フリ-クス さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
Operation Tomodachi(オペレーション・トモダチ)
リフジンな理由で特定の方々から嫌われている職業、
というものが世の中には存外あって、
その代表格とも呼べるのが、本作の主役『自衛隊』であります。
いまはもうだいぶニッキョ-ソなるものも弱体化しておりますが、
ふた昔ぐらい前のガッコ-には、
クラスのなかに自衛隊員のお子さんがいたりすると
「〇〇くんのお父さんは人殺しですっ」
なんて教壇で断言しちゃうセンセイなんかもおられたそうです。
サベツ、ダメ、絶対。
ちなみに、言っておいた方がよいだろうから言いますが、
僕自身は、リアル自衛隊肯定派であります。
震災の折、大変お世話になりましたし、
災害派遣で現地に赴かれた元陸自の方にいろいろお話を伺い、
純粋にリスペクトいたしております。
政経・国防論からも肯定・改憲賛成派なんですが、
そっちはあにこれカンケ-ないので割愛。
ここは、個人の政治シンジョ-を述べる場ではありませぬ。
さて本作は、そんな自衛隊が異世界で大活躍するおハナシです。
元自衛官の方の原作(未読です、ごめん)でして、
軍装や隊規についてはけっこう正確ではあるまいかと(たぶん、ですが)。
ただし、
関連法規いろいろぶっちぎっておりますので、
IFものとしての完成度は、それほど高いものではありません。
原作者である柳内たくみさんが、
エンタメ性重視で関連法規に目をつぶったのか、
ほんとに現場のことしか知らんかったのか、
は、本人のみぞ知るところ。
ただ、ドラゴンだの魔法使いだのが出てくるおハナシであり、
現行法規どうこうというのはヤボに過ぎるので、
あくまでも『エンタメ特化』作品として評価すべきと思っております。
この物語は、
銀座のど真ん中に突然、異世界と日本をつなぐ『門』が出現し、
六万人もの武装した中世ふうの軍勢が、
いきなり軍事侵攻してきたところから始まります。
民間人への一方的な攻撃、虐殺、逃げ惑う人々。
すぐに陸自が出動し、これを鎮圧。
ただし『門』は消滅せず、謎の世界とつながったまま。
日本政府はこ門の先を『特地』と命名し、
調査および大規模テロの犯人逮捕という名目で、
自衛隊を派遣することにいたします。
で、門の向こうにあったのは、
剣あり魔法ありエルフありドラゴンありの冒険ファンタジー世界。
しかも、様々な鉱物資源が手つかずのままで、宝の山状態。
自衛隊は、特地を治める『帝国』との講和条約締結に向けて、
現地に駐屯地を設けます。
帝国も一枚岩ではなく『講和推進派』と『反対派』が混在する状態。
とある町の攻防戦で知り合った第三皇女を抱き込み、
反対派を懐柔するためにあれやこれや。
それに特地利権を狙うリアル世界の諸大国の思惑なんかが絡んできて、
なんかいろいろ大変だけどガンバロウ、
みたいなところでこの一期はおしまいになります。
自衛隊と現地軍のド派手な交戦というのは、
二話でほとんど終了。
剣だの弓だので現代兵器にかなうはず、ありません。
あと、大きめの戦いは、イタリカの野盗掃討戦ぐらいかしら。
わりとジミめな政治的水面下の動きが多めに描かれており、
異文化コミュニケーションみたいなのが、
全体的にかなり大きくクローズアップされております。
萌え成分もきっちりしっかり盛り込まれており、
ガチのミリタリーアクション作品とは呼べない雰囲気かと。
SF(空想科学小説)と称するのもけっこう気が引け、
ミリタリー成分多めの異世界ファンタジー、
ぐらいの位置づけと考えたらいいんじゃないかと思います。
ちなみにリアル自衛隊というのは、
ここまで自由に動けるものではなくガンジガラメなのですが、
そこは本筋と関係ないのでネタバレで。
{netabare}
本作では帝国による突然の銀座軍事侵攻に対し、
すぐに実弾フル装備した自衛隊が出動していますが、
リアルに考えると、これは大ウソ。
そもそも初期段階では相手の武装も人数も目的も、
何一つわかっていることがないわけです。
せいぜい「武器を持ったヤバいやつが大勢暴れてる」ぐらいの情報量。
そのぐらいの情報量で自衛隊に治安維持出動要請などできるわけもなく、
初期対応としては、まず警察や機動隊が出動します。
(警視庁だけでも四万六千人いますしね)
たぶんSATを出す出さないだけでも情報が錯綜して、てんやわんや。
で、もちろん警官や機動隊は重火器などもっておりんせん。
六万もの殺意をもって武装した『軍隊』に、
催涙ガスだの放水車だのがたいした抑止力になる道理もなく、
瞬く間に弾を打ち尽くし、
相当数の警官や機動隊員が殺戮の餌食に。
神奈川県警なんかも駆り出されたりして時間をいたずらに浪費し、
何千、ひょっとしたら何万という犠牲者を出した末に、
ようやく『警察では対応できない・ムリ』という判断がなされ、
都知事の要請~総理大臣の認可というプロセスを経て、
遅まきながら自衛隊の治安出動が開始されるのがリアルなところかと。
はあ?
