「映画 ゆるキャン△(アニメ映画)」

総合得点
76.7
感想・評価
230
棚に入れた
874
ランキング
686
★★★★☆ 4.0 (230)
物語
3.8
作画
4.1
声優
4.0
音楽
3.9
キャラ
4.1

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

5人の友情と青春をキャンプに絡めて描く。これが「ゆるキャン△」

自分語りではあるが、私はレビューを書く際には沢山、他の方のレビューや感想を参考にしている。自分が観て率直に思った・感じたことのみで文章を作るのは正道であるし憧れるのだが、やはり他の人の意見とも擦り合わせて作らないとレビューは主観的な“感想文”に陥りやすい。そう考えての現在の作文スタイルが仇となったか、この稿を起こすにあたっては少し悲しい気持ちになることが多かった。
「ゆるキャンらしくない」
時折、こういった書き込みが散見されているからである。
確かに本作の内容は今までの「女の子がまったり楽しくキャンプする」といったものではない。10年という時間経過の寂しさ、メインキャラクターたちが大人になり仕事を持つことによる窮屈さなども描かれており日常系に求める「癒し」が大分少なくなったな、とは私も感じていた部分である。
しかし「らしくない」とまで書かれたコメントを見る度にこうも思うのだ。
「『ゆるキャンらしい』って何だろう?」と。
「ゆるキャンはこうあるべきだ!」という人も「そんなこと考えたこともなかったよ」という人もちょっとそういうことを頭の隅で考えながら是非私のレビューを読んでほしい。

【ココが変わった!:10年後の『ゆるキャン△』は青春アニメへ様変わり】
そもそも劇中で10年が経過し、大人になったなでしこたちでこれまでと同じくキャンプに絡めたまったりとした日常描写を求めるのはナンセンスな要求だ。そんなものはまだまだ連載中の原作『ゆるキャン△』のストックが溜まり次第、3期が制作される筈なのでそっちに期待すればいい。今回は1本120分の劇場上映という形態の都合もある。
なのでこの作品はこれまでのシリーズとは違う1つの青春物語が設けられている。それは学生時代にキャンプというものを楽しんできたなでしこたちが放棄された土地を活かしてキャンプ場を作り、その楽しさを誰かに伝えることだ。
1・2期などで見せてきた過去、これから作られるだろう3期以降の未来、そして作品としては描写されない合間の期間。全ての時間を考えても常になでしこたちはキャンプを楽しみ、失敗すらも想い出にしていったことで本作の5人が存在していることは想像に辛くない。だがその一方で5人で何か大きなことを「成し遂げる」ということはこれまで描写されなかったし、本作が出るまでは想像もしなかった概念である。
そんな彼女らが地元・山梨県を盛り上げるため、そして沢山の人が楽しいキャンプ体験が出来るようにという想いで、雑草まみれの荒れ果てた土地を開墾していく。キャンプを絡めた日常に明確な目標が加わることで、本作は日常系から“青春系”に進化した。

【ココがすごい!:日の出と環境音】
映画化によって作画や音楽面もさらに向上し劇場に赴く価値をしっかりと持った作品なのだが、中でも特徴的だったのが環境音やBGMである。
砂を踏みしめる音に加え、吹いているのかよくわからない程に細やかな「コォー」という風の音などキャンプ場の雰囲気が音で明確に伝わってくるのは本作ならでは。自然の音ばかりでなく、蛍光灯の音まで再現されている。独り暮らしをしている社会人が夜半に帰宅し、照明を点けた時に微かに聴き取れる“あの音”である。
これらの環境音は新規収録していると音響監督の高寺たけし氏が発言しており、そんな彼のこだわりが抜群に反映されている印象を受けた。
また、尺が2時間(120分)とアニメ映画にしては長い作品ながら飽きることなく見られたのはBGMの力が大きい。吹奏楽を主体にした様々な曲は静的な音が少ないことで学生時代の活気と好きなことへの活力を表しており、およそ1時間以上被りない多くの曲が作品を盛り上げている。
そして映像面。1・2期ともに見どころとして必ず用意している「日の出」のシーンが本作にも盛り込まれており、やはり大きな宝石のように美しく夜を照らすのが圧巻である。今までは1・2期の〆として表現されていた日の出は千明の郷土愛、リンのキャンプ愛とそれらの気持ちを誰かに伝える決意を送り出すかのごとくかなり序盤にも置かれており、これまでとはまるで意味合いの異なる1シーンとなっている。テレビアニメならそこで一旦区切って次回まで待つところをさらに続けて上映するのだから、その満足感は生半可なものではない。

