じん さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
素晴らしいの一言。日本アニメ最高の更新をいくつも見ることができるとは。
新海誠の作品では最高傑作だと公式が謳っていた。
流石に、これは映画館で鑑賞したいと思ってパートナーを誘って行ってきた。
君の名は。以来の深海作品の映画館鑑賞だったが、とんでもない熱量を感じる一作だと言えるだろう。霜月故の映画館の暖房設定などではなく、実際にクリエイターたちの魂をスクリーンの裏に見たのである。
まずは作画から。シン・エヴァンゲリオンの作画を見て以来あれを超えるコンテ力を持った天才は現れないだろうと思っていたが、新海誠はそれを超える画力で描き切ってきたと思う。細部に至るまでの背景設定を徹底したデザインや、画角の使い方など語るとキリがないが日本アニメ映画の最高を更新したと私は言い切りたい。古い車が高架の繋ぎを通る時の振動、緑色に染まったトーク画面、どこを切り取っても広義のmotionがあり、登場人物の感情や設定が楽しい。まず作画が好きならこの映画は一切の空腹を与えないはずだ。本当によくやった。最高のアニメーターだよ新海!!
監督の前作である天気の子では不満があった声優も、今作では洗練された演技で違和感を感じることなく見ることができたと思う。{netabare} 芹澤の声でところどころ疑っていたが、最終的に神木隆之介でちゃんと答え合わせできた。主役級の二人も、最後までよく演技し切ったと思う。「お返し申す(します)!」ほんと素敵。最後にはこの声じゃなきゃと思うほど。深津絵里さんもいい演技だったし、染谷将太は漁協のあの人だって完全に気づかなかった。 {/netabare}
この映画の物語の総評をしながら、劇場で配られたパンフレット(どの劇場でもいつでももらえるわけではない点について注意)について触れておこう。
{netabare} この作品の企画段階での構想が書いてある。新海監督はこの作品を通じて「少しでも見た者の生が高揚することを願います」と言っている。この物語は、ミッションを通じて生きていくことにまっすぐ向き合う作品と考えて良いのだ。実際に、企画段階のコンテから常世での過去のすずめの記憶が美しい光景として刻まれると書いてある。実際に2度と会うことが叶わなかった母の形見となった椅子を与えてくれた相手は誰なのかという問いにミスリードをある程度加えながら物語は展開してゆく。日本人として多くの同胞を失い、今も日常に潜んで恐怖の渦中に落とし込む地震は絶望のメタファーとして上手くマッチしていると思う。この時点で新海監督の企画段階での構成が秀逸だったかがわかる。
日本人の向きあう課題は震災にとどまらず、本作に出てくる数多の自然災害に荒廃していく田舎や閉鎖してゆくリゾート(宮崎のホテル型リゾートらしき建物は元鹿児島県民だが頷いてしまった。)に対する過去の人々の想いなど絶えない。これに少しでも思いを馳せることができたらという監督の願いなのだろう。
主人公をすずめにして、過去の自分を越えていこうというメッセージを全面に出せたのもよかった。人の力でどうにもならない天災は日本に限らないが、地震の巣である本邦には失ったものを心の奥に隠し、それと共に生きている人間が私が見るよりもたくさんいるのだろう。当事者の解像度が低いと言われるかもしれないが、同じ国の光景として悲惨な映像を共有されてきた私も最後のシーンには胸が熱くなった。 {/netabare}
この映画についての総評は、何もかも素晴らしい新海作品の新境地かつ最高傑作は全く誇大ではないということである。君の名は。で素晴らしいと思い天気の子でアレ?となったが今作はそれらを全て過去のものにした。彼はアニメーターとして映画監督として、そしてストーリーテラーとして自らをより高い次元へと昇華し、文句ない傑作と言えるだろう。ぜひ映画館で鑑賞してほしい。
追伸
エンドロールでアニメーターの名前を見ていたが、アジアのクリエイターも多く参加していたということでアニメの制作環境のグローバル化をより感じることになった。国産国産といわれるが、より良い作品を求めた結果なのだろう。その上で、新海誠監督の元で新たなクリエイターたちが自分の限界に挑戦できる日本のアニメ市場はやはり恵まれていると思う。アニメは始まったばかりなのだ。