栞織 さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
15年前の作品 現実的な初恋残酷物語
昔の新海監督の作品はほとんど知らなかったので、今回この作品をdアニで拝見することができてよかったと思いました。この作品は大阪で開催された新海監督の展覧会でも見ていましたが、どんなあらすじなのかまったく存じませんでした。見て非常に文学的な作品で、最近の劇場作品とは趣が違っていることにまずびっくりしました。確かに背景画の世界系的な美術、現代を切り取った都市や地方の景観の素晴らしい描写は同じものですが、独白が多いこの作品はほとんど小説みたいな感じに思えました。
あらすじとしては、小学生のころつきあっていた少女が遠方になり、文通を続けていたが今はしていないらしい青年の回想録みたいな体裁をとっています。そのころの純粋だった思い、そして高校生の時栃木県までその少女に電車で雪の中を会いに行った話がメインで、その後の話はしかし現実はこういうものだという感じにつづられています。秒速5センチメートルは桜の花びらが落下する速度だと言われていますが、それはおそらく種子島宇宙センターで発射された宇宙ロケットの速さとの対比で出されているエピソードです。その種子島に転校した主人公は、自分を好ましく思う少女と出会ったり、またその後東京で別の女性と交際をしますが、初恋の小学生の少女を忘れることができません。そのため東京の女性とは別れることになってしまいます。そして、踏切でその小学生の時の少女に似たおもざしの女性とすれ違いますが、それは本人なのかわからずこの物語は閉じることになります。そのあたり、のちの作品の「君の名は」「天気の子」と違って、ものすごく現実的でした。それらの作品では偶然に再会できるオチですが、この作品ではそういう夢想は否定されています。
画面には15年前のころのいろいろな事象が出てきて、今との違いにまず気づきました。なんとも言えない閉塞感が漂っています。地方は今よりも辺鄙な現実的な描写です。いえ最近JRも地方は減便になりましたから、またこの世界に戻ってきているのかもしれません。新海監督がまだ今ほど有名ではない時代の作品ということで、その意味もあるのかもしれませんが、携帯ひとつをとってみてもガラケーでメールを打つ描写で、今とはまったく違います。あの時代にあった空気感が色濃く出た作品で、中間小説みたいな独白が多用されている点からも、いわゆるアニメ離れした作品であると言えるのではないでしょうか。新海監督の作家性の強い作品だと感じました。いわば商業主義的ではない、本音の部分が強く出た作品だということです。