔や泣き顔などで素直に感情を伝える。
そのために技巧に裏打ちされた映像の表現力を磨く。
その技巧とは監督や演出家の演出意図を読み取ってコンテからアニメーターが芝居を考える能力。
それを当たり前のように行っている京アニへの業界評価のひとつに、
元アニメーターで漫画家の宮尾岳氏が「ハルヒ」や「らきすた」は描けても、
「けいおん!」は、物凄く難しいと断言しています。
キャラの内面を理解して細かいニュアンスを重視して動かす、
それは注目を浴びやすいアクション作画と比べて地味であり、
更には難易度の高い日常芝居の仕事の積み重ねを丁寧に行うことで、
それがキャラクターの存在感になっている。
ベテランアニメ演出家の杉井ギサブロー氏(代表作は監督をした「タッチ」)や、
サンライズで数々のロボットアニメで監督業をした高橋良輔氏などといった、
昭和のセル画アニメの生き証人から絶賛をされている京アニクオリティなるものの基本がこれですね。
その一朝一夕では身につかない技術を集団で共有していて、マネージャースタッフを配置したりで、
スタッフ間のコミュニケーションを正確にして作画のロスやリテイクを減らして、
アニメのキャラクターに生命を吹き込むと比較的にローコストで映像の質を高める組織運用の手腕。
それらをベースに、同社ののちの数々の作品にも共通していることですが、
元から京アニが評価されてきた作画の技術力をアニメーターにとっては難しいと言われる、
日常芝居に全振りするという、京アニの映像づくりの方向性を決定づけたのが、
「けいおん!」であると思っています。
後年のオリジナル作品である「たまこまーけっと」と共通の特徴であることから見るに、
山田尚子監督や堀口悠紀子さんらの意向がキャラクターの表現に反映されているのでしょう。
「けいおん!」では足が太くて若干丸みを帯びている容姿や愛嬌重視の芝居がキャラの特徴です。
それまでの京アニの代表作は「涼宮ハルヒの憂鬱」「CLANNAD」であり、
特に鍵っ子向けのアニメではスレンダーで幼いデザインの少女キャラが好まれていたのと比較して。
そこにはなかった女性視点の“カワイイ”やスキンシップといった価値観をふんだんに盛り込んで、
女の子はちょっと太っててもそれが可愛いんだよ!みたくに二次元の創作の作り方に、
時代の先取りをして一石を投じてしまった画期的なアニメではないでしょうか?
このアニメに対して『中身がなくてストーリーがつまらない』という意見が当初からあります。
原作漫画の唯たちの卒業までを読んだ自分としては、身も蓋もない言い方をしますが、
凡庸な原作萌え漫画から、ほぼ内容を変えないで、
映像と演出の力でキャラを肉付けしてこれほどのヒット作を作れるのかと、
監督以下個々のスタッフ一同の働きぶりに感嘆するところではありますね。
ただ、自分もストーリーが一部微妙だと思ってた口。
(Gibsonのレスポール・スタンダードのギターを25万円→5万円に値切り、
別の話ではギターのチューニング代5000円を無料にするよう店員に圧力をかける)
そこは原作通りだと横暴でよくないと脚本家などが思ったのか、原作ではギターのチューニング代で、
紬が店員を恫喝して無料にしていたやりとりが、アニメでは双方の態度が変更されてますね。
また、9話や11話でシリアスなアニオリパートを挿入したことから、
ほのぼの楽しい部活動だけじゃアニメとして薄っぺらいという自覚があったのでしょう。
特に11話での普段とは違う律の行動に思春期特有の麻疹のような嫉妬や拗らせがありまして、
人間は単純ではない!普段目に見えてるものがその人の全てではない!
みたいに原作にないキャラの複雑さを付け加えようとして、
それが「たまこまーけっと」の常盤みどりや、「リズと青い鳥」に重なってる部分があったりして、
11話は脚本が吉田玲子さんで絵コンテ・演出が高雄統子さんですが、
原作にない部分に、山田尚子監督がアニメでやりたいことが垣間見えたりで、
後の仕事につながる萌芽が見えたりしたのは興味深かったですね。
これまでの京アニの技術が反映されている大ヒットアニメですが、
2期からは更に演出やレイアウトや色彩や美術などが強化されていますので、
「らきすた」の影響がまだ残っている1期は若干評価が落ちるというのが正直なところですね。
ともあれ、京アニの演出や技術がどのように変化していったか、
ちょうど端境期にある資料的な意味のある作品としても、興味深く楽しめるものではありました。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。