「風都探偵(TVアニメ動画)」

総合得点
70.3
感想・評価
75
棚に入れた
232
ランキング
1598
★★★★☆ 3.7 (75)
物語
3.6
作画
3.9
声優
3.7
音楽
3.6
キャラ
3.7

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

お前の罪はこのアニメをまだ観ていないことだ!なーんてねっ♪

ドーモ皆サン。仮面ライダーシリーズでは『仮面ライダー龍騎』が大好きな私デス。
かの『魔法少女まどか☆マギカ』の脚本を作った虚淵玄氏も2作の類似性について言及を受けた際に「龍騎はバトルロイヤルものとして秀逸な出来だし金字塔。どうしても相似はする」と暗にインスパイアを受けていたことを認める発言もしている。一見「子供の観る作品」と思われがちな仮面ライダーは著名なアニメ作品にも少なからず好影響を与えているのだ。
龍騎のみでなく、2000~2018年に放映された「平成仮面ライダー」シリーズは大人ぶった私たちオタクの視聴にも耐えうる重厚なテーマとシナリオを持っている作品で、それらは深夜アニメのクオリティーに決して劣らないと断言しよう。
そんなシリーズから1作『仮面ライダーW』の続編が、特撮から離れてなんとアニメーションで描かれることになった!なぜ特撮ではなくアニメにしたのか。そして仮面ライダーはアニヲタにもウケるのか。ここからは前作の魅力も軽く振り返りながらそれら2点を解説・レビューしていこう。

【ココがスゴい!:誰でも観やすい特撮時代のフォーマットを保持した構成】
「仮面ライダー」の「続編」と聴くとどうも手を出しづらい人も多いだろうが、本作に限っては前作『仮面ライダーW』を最悪押さえなくても観ることができると考えられている。その理由はW(ダブル)の各エピソードが独立した「探偵物語」でもあるからだ。
『仮面ライダーW』は主人公たちの職業を「私立探偵」に設定し、①依頼の受注→②事件の調査→③犯人の特定→④怪人と化した犯人の撃破の4つのプロセスから成るフォーマットを基本としている。要は『名探偵コナン』のように大まかな設定さえ知っていれば途中からでも入れる作品だ。勿論「仮面ライダー」でもあるので事件の裏にはショッカーに位置する怪人組織の暗躍も絡んでいるのだがそれも前作で壊滅し、しかし組織が開発した変身アイテムが密輸武器や麻薬の如く闇取引されては犯罪に使われる世になってしまったため、仮面ライダーWはこれからも戦い続けるという「おれたたエンド」で〆られたのである。
そんな作品なので仮面ライダーを知らなくても、もしくはちょっと苦手でもこの『風都探偵』から観ることができる。前作のフォーマットを意識しつつ、1つの事件に3話消費を基本として内容をさらに色濃くした「探偵×能力バトル+変身ヒーロー」となっているのが本作だ。

【ココもスゴい!:「子供っぽい」とは言わせない大人(大友)向けの描写が満載!】
仮面ライダーは子供が観るもの。そんな固定観念が強いのはライダー含む『スーパーヒーロータイム』が日曜の朝に放映される、所謂“ニチアサ”作品だからだろう。子供が学校に行かずテレビに釘付けになる日曜日、その時間帯に放映される作品には強い自主規制が敷かれている。
「子供が真似するかも知れない」
「子供にショッキングな画を見せるな」
そんな親御さんのクレームに特撮側は大分、萎縮してしまっているのである。
そういった柵(しがらみ)から解放されるにはもはや深夜アニメしかない。『風都探偵』は現在の特殊撮影では出来なくなった演出、また元来、特撮で撮るには難しい幻想的かつスタイリッシュな表現が多分に詰め込まれている。
人を切り裂けば血が噴き出るという当たり前である筈なのに規制されてきた流血描写、流石に日曜朝には好ましくないポルノ描写などが本作で解禁。そして仮面ライダーファンにとって嬉しいのが、令和ライダーがめっきり見せなくなったと聴く「バイクアクション」だ。
予算や法律の問題で平成ライダーでもそこまで乗ることのなかった改造バイクを主人公が普段使いし、怪人の追跡と戦闘にも利用する。崩落し押し潰そうとする瓦礫に車体や装甲を擦らせながらも紙一重で躱し、最後はシートの上で直立しライダーキックの踏み台としても活用する────“撮影”ではなく“描写”だからこそ甦らせることに成功したシーンの数々が本作に詰め込まれており、第3話の戦闘作画とバイクチェイス、そこにサプライズ挿入される『W-G-X~W_Goes_Next~』で観る人の気分は際限無く盛り上がる。