なにやってんだよ、なんのための自衛隊だよ。
この税金ドロボーがぁ。
そんな声も聞こえてきそうですが、
それが『シビリアンコントロール』の実態なのであります。
実際のハナシ、
自衛隊って設立以来、一度も『治安出動』をしたことがないんですよね。
ゴ〇ラみたいに見た瞬間『警察ではムリ』とわかる相手でない限り、
スクランブル出動というのはマジでキビしいんです。
(このあたりに興味のある方は、
麻生幾さんの『宣戦布告』や
有川ひろさんの『海の底』なんかをご一読あそばせ)
イタリカ攻防戦でも、
ピニャコラーダ(第三皇女)の治安維持協力要請を現場で受けちゃってますしね。
ワ-グナ-鳴らすんかい、
と突っ込むまえに、そんなもん自衛隊が勝手に受けたらあかんのです。
それって内閣総理大臣の専権事項なんですから。
というか、そもそも論として、
門=GATEが日本にしか繋がっていないことだけを理由にして
『門の向こうは日本であると考えることにした』
と言い切っちゃてるところがリッパな国際法違反ではあるまいかと。
(向こうには、帝国という『主権国家』があるわけでして)
もちろん、そこに自衛隊を派遣するための緊急立法、
本作でいう『特地法』も同じです。
あんまり言いたくないけど、けっこうロコツな憲法9条違反。
平和をアイするパヨクさんも、
みんな大好きコクレンさんも黙っちゃいません。
というわけで、
良識派の方々の『ええんか』という問いの答えは『あかん』です。
ただ、どこまでいってもファンタジー作品、
魔法使いだのエルフだのドラゴンだのが出てくるおハナシですから、
そこのところはムリにでも飲んでおくんなまし。
{/netabare}
僕的なおすすめ度は、エンタメ視点で堂々のAランク。
単純な『自衛隊TSUEEE』ではなく。
アクション、萌え、プチ社会問題などがうまく配合され、
いろんな角度から楽しめる総合娯楽作品に仕上がっております。
もちろん自衛隊が主役のおハナシではあります。
いやほんとそうではあるんですが、
既述のとおり、いろんな意味でリアリティがありませんので、
厳格な考証を求めるディ-プなミリオタさんには軽すぎるかもです。
(拙ごときが見ても「はあ?」なカット多いですし)
むしろ『萌え要素のある異世界ファンタジー』好きの方、
それも、出尽くした感のあるモチーフにいささか食傷気味な方あたりに、
こんなんありますよ、とおすすめしたい的な感じかと。
主役の自衛隊員、伊丹耀司がマツリに熱狂するレベルのヲタ、
彼が指揮する第三偵察隊の倉田武雄もヲタ(てかケモナ-)という設定も、
視聴のハ-ドルをかなり下げてくれておりますし。
ただ、自衛隊嫌いの方は、ご覧にならない方が賢明かと。
自衛隊に限らず近代兵器ってたいがい『あんなもん』なんですが、
火力で圧倒するシーン、イラッとする方いるかもです。
(僕は『すっげえ迫力』と素直に感心したクチなんですが)
他の方のレビューを拝読していると、
剣や弓しかない相手に重火器砲弾を容赦なくたたき込み、
何万人も死傷させたことを『虐殺』と解する方もおられるようです。
他の戦争アニメで同じような感じ方をした経験のある方は、
やっぱ、ムリして見ることはありません。
ここでちょっと、ムダ知識。
{netabare}
リアル世界の日本には『警察比例の原則』というのがあります。
これは警察権を行使する際のキマリゴトで、
相手の脅威度や、目的達成の必要性・難易度なんかを考え、
必要以上にアレしちゃだめよ、
相手のヤバさに比例した方法でナニしなさいね、というもの。
おまわりさんが凶悪犯人に発砲した際、
ぎゃあぎゃあ文句いう人たちは、これを拠り所にしています。
この『警察比例の原則』は、自衛隊の治安出動にも適用されます。
ですから、
剣や弓だけの相手に重火器や戦車砲の使用はアレじゃね?
