「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です(TVアニメ動画)」

総合得点
70.9
感想・評価
285
棚に入れた
953
ランキング
1462
★★★★☆ 3.4 (285)
物語
3.5
作画
3.0
声優
3.5
音楽
3.3
キャラ
3.5

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ネタバレ

エイ8 さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

これだけ上手にチートを扱えてる作品は珍しいかも

『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』(おとめゲーせかいはモブにきびしいせかいです)は、三嶋与夢によるライトノベル。通称は「モブせか」。イラストは孟達。
2022年4月から6月までAT-Xほかにて放送された(wikipedia)

ここ「あにこれ」でレビューを書くようになってから観るアニメの基準が「レビュー書きやすそう」なものになってきた今日この頃、本作も正直最初はネタ枠のつもりでした。
事実、一話冒頭から始まる突っ込みどころ満載のゲーム世界観、お前まさかこんなハチャメチャ世界に転生すんの?と思ったらほんとにしちゃったというw

「男の立場は!?」「あ?そんなもんあるわけねーだろ」

などと言われてしまうぐらい女尊男卑(一部上級イケメンを除く)の世界、50代のバツ7相手と結婚させられたくなかった主人公のリオン・フォウ・バルトファルトは現世で自分が課金したチートアイテムの回収に赴き無事?それをゲット。もうこの時点で「主人公のセーブデータ消したらどうなるのっと」とか思ったもんです。だって課金アイテムなんて彼一人が買うわけじゃないんですから、それなのに紐づけされてるってことは主人公のデータ基準となってなきゃおかしいわけでとか何とか。

ただ野暮な突っ込みいれてたのも概ねここまで。その後は良い意味で面白かったのでシンプルにのめり込んで観ることが出来ました。
あえてジャンル分けすると無双系というくくりになるのでしょうが、ほんとに圧倒的上段からの一方的虐殺行為は行いません。それをするときはちゃんと理由があることが多く説得力もありますしまた爽快感も伴ってホッとします。
チート能力を有した主人公の多くは世界の「破壊者」であることが多いと思うのですが、序盤早々に野心を失っているリオンは極力シナリオのバランサーであろうとします。ここでいう「破壊者」とはその世界における本来の道理を破壊する者のことであって、まあ一番わかりやすいのは「オーバー〇ード」とかですよね。普通ではありえないような圧倒的力でもって周囲を屈服させるわけなんですが、本作においてはその役割はリオンというよりはむしろマリエが担っています。リオンと同様彼女に与えられたチートとは言わば「予言」のようなもので、それを逆手に取ることにより自分が本来の主人公であるはずのオリヴィアに成り代わろうとするわけです。ただそれを修正しようとするのがリオン、彼のチートは基本的にはその過程で使われることになります。そして自分がモブであるという事実から、本来主要キャラであるオリヴィアやアンジェリカと恋仲になることを徹底的に避けようとします。が、彼の思いとは裏腹にそんなチートキャラを彼女達を含め周囲が黙ってるわけもなくという流れ。自業自得といえばそれまでなのですが、彼の場合はよくある「やれやれ系」ではなく本気で自分の役割を弁えた上での判断が結果的に裏目に出るわけなんですが、ま、あれだけ目立ちゃそりゃそうでしょうね。

いやいやそもそも初っ端からアンジェリカを助けにいったやん、あれ自分でユリウスら5人の攻略対象が嫌いだからみたいなこと言ってたやん明らかに私利私欲でシナリオ破壊しに行ってるやん全然バランサーじゃないやんって言われるかもしれません。
でもね、思うのですよ。実際のところあれこそが運命というか本来のシナリオ通りだったんじゃないかって。だってリオンくん、どう見たって明らかに「性格の悪い田舎領主」予備軍でしょw本来のゲームシナリオでは学園外部の人間を代役に立てるが「結局主人公が勝てば」アンジェリカは「性格の悪い田舎領主」と落ちぶれた日々を過ごす、とあります。特にこの「結局主人公が勝てば」がミソで、というのもゲームだと普通は主人公が負ければそこでゲームオーバー、リトライということになるわけです。(勿論ゲームによってはシナリオ分岐することもありますが、そこは割愛w)つまり、ゲームのシナリオ上アンジェリカはどうあがいても「性格の悪い田舎領主」との結婚が宿命づけられているのですw
一方、この度の転生世界においてはシナリオが上手く進まないからといって「リゼロ」のように死に戻りするわけではないので「主人公(この場合はマリエ)が負けても」シナリオは進みます。おそらくリオンの腹の内ではアンジェリカを落ちぶれさせたくないという意図も働いていたと思われますが、皮肉なことにこの件をきっかけにアンジェリカは「性格の悪い田舎領主」と結ばれるルートに入ったんじゃないでしょうか。ある意味彼女は主人公でないからこそ定められたシナリオに沿った人生を送らされる羽目になるのかもしれませんw
本来の主人公であるオリヴィアにおいても、ゲーム上はユリウスらを攻略することを義務付けられているわけですが、当然ながらその誰とも結ばれないバッドエンドも用意されてる筈なのです。なので彼女がユリウスらと結ばれないとしても何らおかしくはないのです。

