「リズと青い鳥(アニメ映画)」

総合得点
86.0
感想・評価
572
棚に入れた
2371
ランキング
217
★★★★★ 4.1 (572)
物語
4.0
作画
4.3
声優
4.0
音楽
4.2
キャラ
4.1

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ネタバレ

馬車屋 さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

素晴らしい‼

主人公のみぞれはこれから才能を開花させ、広い世界に出て行ったとしても、きっと親友と言える人は希美だけなんだろうな、
ヒロインの希美はこれからもたくさんの人に関わっていくだろうけど、高校時代の友人として一番に思い出すのはきっとみぞれなんだろうな、
たとえ高校卒業後に疎遠になったとしても。
そういう感動がしっとりと押し寄せるような作品だった。

本作は劇的な事がほとんど起こらない。だからこそ、脇役との会話、視線の動き、足音、髪を弄る手つき、細かな表現全てが大きな意味をもっている。ともすれば冗長にも成り得るそれらを、圧倒的な作画と巧みな演出で、神秘的で美しいとすら感じる一幕に仕上げている。
主人公のみぞれは多くを語らない。ヒロインの希美も主人公に対しては素直ではいられず、大切なことはほとんど言わない。だから二人はすれ違う。観ているこっちは、これはどういう意味だったのだろうと、観るたびに気になるところが生まれ何度も観たくなる。
そんな二人がいかにして、多くの人にとって些細な、しかし当人たちにしてみれば余りに大きい、才能、進路、嫉妬、独占欲等々の数多の障壁を乗り越え、そしてどのような未来へ舵をきるのか。
本来なら言葉にしようもない、あまりに刹那の微かな感情の機微を、本作は克明に、美しく切り出している。圧巻の一言である。
 
{netabare}そして本作の所謂山場は、相手に直接言葉にして伝えることを避け続けた二人が遂に向かい合うあの場面だろう。

希美にしてみれば、私が誘って、私より音楽が好きというわけでもないのに、なのに私より上手くて、私よりも才能ある『アイツ』に「ずるい」と直接伝えることがどれだけの苦みを伴うことであったろう。
しかし、みぞれが希美の言葉を受けて音大へ進学を決心するのと同様に、希美もまた、最後まで「希美のフルートが好き。」と言わなかったのぞみの『大好きのハグ』をうけて一般大進学への、(何よりも好きだった音楽の道を諦めるという)決心を固めるのである。
二人は最後まで互いを完全に理解したとは言えない。希美は結局本心を全てさらけ出したわけではない。
しかし、お互いがお互いにとって無二の、一番の友人であることは、これを以て揺るぎないものになっただろう。それこそが何よりも美しく、尊いものである。{/netabare}

繰り返しになるが、劇的な恋愛も事件もない。誰もが濃度の差こそあれ経験したであろう一幕を、無駄の一切ない澄み切った描写で浮かび上がらせ、劇的なものにまで昇華させた本作は、なかなか替えのききがたいものであろう。
loveではなくlike。恋愛感情ではなく友情。しかし不純物を慎重に丁寧に抜いていったそれは、観ている我々に寒気まで感じさせるような美しさと感動を与えてくれる。

敢えて『響け!ユーフォニアム』シリーズと本作との比較を許すのなら、
前者は早期に完成された『くみれい』による、熱血で躍動感ある、荒々しくも爽快な話である。
対して後者は、まだ未完成な『のぞみぞ』が、(できれば避けたかっただろうが、)互いを直視し、現実と折り合いを付けながらも前を向く、何処までも清らかで美しく、そして一歩間違っていたなら、観るに堪えない大変醜いものにもなりうる、そんな奇跡の平衡の上に成り立った人情ものだろう。
そのため、ユーフォシリーズとは主題も作りも根底から異なっているし、ユーフォシリーズ主人公を通してみた『のぞみぞ』観はむしろ邪魔にもなりうる。
しかし、『響け!ユーフォニアム』シリーズによる予備知識を念頭に置いて観ようと観まいと、百合ものだという枠組みで観ようと観まいと、本作は十分楽しめるだろう。幾通りでも楽しめる本作はやはり良作である。

投稿 : 2022/09/25
閲覧 : 121
サンキュー:

6

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