【変わらない魅力:彼女たちはキャンプが好き。友だちとする“活動”が好き】
本作は今まで打ち出された1・2期と比較して変化したところばかり注目されているが、それらは飽くまでもキャラクターを取り巻く環境であり、各キャラクター自身はそこまで大きく変わってはいない。
{netabare}勿論、大人として成長した部分。仕事に関する「行き詰まり」が用意されて陰りを見せる部分もある。今回のプロジェクトも順調に進んでいる時に思わぬ障害が発生し、中止に追い込まれた時の雰囲気も鬱屈としていた。しかし、こういった演出も5人のキャラクターを「キャンプが好き」「食べることが好き」「友達と何かするのが好き」の3つを根幹に据えて描写しているからこそだ。{/netabare}
今一度書くが、キャンプを楽しんできたなでしこたちだからこそ荒れ果てた土地をキャンプ場として甦らせることを思い付き、それが今回の主目的となった。それは今までにない大きな目標ではあるが、実は“目標を達成する”というのは彼女らが学生時代からコツコツと見せてきた部分であることを思い出せないだろうか。
綺麗なランタンのため、美味しいキャンプ飯のため、素晴らしいキャンプ体験のため────学生だったなでしこたちはアルバイトでお金を集め、学業も問題にならない程度に励み、その最中で新しいキャンプ計画を練って実行に移していった。時間がかかっても決して1つも諦めることはしなかった筈だ。
{netabare}だから大人になった5人も諦めない。突然割って入ってきた障害もまた沢山の人に想いを伝えるというキャンプ場作りと同じ意義があった。そこに真っ向から対立せず相手にも利の大きい折衷案を模索しまとめ上げる様は彼女らの今までの人柄もよく表れている。{/netabare}
なでしこたちはファンの見えないところで大人になり、嫌が応にも精神的な成長と負荷を与えられてしまった。それが「彼女たちは変わってしまった」と視られる部分である。だがそれは誰よりも彼女らが自覚し、元に戻ろうとしていたのだと思う。
{netabare}「同じ服を着るなんて、高校の時以来だよね!」
最初の工事日、同じ作業服に身を包んだ時の1人の言葉で私はそう感じた。{/netabare}

【キャラクター評価】
志摩リン
本作がとかく「らしくない」と言われがちなのは我らのリンちゃんが一番、社会人の嫌な部分を背負ってしまったからだろう。満員電車の通勤、多忙な業務、企画のボツ、独り暮らしetc. 鬱々とした事象を5人の代表・主人公として一身に受けている様は同じ立場にいる又はいた人のトラウマをつついたに違いない。
しかしそういった「しがらみ」から一時でも解放してくれるのが趣味・娯楽であり、彼女にとっては当然「キャンプ」が当てはまる。今回のキャンプ場設立プロジェクトは現実的な目線で見てしまうと色々と無理があるのだろうが、そこを成立させるのが各人が好きなキャンプへの「情熱」であり、それが最も強く灯っていたのがやはりなでしこに並んでこのリンちゃんだったと思う。

各務原なでしこ
かつて志摩リンとの出会いでキャンプと富士山をこよなく愛するようになった彼女は本作でアウトドアショップの販売員となり、5人の中で1番自分のやりたいことを仕事に結びつけられた人間に見える。
ただ本作のなでしこは学生時代に比べてなんとなく心の片隅に靄(もや)が立ち込めていたような気がした。それは画の表情の雰囲気だったり声の演技だったりしたのかもしれない。CVの花守ゆみりさんは声幅が広く、クールなキャラであればあるほど声を低く抑揚を抑える演技ができる人だ。本作のなでしこには僅かにそのクールな演技が入っていた様に思う。
{netabare}大人になった5人が全員何らかの行き詰まりや悩みを抱えていたと仮定すると、もしかしたらなでしこは自分の営業スタイルに少し自信を無くしていたのではないかと思った。お客様のニーズと予算を考慮するのはいいのだが、他店の商品を勧めてしまうのは販売職としては致命的だろう。店長は大目に見ていたが、そこになでしこ自身も引っかかっていたのではないだろうか。{/netabare}
そんな気持ちがあったのか定かではないが、「キャンプの楽しさを沢山の人に伝えたい」という台詞はよくこのなでしこの口から発せられていた。彼女らしい台詞であると同時に彼女が大人ではなく「なでしこ」であるために自ら言い聞かせていたのかな、とも思う。

大垣千明
5人の中では良い意味で1番変わっていない。野外活動サークル部長時代を思い出せる適度なリーダーシップとノリの良さ。しかしノリ過ぎて若干ちゃらんぽらんになるのが玉に瑕。でも公共の場ではきちんと礼儀正しく真面目を努める────本作は視聴者にとってわずか1年ぶりでしかない作品だが、視る者に「ゆるキャンといえばこれよ」と言わしめんばかりの大活躍である。個人的には直前に『へやキャン(2020)』を視聴したからか、彼女の郷土愛──山梨への愛──の主張が学生時代から続く不変の想いであることにいち早く気付けた次第だ。
強いて変わった所を挙げるなら、その学生時代のノリをお酒に頼る面が出てきた所か。彼女は案の定というか『2代目ぐび姉え』に就任してしまっている。酒の勢いでリンを連れ出しキャンプ場設営予定地に赴いたときにはタクシーのメーターが10万円を超えてしまったのにツボに入ってしまった様子から、大人になった各キャラの年収が邪推されたそうな……