それにしてもマリエって明らかにリオンの元妹ですよね。というかこれもう逆に違ったらダメな領域でしょ、ここまで来たら下手などんでん返しはいらないです。マリエちゃん、現世の描写ではJK設定なのかと思いましたが実際はJD?あの服は制服に見えたのですがただのファッションだったのでしょうか、さすがに高校生のカレシがギャンブル狂いっていうのはありえないというか、設定として変ですし。ただリオンと同時期に死んだという保証はないですからある程度成長した後に死んだというケースもありそう?いずれにしろセーブデータは共用だったからこそ同じ世界に転生しちゃったのでしょうw

リオンはかなり露悪的な主人公ですが、個人的にはそれほど嫌な気はしませんでした。これは単に自分の感性がある程度合ってただけかもしれませんが、そんじょそこらの作品よりもずっとちゃんと心理描写やってると思います。よくある超どうでもいいありきたりな言葉でハッと胸を打たれる女子がいないあたりも好感度高いです。
少し面白いなと思ったのはリオンと同様のモブキャラ達に関しては彼がどれだけ活躍しようと一目置かないんですよね。最終話でボソッとアンジェリカの父親も言っていたと思いますけど、いくらリオンがクズで金の仇だからと言って人気が出ないのは明らかに変です。ひょっとしたら何らかの制約が彼には課されているのかも。

原作勢にはあまり芳しくない評価を受けているようですが、原作未読の自分からすると大変良く出来ていたと思います。作画はやや劣りますが、低予算作品であると思われる中で最大限クオリティを下げない努力がなされていたとも感じます。脚本、構成共にかなり良く出来ているとも思いました。(一部、例えばマリエが結局王女のもとに連れてこられたのかわからない点もありましたが)

というかこの作品って「なろう」が元だったんですね。あまりにも構成がしっかりしていたので書き下ろしラノベが原点だと思ってました。とすると、アニメが頑張ったのが大きかったのかもしれません。
実はこれを書いてる時にちょっとだけ「なろう」の原作を覗いてみたんですよ。そしたらどうも全部を説明したがるタイプのようで、まあそれ自体の気持ちはよくわかるんですけどこういうのはアニメには向かないと思うんですよね。「なろう」での文字数は原則無制限ですがアニメの尺は決まっていますから。その点から鑑みてもアニメは実にテンポよくサクサク進んでいたと思います。原作の取捨選択が上手だったのでしょう。

まあ悔しいですがお気に入り棚行きですかねえ。こんなタイトルのものを棚に並べるのはちょっと……という気がしなくもないですが、面白かったのだからしょうがないです。ぐぬぬ、です。

とはいえせっかくなので難癖じみたあら探しの方も少々。
(あくまで個人的な考えなので隠します。)
{netabare}

強いて個人的に気に入らなかった点をあげるとするなら、やっぱり中世(厳密には近世)ヨーロッパのドヤ知識ですかねえ。準男爵を用いてる辺りイギリスのを参考にしてると思うんですが、正直言って律儀に準男爵と男爵の間に平民と貴族の差とかつける必要あるのかなあとは思いました。こんなのテキトーでいいじゃんって。実際こんなこと知ってる人どれだけいると思います?学生時代世界史の範囲にありました?
まあ勿論気持ちはわかるんですけどね。知識の正確性は目を付けられやすいですから。特に中世ヨーロッパ物は昔っからですからねえ。でもここはイギリスじゃなくて異世界なんですから参考にすることはあれど束縛されないようにはしてほしいですよね。結構あると思うんですよ、中世ヨーロッパにこだわるあまり設定が無駄に回りくどくなるような作品って。物理現象とかならまだわかりますけどもこういう文化の方まで正確を期する必要はないんじゃないかと思います。
この作品の場合ファンタジーと言えども主人公らの住む「ホルファート王国」がイギリス(或いはその何処かのカントリー)をモデルにしたものとして現実と対応させてるとかだったらわかるんですけど、じゃあファンオース公国って何処がモデル?ってことにもなりますし。まあどう考えても完全オリジナルなわけなんですから。

もっともwikipediaの「準男爵」の項目を参照しますが準男爵設立の背景として

――ステュアート朝初期の17世紀初頭、イングランドの王庫は財政破綻の危機に瀕していた。16世紀末からの対スペイン戦争の負債が重くのしかかっていた上、王領地の払い下げもほぼ終了していたため、王領地売却による一時金も地代収入も期待できなくなっていた。この危機を打開するため様々な財政改革案が出され、その一つとして構想されたのが世襲の新位階を販売することだった。

最初に新位階の創設を考案したのは哲学者で下院議員だったフランシス・ベーコンであるが、彼の構想は販売ではなく、アイルランド入植を推進するために入植者に与えることを想定したものだった。このベーコンの構想にヒントを得て新位階を販売すべきことを主張したのが尚古学者で下院議員のロバート・コットンだった。1611年に「大契約」が議会で否決されると、コットンの提案はほとんど無修正でイングランド王・スコットランド王ジェームズ1世(スコットランド王としてはジェームズ6世)と枢密院に採用された。――

とのことをモデルにした出来事が「ホルファート王国」にもあったというのなら話は別ですがw
{/netabare}

投稿 : 2022/08/13
閲覧 : 234
サンキュー:

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