「ひだまりスケッチ×☆☆☆[ほしみっつ](TVアニメ動画)」

総合得点
69.7
感想・評価
472
棚に入れた
2759
ランキング
1742
★★★★☆ 3.9 (472)
物語
3.7
作画
3.8
声優
4.0
音楽
3.8
キャラ
4.1

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ネタバレ

かがみ さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

日常系の古典

大きく言えば「日常系」と呼ばれる作品群の台頭は現代という時代に対する一つの優れた回答であったといえる。人は世界に棲まう上でその生を基礎付けるため何かしらの「物語」を必要とする。この点、かつて「大きな物語(社会的規範)」が機能していた近代においては多くの人が自身が所属する社会の「大きな物語」に遡行する事で自らの生の意味を基礎付けていた。ところが「大きな物語」を決定的に喪失し「終わりなき日常(宮台真司)」「データベース型世界(東浩紀)」「不可能性の時代(大澤真幸)」「郊外化した世界(宇野常寛)」などと様々に名指されるポストモダン的状況が加速する現代において、いずれにせよ人々は「大きな非物語(アーキテクチャー)」から生成される「小さな物語(コミュニティ)」をそれぞれ任意に選択して生きることを余儀なくされた。こうして現代における文学的想像力は様々に異なる「小さな物語」同士の関係性をいかに描き出すかという課題を背負い込むことになった。この点、ゼロ年代初頭のオタク系文化においてはポスト・エヴァンゲリオン的潮流に属する「セカイ系」と呼ばれる想像力が一世を風靡したが、やがて「セカイ系」は複数のセカイが無根拠な正義を巡って不毛な抗争を繰り広げる決断主義的な想像力へと先鋭化することになった。こうした中でゼロ年代中葉以降のオタク系文化において「セカイ系」の限界を乗り越える形で台頭し始めたのが「日常系」と呼ばれる想像力であった。いわば「セカイ系」が理想化されたひとつの「小さな物語」へと引きこもる/開き直るキャラクター的実存に依拠した想像力であったとすれば「日常系」は異なる「小さな物語」同士が紡ぎ出す「つながり」の中で瑞やかな日常を再発見していくモバイル的実存に依拠した想像力であるといえる。そして、こうした「日常系」を代表する作品のひとつに「ひだまりスケッチ」を挙げることができるだろう。

同作のアニメ3期目となる「☆☆☆」ではゆの達ひだまり荘の面々は学年がひとつ上がり、新入生の乃莉となずながひだまり荘の新たな住人となる。乃莉はデジタルガジェットに通暁する新世代として、なずなは唯一の普通科かつ地元民として、ひだまり荘の「つながり」を再活性化する他者性を持ち込む事になる。この点「☆☆☆」は当時前人未踏であった日常系アニメ3期目に初めて到達した記念碑的作品でもある。世に多くの日常系作品が氾濫する今でさえ同一タイトルが3期にわたってアニメ化されるという事態は極めて稀有なケースである。そしてその事実は日常系の生命線である「つながり」の瑞やかさを長きにわたって維持することがいかに困難であるかを例証しているといえる。こうした意味で同作が「日常系の古典」といえる地位を決定的なものとした契機は今振り返ればまさしくこの「☆☆☆」であったように思えるのである。

投稿 : 2022/11/22
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