退会済のユーザー さんの感想・評価
3.0
物語 : 3.0
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.0
状態:----
錦木千束は撃たれない
衰退する日本アニメ界における逆襲の旗手。
深夜アニメ復興の兆しを轟かせる渾身の発明。
ビジュアルを見れば一眼でわかるマニア向け。サブスクでのオリジナル作品も増えてきている現状では、世界規模でも有能な人材の確保は加速していく。ネトフリやソシャゲの隆盛による海外への人材流出が危ぶまれる中、日本の強みである「萌え」でストレートに勝負をかける作品。
娯楽の氾濫と共に嗜好の多様性も広がり、自分好みではないものは全力で叩きまくる風潮が蔓延する昨今では、いかなる名作でも誹謗中傷は避けられない。ディズニーやネトフリといった大資本に高品質な作品を大量生産されてしまう現状で世界と戦うには、もはやガラパゴス日本にしか出来ないマニア向けで勝負する他ない。そのジャンルでは京アニの一強だった業界に風穴を開けるべく、新人監督がとった戦略が噛み合った次世代の萌えアニメ3.0と言えるのが本作であろうか。
本旨はメイン二人のイチャイチャ。本作のKPIとも言えるこのコアファクターを一切邪魔しない作劇を徹底したことが、本作の成功の秘訣ではないかと思われる。色々雑な様に見えて実は微塵もブレていないということ。他の萌えアニメの様に世界観のバランスを取ったキャラデザにしてしまうと「千里ォ?たきなァ?これだからニワカは(ため息)俺はどう考えても○○派〜」という逆張り野郎が発生してしまう恐れがある。そのような事態は万が一にも許されないというミッションが課せられており、今作はそれを実直に遂行している。アクションものでは重要な敵キャラにおいてもそれは徹底されており、ここでも「敵の○○カッコいいよね」と言わせてはならない。メインの二人と同格のキャラを据えないという明確なルールがしっかりと達成出来ているからこそ視聴者は見方を間違えようがないのだと思う。キャラの掛け合いこそが本命であり、暗く重くならないように徹頭徹尾「なんちゃってガンアクション」であることを徹底している。
第一話から終盤に至るまで視聴者が本格アクションと錯覚してしまわないよう明確なトンチキ描写を差し込む徹底ぶりには感心する他ない。毎回ツッコミどころの嵐であり最早ギャグにしか見えないのだが、作画の丁寧さからみるに描写が雑なのではなく、しっかりと明確に意図された演出だとわかる。これはかなり勇気のいる仕事であるが、これこそが本作を覇権足らしめる根拠となったと思われる。ツッコミ役のモラルセンターを配置しないことでギャグアニメとして観ることすら可能な懐の広さを兼ね備える本作は、確かな実力と信念によってしか成し得ない一流の仕事だと思われる。
特にこういうゴリゴリに尖った「萌えアニメ」にはフェミをはじめとするアンチは必ず付き纏うもの。人間なので好き嫌いはあって当然なのだが「not for me」と言うのなら「嫌なら観るな」で終了とする他ない。とはいえ「自分の嫌いなものが世の中に存在するのが許せない」という生きづらさを抱えた方々は一定数いるのもまた多様性であり、そこは甘んじて許容するしかない。作品がヒットしてするとアンチの目に触れることは避けられないが、この点においての対策がこの監督が策士たる所以。設定や演出をあえてガバガバにすることによりアンチの目線は簡単に誘導、固定されてしまう。「○○がオカシイ!」「○○なんてありえない!」いや、そんなものは見たら誰でもわかるしファンはわかった上で楽しんでいる。その上でケチをつけようものならもうそれはただのイチャモンでしかない。ガンスリやサイコパスやシティーハンターやら似たような作品を持ち出されても「これってそういうのじゃないから。」でノーダメージ。キャラを非難する意見はゼロではないだろうが個人の観測範囲ではほとんど見かけられなかった。本作の主人公千束の被弾しない能力を作品自体が発揮するというメタ構造。ここは素直に感心させられたし賞賛に値するものだと思う。「作品が叩かれるのが避けられないならせめてキャラは叩かせない」。スタッフやファンの愛するキャラクターを誹謗中傷から守る上で完璧な施策だった。京アニが萌えとシリアスのコンフリクトが起きやすいバトル作品を手がけないのはこういう理由なのかもしれない。そう考えれば新たなソリューションを発明したこのチームの未来は明るいのではないだろうか。多分。