てとてと さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
名作劇場屈指の名作
名作劇場21作目。 全33話。
11歳の少年ロミオが、人身売買で煙突掃除夫として虐げられながらも、親友アルフレドたちとの友情で気高く逞しく生きていく。
※作品データベース様より転載
【良い点】
逆境に虐げられる系の名劇の中では、善意と悪意のバランスが絶妙。適度にシリアス適度にポジティブで非常に見やすい。
苦しい展開や理不尽も無為に長引かせず、テンポ良く好転させてくれるため、シリアスな割に気分良く視聴できる。
例えば12話で卑劣息子の姦計で理不尽に追い詰められるも、14話で早くも逆転勝利し親方が味方に付いて待遇改善するなど。
この点は、延々理不尽続きで辟易しがちな名劇が多い中、本作は白眉。
序盤から要所で波乱万丈で終始飽きさせず、全33話過不足無く全体的にテンポが良い。
29話がクライマックスだけど以降も神回続きで綺麗に完結。無駄回が1話も無く完成度が高い。
また、要所で格調高いナレーションもドラマ性を高めている。
親友アルフレドや黒い兄弟たちとの友情の尊さは圧倒的。高潔さと勇気と優しさが、困難をポジティブに変えていく。
最初敵対する狼団との昨日の敵は…な少年漫画的王道も燃える。
作画も綺麗で、楽曲も主題歌「空へ…」がテーマ完璧に捉えた名曲など素晴らしい。(翼で自由に飛びたい、は重要テーマ)
また原作の邦題「黒い兄弟」に対する「ロミオの青い空」なアニメタイトルも秀逸。タイトルがメインテーマを表現している事が分かる。
登場人物を底の浅い聖人と悪人に峻別するのではなく、深みのある人間的な描かれ方をしている。
極悪人な死神ルイニ(次元大介にそっくり)が只者じゃない強者感あったり、ロミオに溺死の危機救われても最終話まで改心しなかった、
けれど「ロミオは死神の心の中で何かがほんの少しだけ動いたと感じた」(6話)
悪党は安易に改心はしない、けれどロミオとアルフレドの高潔さは決して無駄ではない事が、全編を通して訴えかけられている。
ロミオを徹底的に冷遇したおかみさんも、実の息子や預かっている娘アンジェレッタは心から愛していたり、
終盤、親友を亡くし失意に沈むロミオを労わる態度を見せる。最終話では別れに際し涙を見せる…
アンジェレッタを金蔓と見ている卑しさと、情が移って慈しむ優しさ、一人の人間として矛盾していない。
唯一、親方の息子アンゼルモだけは変わらなかったのもリアル。最後までアンゼルモを許し歩み寄ったロミオの気高さが際立つ。
確かにアンゼルモが改心した方が物語として美しいけれど、安易にそう描かないことで奥深さが出ていた。
この点は他名劇と比較しても、一線を画すと思う。
一番好きなキャラは、ロッシ親方。
酒浸りで妻に頭が上がらず、最初はロミオに食事も与えなかった(与えたくても鬼嫁に押し切られる)ダメ大人だけど、人間味がある。
14話以降ロミオにとって第二の父親のような味方になってくれる。それ以前からの描写の積み重ねで説得力ある。
親方の株は中盤21話22話で爆上がり、厳格な貴婦人イザベラ様から信頼されて孫娘アンジェレッタの養育を任され、
受け取った養育費を着服しないであろう誠実な人柄が分ったり、22話では命を懸けてロミオを庇ってくれたり。
最終話でロミオを抱きしめるシーンは、アルフレドとの別れに匹敵する名場面だった。
ニキータ、アンジェレッタ、ビアンカと可愛いヒロイン格が3人もいて、男の子の名劇ながら華やか。
アンジェレッタちゃんとのラブコメは和んだ。
病弱天使アンジェレッタちゃん可憐だけど、恋するツンデレなニキータちゃん、勝気妹ビアンカちゃんは更に可愛かった。
本作のテーマとして注目すべきは、アルフレドがヴォルテールの啓蒙思想に感銘を受けるなど、自由と平等の理念。
舞台となる19世紀、過酷な少年売買や少年労働がまかり通っていた最後の方の時代、ロミオやアルフレドや黒い兄弟たちの
在り方を通して、自由と平等の理念を気高く描いて見せた。
団結し、諦めず、契約を守り、誇り高く尊厳を示し、他者に誠実に優しく接する。
それを思想的に説教臭さを感じさせず、波乱万丈の物語の中で分かり易く描かれた。
ロミオとアルフレドの恩人であるカセラ教授から学問の素晴らしさを学び、ラストは亡き友の意志を継いで教師となる。
この世界は少しずつ良い方向に変えていかねばならない。それは大それた事ではなく、一人一人が正しく生きていく事である。
黒い兄弟たちのように。
善人だけではない深みのある人物描写も併せて、全編を通して高潔な理念がある点も、本作は名劇の中で一線を画す。
ついでに、教育の重要性がもう一つのテーマだと思う。というよりも、啓蒙思想が背景にある物語。
血の繋がらない息子ロミオに厳しく接するもちゃんと愛してくれた父親と母親。
アルフレドが高潔なのは誇り高き貴族の両親からの薫陶と愛が背景にある事。
アンジェレッタも預けられた親方とおかみさんからちゃんと愛されていた。
卑劣なアンゼルモと甘やかすおかみさんという反面教師も分かり易い。アンゼルモは反面教師として結構大事なキャラ。
ロミオの両親はちゃんと叱ってくれた、アンゼルモ母はダメだと。親方の母親回で良くわかる。
ロミオが教育者となり、教育を通してアルフレドの理念を継ぐ最終回を見ても分かる。
【悪い点】
時折ナレーションで重大なネタバレがある。川で溺死したと思われた仲間たちと再会するのですとか、先に言うなよ…
完成度抜群の物語とはいえ、城之内死す的なネタバレもちょっと…
前半ヒロインのアンジェレッタちゃんがフェードアウト。
展開上しゃーないとはいえ、何かフォローは欲しかった。
黒い兄弟の過半数が数合わせ。この点に限れば「家なき子レミ」の後半の方が良かった。
【総合評価】10点
名作劇場屈指の名作。名劇にありがちな情緒だけに傾き過ぎない、完成度が群を抜いている。
若干気になる点はあるけれど評価は「最高」
【余談】
イザベラ様、「愛少女ポリアンナ物語」のパレーさんぽかった。
原作者のリザ・テツナー女史がナチスに迫害された経験と、夫共々の信念を投影したマイナー作品を
アニメ化した名作劇場の選択は素晴らしかった。
本作は19世紀イタリアを舞台にした物語で、20世紀も苦難の時代を経て、現在のEUの理念がある。
現在も不断の努力で試行錯誤を続け、人類社会の最先端を示し続けている彼らの理念は、何百年もかけて受け継がれてきた。
その一端を日本の視聴者(原作邦訳読者)は感じずにはいられない。
年季と覚悟が圧倒的に違い過ぎる。