【そしてココが面白い:2人で1人の探偵、2人で1人の仮面ライダー(1)】
さて「仮面ライダー」と一口に言っても総シリーズは昭和平成令和ひっくるめて実に100作品以上もあるわけだが、その中でWは2人の主人公が変身まで協力し合う「バディもの」という点で他のライダーと一線を画しており、キャラクターの魅力とシナリオの面白さがかけ合わさっている。
本舞台にして生まれ故郷「風都」を守る青年・左翔太郎(ひだり しょうたろう)は典型的な「足で調べるタイプ」の探偵であり、地の利や人脈を活かすも地道な聞き込み調査を中心に行う。それ故に超常現象が絡む『メモリ犯罪』には翻弄されて醜態を晒す不憫な役回りも多いのだが、そこが事件の難解さと“三枚目”の面白さを際立たせているキャラでもある。そこに強い正義感と心優しい性格も合わさり悪く言えば「ツメの甘い」、良く言えば「情に熱い」性分が事件の背景や人物の心情描写を深く掘り下げる面白いシナリオに持っていきやすい。
とは言え探偵モノに欠かせないのが「名推理」。名推理とくれば「安楽椅子探偵」がそれを担うことが多く、翔太郎の相棒・フィリップが正にそのタイプだ。
彼は部屋から出ず特殊能力『地球(ほし)の本棚』で興味のある情報を貪る日々を送っている。地球の本棚は謂わば「アカシックレコード」と呼ばれる情報概念であり、フィリップはそれを「検索」という形で閲覧することができる。事件のキーワードを検索にかけて敵の正体や能力の謎に迫っていく様は観る人が探偵モノ・推理モノに期待する展開そのままであり面白い。
2人の主人公は各々、完璧な探偵というわけではない。上記した翔太郎はともかく、フィリップの能力も様々な制約がありその名推理は本人の知識力・発想力ではないのである。その上での安楽椅子探偵なのでフィリップ1人では事件解決が難航してしまう。
ここまで書けばベタではあるが、2人は協力して事件に臨む。翔太郎が足で情報を稼ぎ、フィリップが普段使いはしない知識を調べ、それらを探偵事務所内で共有することで事件の真相解明に繋がっていく。両者を均等に映しコンビのチームワークが冴え渡る演出が清々しさを生む一方で、2人が喧嘩をしてしまえば事件の暗礁乗り上げに直結するハラハラ感も味わえる。構成にフォーマットがありつつも単純ではないシナリオがW主人公によって生み出されているのだ。

【そしてココが面白い:2人で1人の探偵、2人で1人の仮面ライダー(2)】
そして仮面ライダーも特徴的。何と言っても人体の正中線に沿ってツートンカラーという奇抜なデザインが一見、ダサい。しかしその実、装飾の少なさと緑と黒というシンプルな色合い、そして赤色の複眼は『仮面ライダー1号』と『仮面ライダーBLACK』のオマージュ要素も兼ね備えており、平成ライダーの誰よりも仮面ライダーらしいと言っても過言ではない。勿論、動けばカッコいいのである。
あのツートンカラーが設定上、バトル物として魅せるのに合理的でもあり、片方の色を変えるだけでWの戦術が然り気無くも劇的に変わる「フォームチェンジ」となる所が面白い。例として左側が黒だと共通して徒手空拳で戦うのだが、右側が緑であればその回し蹴りに旋風巻き起こるエフェクトが追加され、攻撃力以上にスピードと防御力が増すスタイルとなりこれが様子見の基本フォームである。ここから右側を黄色に変えるとなんと『ONE PIECE』のルフィみたいに手足を伸ばしながら変幻自在に戦い、赤色に変えれば攻撃力重視のパワースタイルに変わる。
3×3の9種類のフォームはどれも下位互換がなく様々な戦況に応じて使い分けられている。その“戦いの上手さ”が観てて爽快感があり、アクション好きとしては惚れ惚れとしてしまうのだ。