という声は単なる『考え方の違い』ではなく、
ちゃんとした論拠のあるご意見であり、カンタンに否定できないんです。
そんなもんリチギに守ってたらこっちが死ぬわ
という言い分は、ジンケン派の方々にはおそらく通用いたしません。
原作者さんが本作をあまりリアルに寄せなかったのは、
そういうめんどくさい事情を考慮したからかも知れませんね。
{/netabare}
お話は、二話のBパ-ト以降、
主人公の伊丹耀司率いる第三偵察隊の活動がメインになり、
けっこう、というかかなり、小ぢんまりしていきます。
この第三偵察隊、途中で魔法使い・エルフ・神官が合流しますので、
リアルなハードミリタリー感は、ほぼ皆無。
てか、どちらかというと萌え成分が、かなり多めではあるまいかと。
キャラ編成に合わせているのか、殺伐としたシーンも少なく、
むしろコミカルな演出やプロットが多用されていて、
一話二話で「うげ」と思った方も、次第に落ち着いてくる感じですね。
ただし、イタリカ攻防戦はけっこうインパクトありますし、
国会に呼ばれてリアル日本に戻ったりとか、
いろいろとメリハリをつけたプロットが展開していくので、
ストーリーが冗長という感じはいたしません。
二期はけっこうグダグダになっていくのですが、
少なくとも一期は、
しっぽまでけっこう美味しく食べられます。
役者さんのお芝居は、ほとんどが高レベルで安定していてよき。
主人公の伊丹耀司を演じる諏訪部順一さんが、
まるでコンマスみたいに全体のトーンをうまく調整していて、
でこぼこのないまとまった世界観を構成しています。
東山奈央さんの演った、レレイ・ラ・レレーナ
種田梨沙さんの演った、ロゥリィ・マーキュリー
この二人は、ユニークなキャラ造形をしているので一聴の価値アリ。
あと、特別なお芝居は何もしていませんが、
内田姉弟のおねえさんである、
内田真礼さんの演った、栗林志乃
が、拙個人として、とってもお気に入り。
脳筋な自衛隊のしたっぱ、という感じがよく出ていて楽しい演技でした、
ちょっとだけ残念に思ったのが、
日笠陽子さんが演じたヤオ・ハー・デュッシ。
むか~しからある定番で無難なキャラに、
むか~しからある定番で無難なお芝居をのせた感じで、
登場と同時に物語のテンションがガクッと落ちた気がしました。
もちろん、彼女のキャラ造形が好きな方を否定はいたしません。
いたしませんが、拙的には、
こういうフックが少ない昔ふうのキャラには、
『安心・安全』ではなく『攻めたキャスティング』をした方が、
物語の鮮度が維持できたように思うのであります。
(日笠さんファンの方、ほんとごめんなさい)
作画は、さすがA-1 Picturesさんという感じで、
おおむね問題なし。てか、きれい。
加えてアルヌスの丘での夜戦表現などは『ど迫力』のひとこと。すげえそす。
ほんと、ほとんど全編で高品質なのですが、
なぜか時々「はあ?」というカットが混じっちゃうんですよね。
イタリカ攻防戦なんか、
作画チ-ムの『見せ場』のはずなのに、
なんじゃこれ的なカットがいくつも差し込まれてだいなしに。
あまりリアルに描くと残虐になる、という配慮かもしれませんが、
ばっと見は、ただ『ヘタ』なだけ。
あんたら、描いてなんぼのショーバイでしょうに。
音楽は、劇伴とEDは、まあまあよき。
で、あくまでも極私的な評価にすぎないんですが、
OP曲、岸田教団&THE明星ロケッツさんの『GATE〜それは暁のように〜』は、
好きくありません。
もっとはっきり言うと『きらい』です。
曲そのもののよしあしというよりも、
バンド名に『教団』とつけるセンスが好きくありません。
あと、歌詞がおもいつかず『Wo』でごまかしたのもマイナス評価。
(それやっていいの、寺山修司さんぐらいだと思います)
曲自体は楽しくていい感じだと思うし、
カット割りもていねいで世界観をよく表していてよき。
ほんと、単に拙がヘンクツなだけのイチャモンなのであります。
いずれにいたしましても、
本作における自衛隊というのは『テーマ』ではなく『モチーフ』です。
あんまり難しいことをいってる作品ではありません。
ムカシ映画の『戦国自衛隊』にインスパイアされ、
自衛隊がファンタジー異世界行ったら反則級の無双状態になるんじゃね?
みたいなお気楽想像から生まれた娯楽作品かと。
かわぐちかいじさんの『ジパング』みたいな社会派アニメと違い、
楽しんでいただけたらそれでよし、
好きか嫌いかはジブンで判断してくださいね的な作風なのであります。
なにかのプロパガンダみたいな要素はなく、
政治的にうんちゃらかんちゃらもありませんので、
安心してご賞味あれ。
いやいやそうじゃないんだ、
自衛隊を『正義』みたく書くこと自体がプロパガンダなんだ、
キュ-ジョ-さえありゃ鉄砲なんかいらないんだ。
そういう方のご意見も、当然尊重いたします。
いたしますが、たかがアニメのことでもありますし、
ここは穏便に収めてやってくださいまし。
逃げんのかゴラァ、とか文句いわれましても、
そのあたり拙の愚考するところは、
レビュータイトルに全て込めさせていただいておりますです、はい。