てとてと さんの感想・評価
4.0
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
中国版ジブリ的趣な力作。クオリティーは素晴らしいが、日本(自由主義国)とは異なる価値観を感じる
黒猫妖精のシャオヘイと人間(というか仙人?)のムゲンが旅をしながら、人間との対立や共存云々のお話。107分の中国映画。
2022秋にTVアニメ版も放送。
※作品データベース様より転載+若干修正
【良い点】
作画が素晴らしい。親しみやすいキャラデザ、妖精世界の幻想と写実的な人間の街の対比、静と動が効いている外連味抜群のアクション。
特にアクションシーンは素晴らしい。仙術系?の念動力や具現化系の異能の数々で目まぐるしく魅せてくれる。
仙術?の戦闘以外での用い方がユニークで、尺の大半を占める旅パートを飽きさせなかった。
筏移動や濡れた服の水分飛ばすなどの中国風魔術。
西洋や日本の漫画とは毛色の異なる、中国の仙人的な魔術体系をハイレベルで見せてくれる、これを日本のアニメ風に落とし込めている。
若干の専門用語はあれど控え目。
また食事シーンも美味しそう、ジブリ寄りの持ち味。
ちょっとした合間に挟まれるコミカルなシーンも良かった。
中国のTVアニメにありがちだったテンポの悪さは大分改善されている。
日本語版の声優陣が豪華、花澤香菜氏の仔猫妖精は可愛かった。
シャオヘイは人間に警戒心剥き出しな仔猫擬人化したらこうだろうな、という可愛さ。
中国語の楽曲の雰囲気も良い。
ストーリーとテーマが素直で分かりやすい。
最初は反抗的だったシャオヘイが、寡黙な師匠ポジのムゲンと旅をするうちに少しずつ心を許していく過程が良い。
電車でモブの少女とのちょっとした交流とか、ベタではあるが分かりやすくて良い。人間も捨てたもんじゃないと。
仔猫妖精(本作の妖精は超常的力持つ妖怪的存在?)のシャオヘイは幼く無垢故か、良い意味で物事を深く見ない。
善と悪、人間と共存?などのベタだが色褪せぬテーマに対し、小難しく考えず素直に示していて見やすかった。
シャオヘイは思想的にニュートラル、ロウなムゲン、カオスなフーシー、いずれも小難しい理屈を捏ねず素直。
是非については視聴者が判断すればよし、と割り切っている。
テーマは「もののけ姫」とか「平成狸合戦ぽんぽこ」とかのジブリの過去作で幾度も扱われていて新鮮味は無いものの、
色褪せぬ題材なので殊更欠点とは言えない。
日本の過去作との差別化点として、対等な共存は諦め、秩序を重んじるべし、的な結論示している。
良くも悪くも、現在の共産党中国らしい視点。
是非はともかく、独自性は示せていた。
物語、アニメは色んな視点や結論があっていい、それが多様性だと思う。
【悪い点】
場面の繋がりが若干分かりづらい。
ナタとか見せ場が殆ど無いキャラ多数。キャラ層は薄め。
シャオヘイとムゲンの交流も、バトルに尺を取られて繊細さは欠けていた。
もう少し会話劇で互いの心情描写してほしかった。
ムゲンはまだしも、フーシーとは更に交流が足りない。これが終盤の余韻の足りなさに影響。
良い点とは裏腹、テーマや善悪の主張が直截的に過ぎる。分かり易い一方で、ジブリ作品に比べて深みに乏しい。
無垢なシャオヘイが信頼・理解・責任などの「正しさ」を学ぶ流れだけど、善悪とはこうだ!と明快に示し過ぎている。
どうにも体制側からの道徳教材めいた押しつけを感じる。
ムゲンら館の執行人(体制側)の正義が一貫しつつ、迫害されるフーシーの主張は容赦なく叩かれフーシーに関しては救われない結末。
迫害される自然側の存在が発する主張が黙殺されている。
この点はジブリがリベラルというか、自然側に立っての共存なのとは真逆。
本作は人間中心的で管理寄り。この点は必ずしも悪いとは限らないが、物語としては浪漫が無い気がする。
故郷を人間に奪われたシャオヘイが、フーシーではなくムゲンに肩入れする説得力としては、電車少女の一幕では足りていない。
フーシーの結末は後味が悪いし、ラストの顛末も心から良い話だな〜とは思えなかった。
そういうのも悪いわけではないんだけど、日本人視聴者が期待する王道としては、体制側が反体制否定する話はとっつき難い…
【総合評価】6~7点
ハイクオリティーで見やすい、十分良作と見てよい内容。
ただ、絶賛出来るかといえば、思想的に引っ掛かる点もあり。
評価は「良い」に留めておくけれど、引っ掛かる点をどう見るかで評価は変わりそう。