【他キャラ評】
ときめ
最初の事件『T字路の魔女』その人ということでニチアサの「子供っぽい」イメージを脱却するかの如き妖艶(ようえん)な雰囲気と恵体(けいたい)を持つ女性。印象深いがゲストキャラのまま退場しそうだった彼女がまさか翔太郎の助手として新レギュラーキャラとなる展開には驚きと戸惑いがあった。
前作『仮面ライダーW』は一旦ではあるが完結している。完結作品は劇中の人間関係(コミュニティ)もまた完成されている筈で、主人公らが勤める鳴海探偵事務所が正にそうだった。そこにエロスの塊(翔太郎談)のようなキャラが投入されたということで人によっては────とくに前作のファンで愛が強ければ強いほど「異物感」や公式ながら「二次創作感」を覚えてしまうのではないだろうか。
{netabare}そんな“ポッと出”の彼女に試練を与えたのがエピソード2『最悪のm』。とんとん拍子で翔太郎の傍に来たときめは無自覚ながら嫉妬していたフィリップの感情もぶつけられる。彼との軋轢はある種の“禊(みそぎ)”のようであり、さらに翔太郎から「探偵の流儀」を教わることで真にその一員となっていく彼女を丁寧に描いている。{/netabare}
正に『風都の新しい風』。敵組織との繋がりも感じさせる謎多き美女と翔太郎たちの今後をこれからも見守っていきたい。

【総評】
仮面ライダーシリーズとしては初の長編アニメということもあり期待の中に一抹の不安もあった本作だが、予想以上に『仮面ライダーW』として高い完成度を第1話から魅せてくれた。それはWの遺してくれたポテンシャルのおかげでもあるし、監督に『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズと『ウマ娘 プリティダービー』シリーズの椛島洋介氏を据え、後者を制作した「スタジオKAI」が制作の大部分を担っているからでもあるだろう。特撮のオマージュを多く取り入れたシンフォギアとあにこれでも評価の高いウマ娘のノウハウが積まれることで特撮ファンのツボをきっちりと押さえつつアニメとしても非常に面白い作品だと評することができる。
最初の本格的なバトルシーンはスロー演出で妙にもっさりとした印象も受けたが、ファンにとってはおよそ10年ぶりのヒーローの再誕ということで最初にじっくりと石ノ森テイストなWのフォルムを拝むことが出来て素晴らしい。特撮のスーツアクターである高岩氏へのリスペクトが強く感じられ、Wのデザインや動きにそれが表現されている。アニメは特撮に引けを取らない素晴らしい媒体なんだな、と改めて感銘を受けた次第だ。
何より現代特撮──スーパーヒーロータイム──ではやりづらくなったことをぶんだんに取り入れているのが良い。お色気やスプラッタなどの表層的な部分ばかりでなく、人間が着ぐるみを着るのでは表現できない怪人の造形、公道を走れずアクターの安全を考慮し続けた結果、撮影そのものを縮小させてきたバイクアクションなど喪われつつあった“仮面ライダー要素”がアニメになることで復活した。大変、喜ばしいことである。
作風も「仮面ライダーだから子供らしく」ということはなく怪奇ミステリーとそれを解く探偵要素を混ぜ込んだ王道のヒーローアクションであり、前作と変わらない部分を魅せながらもかなり大人向けに仕上がっている。
まあコーヒー噴き芸や本編終了後のミニアニメなど子供に向けたようなギャグ描写も残ってはいるが、それもファンサービスの一環であろう。『TIGER & BUNNY』などヒーローアクションが好きな方は勿論、元来仮面ライダーとは親和性が高い『魔法少女まどか☆マギカ』や『結城友奈は勇者である』などの魔法少女モノや変身ヒロイン物が好きな方にも是非オススメしたい作品だ。

投稿 : 2022/10/17
閲覧 : 213
サンキュー:

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