蒼い✨️ さんの感想・評価
3.1
物語 : 2.0
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
I Can Fly.
【概要】
アニメーション制作:京都アニメーション
2009年1月 - 3月に放映された全9話のTVアニメ。
監督は、木上益治。
【あらすじ】
13歳の中学生の少女の日高ユメミは雨の日が好きだった。
その理由が、晴れた日には空に浮かぶ天上世界の地を彼女だけが見ることが出来て、
見ることが出来ない男の子たちから夢見てばかりの嘘つきと幼い時にからかわれて、
それで、空を見上げることをユメミはしなくなり、
曇り空は空の上の大陸を隠して見えなくしてくれるからだった。
ある雨の日にユメミが親友の小野以知子と今村涼芽と一緒の下校中に、
赤い髪で尖った耳、天上世界の魔導王を名乗るムントという少年が現れて、
ユメミのことを“運命の娘”と呼び、『俺様に力を貸せ!』と言ってきた。
ムントは地上の空に映る大陸の、実は地球とは別の時空にある魔導国の王であり、
ムントのいる天上界と地球の地上界は、
アクトと呼ばれる万能エネルギーが循環することで保たれていて、
その循環が機能しなくなったことで、
今のままではアクトの枯渇で天上界は消滅に向けた破滅と崩壊が進み、
やがては地上界もアクトの枯渇で同じ現象が起きてしまうという。
それを回避して二つの世界を救うにはユメミのちからが必要で時間がないと言うムント。
現実味のない話に戸惑い、私なんかに何が出来るの?と答えるユメミ。
ユメミはムントと協力して二つの世界の未来を守ることが出来るのか?
これは、世界を救う鍵として選ばれたユメミの心の成長の物語である。
【感想】
数々の藤子不二雄原作アニメや「クレヨンしんちゃん」などのシンエイ動画作品を中心に、
グロス請けを任されたり下請け仕事で実績を長年積み重ねてきた京都アニメーションが、
下請け専門会社からの脱却で自社制作アニメに舵を切って作った、
初めての完全オリジナルアニメであるOVA。その「MUNTO」が2003年に発売されて、
更には2005年に続編が出ていまして、監督は、実績を買われて請われての1991年の入社以来、
京アニでは最重要のお手本アニメーターであった、ベテランの木上益治さん。
この作品は改題をして、声優をほぼ総入れ替えて、既存のOVA2本をTVシリーズとして再構成をして、
6話後半から最終回までの第3部の新規アニメーションを付け加えたというものです。
観た感じでは、後年の京アニ作品と違って線が少ないのは別に問題ないのですが、
妙にキャラクターの体つきがヒョロヒョロで手足が細長く、
価値観が古いのか特に少女キャラが幼く描かれていますね。
天上界はコンシュマーゲームのRPGのようなファンタジーとSFの融合世界で、
世界の理は「魔法騎士レイアース」の異世界セフィーロに若干似ているでしょうか?
キャラ同士の会話の内容はゲームのイベントシーンのムービーのよう。
作品の設定を映像と演出だけで伝えるのが難しいのか、視聴者に向けた説明台詞の羅列が多く、
舞台演劇のような台詞回しによる会話のキャッチボールが抽象的であり、結論ありき且つ、
目に見えないものを信じることで初めて成立するスピリチュアルなものであるから、
キャラクターに共感することが至って難しく、視聴者が作品のメッセージ性を理解して、
納得することで、初めて内容を楽しむスタート地点に立てるというものでしょうか?
元々、京都アニメーションはアニメーターの職工集団的な性格が強く、
ゲームや漫画といったお手本になる原作、フルメタでいえば別会社の既存の設定資料があれば、
それを研究して映像化する学習意欲と表現技能があるのですが、
ゼロに近い状況から作品を創造するというクリエイティブな部分では当時はヨチヨチ歩きであり、
単にクリエイターが作りたいシーンを寄せ集めて作ったかのような、
昭和や平成初期のOVAと似たような傾向のあるアニメーションが、
京アニの知名度の低かったことがあるものの、
「MUNTO」がウケなかったのもやむを得ないところでしょうか。
京アニが一定の名声を得た後の2009年のこれですら、やはり人気作に程遠かったのですので、
元からそんなに面白い作品ではなかったのは事実ですけどね。
京アニが角川原作やKey原作のアニメを多くこなすことで経験を積んで会社としてレベルアップして、
「けいおん!!」あたりで演出のイノベーション(刷新、変革)を迎えて、
表現力の円熟が、「響け!ユーフォニアム」や「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」
などの下地になるのですが、それは未来での話。
アニメーションとしての見せ場の数々は、後年の京アニの発展の土台といっても差し支えのない、
技術の見本市みたいな資料としての価値がこのアニメにはあるものの、知名度の低さも手伝って、
数々のアンケートで京アニ歴代作品の人気アンケートで最下位の常連というものに相応しく、
視聴者を楽しませるのには拙い作家性をプロの匠の技で完成させたような、
ちぐはぐなアンバランスさ。
人様に自信を持って、『これは素晴らしい作品だ!』
と紹介するには能わないのがこのアニメでしたね。
後年に木上さんが監督をした、「バジャのスタジオ」はとても良かったですので、
既に得ていた天才アニメーターとしての名声に慢心をせずに、
指導的な立場にありながらも、堀口悠紀子さんなど京アニの後輩から教えを請うてまでの、
作画の引き出しを増やすための貪欲なまでの技術吸収の意欲の結実が後の作品にあったのでしょう。
このアニメに対しては、あまり高くは評価はしませんが、
自らが手本となって京アニの精神を体現したかのような木上益治さんの生き方への敬意。
京アニクオリティと称されることが度々多いアニメ制作会社ではありますが、
最初から全部出来ていたわけではない。一歩一歩の積み重ねがあったということ。
人や会社の歴史への思いを馳せるところが、このアニメを観ていて思ったことでした。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。