QWERTY さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
作者不詳の響きあり バッドエンドへまっしぐら
今作でアニメオリジナルの琵琶法師に声を当てている悠木碧さんがインタビューで言っていた通り、平家物語における「ネタバレ」がどの辺に成立するのか難しいところですが、主に口伝で継承された弾き語りエンタメである点は論を待ちません。
史実を正確に再現するというよりは、より面白いエピソードが生き残り、誰かがアドリブで入れたであろう妖怪退治のくだりが増えたりしながら長年受け継がれてきた、継ぎ足し秘伝タレのような「創作ストーリー」と言えます。
武家屋敷を転々とする琵琶法師によって、伴奏と共に語られたこの物語は、現代の大河ドラマをライブで鑑賞するような位置づけの娯楽で、エンタメとして成立するように「観客によって鍛えられた」構成になっています。
原典を眺めると、どことなくライブのセットリストに似ているような気もしますし、時代が求めたお芝居の脚本という分類にも思えます。
そんな平家物語をアニメ化すると聞いて、山田尚子監督と脚本の吉田玲子さんの黄金コンビがどんなアレンジをするのだろうと楽しみでしたが、ワンクールという短い時間にきっちりと「人間模様」を落とし込んでくれました。
仮に自分が平家物語をワンクールでやれと言われたら途方に暮れて実家に帰ると思うのですが、お二人は見事にやり遂げていらっしゃいます。
原作エピソードの取捨選択が絶妙、巧妙で脱帽です。
倍の時間が取れたらダイジェスト感は軽減されたでしょうが、登場人物も絞れず散らかってしまったかも知れません。
軍記物語にあって戦闘描写だけに終わらず、調子に乗ってしまった「ある一族」が、お手本のように転落していく様を愛情たっぷりに描いています。
名前がごちゃごちゃになりがちなこのお話ですが、登場人物の特徴や背景を丁寧に描写してくれるので、セリフに分からない言葉があっても筋を見失うことがありません。
声優さんも超豪華でキャスティングに一切の隙なし。顔が浮かんでくるような主張するお芝居ではなく、キャラクターの肉声として自然と耳に入ってきました。
圧巻は悠木碧さんの語り。
引き締まった迫力のある琵琶の音色に乗せて、本職みたいな平曲を聞いたときには鳥肌が立ちました。もう一つの鳥肌ポイントはED曲でしょうか。
是非ご覧になって、お確かめ下さい。
最終話まで完走すれば、回避不能のバッドエンドに向かう船に同乗し、強烈な喪失感と無力感に襲われること必至です。
時代とともにエンタメの形は変わります。
いままでも、これからも。
今回の味付けもまた平家物語のバリエーションの一つとして、これから観客に揉まれていくのでしょう。
アニメが古い表現方法として廃れてしまう時代が来るのかも知れませんが、現時点では確実におすすめです。