てとてと さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
カルト宗教の醜さと救いの無さを描いた韓国映画。凄まじく鬱アニメだけど考えさせられる
じきダムに沈む寒村にクズ親父(ひぐらしの鉄平みたい)が帰ってくるが、村はカルト詐欺に支配されていて、怒った親父がカルトに立ち向かう。
【良い点】
心弱き人々を搾取するカルト詐欺の醜悪さを徹底的に描いている。圧巻。
同監督のソウル・ステーション パンデミックと共通して、キャラや作風がクズな割には比較的不快感が少ない。
単純な勧善懲悪ではない、人間の弱さや醜いエゴを真摯に描いており、登場人物がクズか愚か者しかいないのに、むしろだからこその共感と悲しみを感じる。
主人公は唯一カルト否定できる理性はあるが他の人格面がクズで誰にも信用されず、牧師は偽善者だけど人々を救いたい想いと信仰は本物、主人公の娘は精一杯努力したが父に人生踏み躙られてカルトに縋った末に悲劇的末路。
他にも主人公の唯一の味方だった弟分も、半ばカルトを理解しつつも愛する妻に殉じる諦念。
一番邪悪な俗物だった教祖(長老様)ですら、言動から過去に信仰して救われなかった悲哀を感じる。
皆どうしようもない。弱く愚か。自己責任と断じるにはあまりにも無力。
作中で「自分の目で確かめろ」などのメッセージもあるが、無理だろうと思わせる。
個々人の自己責任だ、弱く愚かな彼らが悪い?という逃げ道を徹底的に塞ぎ、現実の社会病理に対しこれでいいのか?と痛烈に訴える内容だった。
…この点は別の韓国アニメ映画でルッキズム地獄を風刺した「整形水」も共通していて、抗い難い社会病理に対する人間の無力さを痛感させる。
こういう諦念と徹底は韓国作品の底力だと思った。あまり本数見てないけれど。
一切救いの無い鬱アニメだが示唆に富んでいる。
本作は宗教自体を悪と断じているわけではない点も深みがあると同時に残酷。
フェイクであっても信仰で救いを求める者、救わんとする者は確かにいる。
真実であっても主人公の生き方では結局娘も本人も破滅は変わらなかったと思われ。
何が悪かったのか?勧善懲悪で一筋縄ではいかない生き地獄。
「フェイク 我は神なり」のタイトル(あにこれではフェイク省かれているが)の意味とは?
明快には分からないが、考えさせられた。
ただ、主人公が心折れて信仰に閉じこもるバットエンドを見るに、信仰に縋るというか、縋らざるを得ない情勢自体を否定したと見てよいか。
韓国語の良し悪しは分からないが、声優陣の気迫は伝わってきた。
実写でよくね?という視点については、アニメ好きとしてはアニメでもよくね?と肯定的立場。
派手さはないが作画に特に欠陥は無い。
【悪い点】
題材や作風自体が不愉快なので、娯楽作品としては全く楽しくない。
序盤時点で犬撲殺したり、ラストも一切救いが無いので鬱になる。
作画や楽曲などアニメ作品としての面白味は乏しい。
【総合評価】8点
善行や善意だけでは報われない社会病理を真摯に描いた力作。
不愉快だけど一見の価値はある。
評価は「とても良い」
【余談】
カルト宗教扱ったアニメとしては中国アニメの「霊剣山叡智への資格」も。
無力な村人がカルトに支配されているのを主人公が立ち向かうが、霊剣山の主人公は無双ヒーローとして痛快に打ち破る。
娯楽小説の霊剣山とリアル路線の我は神なりは真逆の着眼点。
主人公王陸の主張は自己責任論、救われたきゃ強くあれ!俺様が導いてやる!
良くも悪くも傲慢だけど、こちらも一理ある。