薄雪草 さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
仲立つ雨も ゆくへ孤悲しき
心に靄がかかる日は、雨に烟(けぶ)るエキストラでいたい。
大都会の水の辺(べ)に、消えいるくらいがちょうどいい。
水紋と緑葉とで彩られた新宿御苑。
顕世(うつしよ)の喧騒を遠くにさせる優しげな萃雨。
空蝉(うつせみ)の体を気遣うようにささやく雨だれ。
そんなハーモニーとセレモニーとに落ちつきたい寂しさが、胸の奥で疼いている。
~ ~ ~
ビールの苦みは、気抜けしたかのようにいくらもキレがない。
チョコの甘さも、だれかを許せるほどの魔法をあみ出せない。
夏空はまばゆく煌めいているのに、潤いはすっかり干上がっている。
開いたページに世路を辿っても、憂いばかりに足をとられている。
~ ~ ~
その人は、今までどんなふうに暮らしてきたのだろう。
足元の覚束ない彼女を、この先、律するものは何だろう。
孤悲しさを未来に残したい万葉の詠歌なのだろうか。
それとも、万葉に陰るベンチで言向け和す誰かだろうか。
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いわれなく詰られることに戸惑っている。
だけど、大人の対応がこなしきれない自分にも手を焼いている。
息詰まる想い、そぞろな空言、葛藤と逡巡。
それらにきびすを返した私には、受け止めてくれる寄り木も、招き入れてくれる灯火も、すでにどこにもないのだ。
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だから、ユキノはひとり四阿にいる。
何かを得るため、誰かと語るために、足を運ぶのかもしれない。
身を寄せ合うため、信じられる言霊を分かち合うためなのかもしれない。
そんなヒーリングガーデンのことを、言の葉の庭と呼ぶのかもしれない。
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歩き出そうとするタカオと、まだ歩き出せないユキノ。
雨に誘われた気まぐれが、歩調をそこに止めてしまった。
逢うたび心は寄りかかり、魅かれはじめてしまったのです。
その逢瀬は、夢の在りかをともにできる二人だけのエリアカラー。
その約束は、人生の旅立ちを心に秘めあう淡いモラトリアム。
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さりげない呼応のなかで、相聞歌はみどりを深めていく。
差し出す足先の白さに、目先は色めき立っていく。
遣らずの雨によって穿たれた二人の純心。
一方通行を求める校則など、助けにはなりえない。
めぐる進路に、ゆれる才智なのです。
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リビングで向き合えば「今がいちばん幸せ」と納得できる二人のはず。
なのに、教師のてらい、15才の勇み肌が、好きという言の葉の先を打ち消してしまう。
それ以上近づくには、所作がまだ分からないのです。
これまでの振る舞いに、つい背を向けてしまうのです。
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仲立つ雨も、ゆくへ孤悲しき。
二人を引き合わせたのは、いっときの天の粧(よそお)い。
分かつ先をそれぞれに歩ませるのも、四季の移ろい。
天気はいつもふたごころ。
人の足元もたやすくは定まりません。
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二人の魂は、まだ階段の途中にいます。
それは、天でもなく、地でもないかりそめの踊り場。
どんなに思いをぶつけ合い、想いでぶつかり合ってもいい。
でも、決して番うことのできないあえなさなのです。
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タカオの腕では、まだユキノの足を納めることができません。
あと少し、大人にならなければと。
ユキノの指先は、なおタカオへの気持ちを治められないでいます。
あとしばらく、大人であらねばと。
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やがていつか、孤悲から恋へと詠える日が、ユキノに訪れるのなら。
雨情にも優る晴れの日が、その靴でタカオが誇れるのなら。
それぞれの言の葉が、一つの庭で彩られるのなら。
と、そんな未来を見てみたいと願うのです。
{netabare}
ちなみに上の句は、
雷神の 少し響みて 藤匂ふ
藤の花言葉は、
{netabare} 恋に酔う。 {/netabare}
です。
{/netabare}