てとてと さんの感想・評価
3.6
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
シンギュラリティAIと青春劇。面白かったけれど、やや引っかかりも覚える
「イヴの時間」の吉浦康裕監督による109分のアニメ映画。
AI少女と高校生たちの青春劇やラブコメからの、シンギュラリティを扱ったSF作品。
※作品データベース様より転載
【良い点】
同年の春アニメ「Vivy -Fluorite Eye's Song-」に続いての、歌うAI少女とシンギュラリティを扱っている。
舞台をAIアニメにありがちな人類存亡ではなく、高校生たちの青春劇にする事で、より身近にAIと人間の関係性を問うた内容。
自己進化AIに対する、若者たちのポジティブな関わり方を清々しく描きつつ、視点によっては危険性も匂わせる塩梅。
AIがある程度実用化されつつある世界、高校生たちのAIへの反応や関わり方は2008年の「イヴの時間」よりも時代が進んでいる。
終盤の攻防戦、物理的に拘らずAIをネットに逃がす発想は、新世代の若者らしくて良かった。
2020年代の若い感性でAIの可能性を描いて見せたSF作品として良かった。
時代の進化に対応して作劇をアップデート出来ているのは吉浦監督お見事。(これが出来ず時代錯誤な監督の方が多いので)
AI、シンギュラリティSFとして内容の良し悪しはともかく、示唆に富んでいて考えさせられる。
AIヒロインをちゃんとAIらしく描けているのも何気に珍しい。
この手のAIヒロインは人間以上に人間らしいキャラが多い、本作のシオンちゃんは人間らしくなかった、良くも悪くも。
青春劇や恋愛劇は手堅く及第点。
人数多い割に主要キャラ全員に見せ場あり、シオンの歌とポンコツ行動に翻弄されるコミカルな青春劇として見やすかった。
ミュージカル調を「ポンコツAIだからしゃーない」と理屈付けする構図も上手い。
主要キャラにAIへの理解があるのも物語がスムーズな要因、前述したように現代的な感性をポジティブに活かした作劇だった。
楽曲を作劇に活かせている、歌詞が分かり易く、終盤の盛り上がりも申し分ない。
土屋太鳳氏はじめ声優陣も申し分ない。
【悪い点】
作画水準は申し分ないんだけど、絵的に魅せる力はあまり無い。普通に綺麗の域を出ず。
良い点と裏腹、AIヒロインがAIの域を出ず、あまり可愛くない。
キャラデザや異常行動含めて不気味の谷を感じる。
終盤明かされる誕生秘話とサトミとの関係は感動的ではあるんだけど、シオン自身にあまり共感できないためか微妙。
良い点と裏腹、青春劇も恋愛劇もありがち。大仰に盛り上がる程ではなかった。
ツダケンボイスな嫌味支社長を悪役に据える作劇も微妙。
大人の男性は無理解で無能、子供と女性はAIの可能性信じる正義的な構図もイマイチ。(自分が前者だからだけど…)
AI、シンギュラリティの怖い側面をさらっと流して放置しているのが気になる。
自己進化、人間の監視や制御を欺いたり、終盤は実質AIの反乱も起きてたり。
シオンは終始暴走していた。シオンが善意だから良かったものの、一歩間違えば危険だったような。怖くて手放しで感動できず。
支社長の視点も一理あるように思われるけれど、そこが描かれていない。
作中でAI規制法がある模様だけど、劇場版の尺では不十分だった。
高校生の青春劇に絞った良し悪しで、SFとしてのスケールは狭くなってしまった。
【総合評価】5~6点
シンギュラリティSFとしては鋭く、エンタメ作品としては微妙。
SFとしては粗削りなイヴの時間の方が面白さは上だった。
評価はとても良い以上付けてもよさげな意欲作なんだけど「良い」止まり。
手放しで絶賛できない自分は支社長寄りの時代遅れな大人なんだろうな、と自覚あり。
この作品は多分素晴らしいが、視聴者の自分が付いていけてないという認識。