犬山あおい
{netabare}意外や意外、まさかの小学校教師である。そして勤め先の小学校が劇中で廃校になる。視る人によっては「話を盛り上げるための進路」に受け取られてしまうか。
過疎化と少子化で寂れていく地方の小学校にはこんな終わりがある。本作が10年後という時空を超えた話ゆえに、止められない時間と避けられない別れを受け止めるという儀式を彼女を通して描かれていた。
キャンプ場設営のトラブルに畳み掛ける鬱々とした時間。降り出した雨の中で「うそやでー」と言ったあおいの顔は例のものではなく普通の顔だった。前作が日常系だったこの作品は悲しみや辛さを直接は表現しないのである。それがとても情緒的だ。{/netabare}

斎藤恵那
恵那というかペットのちくわや!劇中何度「死ぬのか……?」と思ったか……( ω-、)
犬の10年は人間にとっておよそ50~60年。その分の歳を取ったちくわは駆け回ろうとしてもすぐにバテてしまうし普段の動きからして緩慢だ。紛れもなく避けられなかった老衰が、直接的な別れを描いたあおいに対して恵那にこれから訪れる別れを暗示させており、1番心苦しい再登場だった。
恵那も大人であり仕事を持ったからこそ、残された時間は少ないのに実家のちくわとは離れて暮らしている。彼女がちくわに1番の愛情を持っているのにそれを注ぐことが無理なためだ。本当に歯痒い現状だと思う。
だからこそ2期の「すごく怖くて悲しいが、仕方のないことなので 今いっぱい遊んであげて楽しかったと思ってもらいたい」という台詞が活きてくる。本作の恵那もちくわを散歩したりキャンプ場設営場所に連れてったりしているが、それは彼女が毎週末に必ず実家に帰省している──つまり神奈川と山梨を毎週往復している──から可能になることだ。現実的に考えればこんな馬鹿馬鹿しい行為は続かない。「有り得ない」と冷めてしまう人もいるのかも知れないが、私は彼女の10年前の覚悟が本作でも活き続けているのだとわかると、架空の人物ながらリスペクトを禁じ得ないのである。

【総評】
起承転結をしっかりとつけた良作。『ゆるキャン△』シリーズに障害や山場を用意するなどちょっと「らしくない」とは思ってしまう所もあるのだけれども1本の映画作品としてなら必要悪であり、およそ2時間に渡る上映の最中で視聴者に間延びを感じさせないといった効果もきちんと発揮されていた。2期の凍死の危機など、前例が無いわけじゃないしね
時を経たせたことによる変化や物事の終わりに打ちのめされそうになりつつも前作とは変わらないもの、また変わってしまったことを自覚するからこそ喪ったものを取り戻そうとする登場人物たちの動きが正にシリーズのアフターストーリーとして王道的であり、これが最終作だと言わんばかりの出来映えである。
強いてダメ出しするなら、むしろ10年後という大胆な設定を持ってきたからこそもっと視覚的にその「時の変化」を感じさせてほしかったな、と思った。とくにキャラデザはファンからのブーイングを恐れたのか殆ど変わっていない印象だ。多少、背が伸びたり髪型が変わったりしているキャラもいるものの、例えば学生の頃から大人びていた志摩リンはお団子ヘアを辞めた以外は全く変わっていないので働いている姿は職場体験、千明とのサシ呑みでは未成年飲酒のシーンに見えてしまった。16歳の頃と10年後とはいえまだ30に充たない女性キャラとでデザインに差をつけることは難しかったのかもしれないが、4年の時で女性キャラの容姿を劇的に変える別作品もあることを私は知っているので、ゆるキャン△ももう少しそこは試行錯誤してほしかったと思う。
そういう意味では声優もまた学生時代のキャラクターとの差を感じることはなでしこの演技以外には無かったので、花守さん以外の4人にはもう少し頑張ってほしかった。全体的に本作のコンセプトと脚本に映像・演技がついてこれなかった印象を抱く。もしくはコンセプトそのものがまだ時期尚早だったのかも知れない。
なので本作に拒否感を持つ人の気持ちも解る。解るのだが「ゆるキャンらしくない」とまで書かれれば私は「いやこれはゆるキャンだ。シリーズの終端だ」と言い返すつもりだ。
確かに「ゆるキャン△」とは字面の通り女子高生5人が弛く楽しそうにキャンプをする日常を眺めて癒される作品だった。しかし物語の火蓋を切った以上、その物語には「終わり」がある。物語の終わりを山も谷もない日常で締めようとしてもいまいち締まりが悪いのではないだろうか。
社会人になって数年目、学生の友達とは別々の道を歩み、互いに変わってしまうことは現実の世界でも避けられない現象だ。それでも本作では大人になってしまったなでしことリン、千明、あおい、恵那が、また「キャンプ」という概念を通じて学生の頃のように繋がる。この5人の「友情」と「青春」をキャンプに絡めて描くことこそ「ゆるキャン△」という作品の定義であり、1期も2期も、そしてこの作品もその定義からは外れていないのである。

投稿 : 2022/09/07
閲覧 : 214
サンキュー:

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