101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
意識は肉体以外にも乗り移る
原作ライトノベルは未読。
【あらすじ】
{netabare}白系のみを人間とみなす欧州っぽい外観の共和国。
それ以外の被差別民「エイティシックス」を“無人兵器”の「ジャガーノート」に乗せ
帝国の無人兵器「レギオン」と戦わせることで、“流血なき戦場”を実現と居直る。
そんな欺瞞の中にあって、白系でありながら、理想を捨てない士官・レーナは
驚異的な戦果と担当したハンドラー(指揮管制官)が長続きしないことで有名な
「スピアヘッド」戦隊の指揮を担うこととなり、さらに凄惨な現実を知ることになるが……。{/netabare}
【物語 4.0点】
分割2クールの前半戦(全11話)。
人種差別を見てみぬふりするサンマグノリア共和国の堕落を描く。
指揮官・レーナは実際には戦場には立たず、
「エイティシックス」の少年兵らと知覚同調(パラレイド)するのみ。
互いに顔を合わせない状況が、
差別を撤廃したいレーナの理想論を“白豚姫”の“聖女ごっこ”としていっそう上滑りさせる。
しばしば、戦場音声が主の司令する側の場面を、
実際の戦場の兵士視点で描き直す重複が見受けられますが、
尺稼ぎ感は薄く、むしろレーナとエイティシックスを隔てる壁の高さを
視点の違いから痛感させられ意義深いです。
既に滅び去った帝国が残した無人兵器など2年ほどで停止し戦争は終わる。
昼間から白系軍人たちが飲んだくれる共和国の致命的な楽観論。
{netabare}戦場でレギオンが兵士の脳の意識をコピーすることで新たな寿命と高度な処理能力を獲得している。{/netabare}
という重大事実をも見落とし、戦争を他人任せにした共和国は、亡国へのカウントダウンを加速させる。
毎回、ここまで酷いのか?と斜め上を行く悲報を連発し奈落に引きずり込む構成は、
ストレスフルだが、早く彼らの行く末を見届けたいという欲求も抑えがたいブラックホール。
自身のメンタルとも相談しながら用法用量を守って服用しましょう。
【作画 4.5点】
アニメーション制作・A-1 Pictures
作画カロリー、安定度で評価したら、
武骨な多脚歩行兵器の高速戦闘の迫力を勘案してもこの評点はやや過大かもしれません。
が、特筆すべきは演出の巧みさ。
戦場に散った兵士の意識が機械兵器に乗り移るという設定の再現のみならず。
本作は、人間の範囲は器たる肉体が上限ではなく、
意識が反映される武器や小物まで含めて人間であるという構図を多数提供。
その観点から印象的なカットは3話Cパート~4話アバン。
{netabare}セオがレーナの偽善にプッツンきて罵倒する場面。
罵声の中、ちぎれ飛んだボタンが床で跳ね回る演出。{/netabare}
顔芸以上に怒りが伝わってグッと来ました。
その他にも、共和国の高度な科学文明社会にて、
波打つアナログレコードが示唆する、除外された人間性への渇望。
国破れて山河ありを地で行く、戦場で蘇った自然の皮肉なまでの美しさ。
文学的に価値が高い映像が多く噛みごたえがあります。
【キャラ 4.5点】
「スピアヘッド」戦隊長シンエイ・ノウゼンこと「アンダーテイカー」。
散った仲間たちの意識を“連れていく”との信念を持ち生き残り続け“死神”の異名も持つ。
その原動力は戦場に木霊する“亡霊”の声を捉える異能。
{netabare}“亡霊”と化した兄との因縁{/netabare}も含めて、戦場の意識に引きずり込まれる危うさと紙一重。
そんなシンと顔を合わせずに語り合うミリーゼ少佐ことレーナ。
偽善と嗤われ続けても理想を貫こうとするヒロイン。
注意深くアンテナを張れば、シンとレーナの間にほのかなラブコメの波動も検出できるはず。
恋心が、何度心を折られても投げ出さないレーナを無意識的に下支えしますし、
シンを“亡霊”にしない命綱ともなっている。
そこがハードなシナリオの中で数少ないライトノベル要素。
レーナの友人の研究員・アネット。
正義に力むレーナを、合成材料も駆使して再現したスイーツで甘えさせようとする。
{netabare}レーナの正義感に自分の罪が責められているようで耐えられない。{/netabare}
真意が明かされれば、諦観を持ってレーナに辛く当たるジェローム准将同様、
アネットもまた甘いだけのキャラじゃないと分かります。
その他スピアヘッド戦隊員たちは多過ぎて顔と名前が一致しない……間もなくどんどん消えて行く。
キャラが覚え切れないことがマイナスにならず、
過酷な世界観を補強する材料としても機能する。
あとは、スピアヘッド戦隊の日々を撮影・記録し続けて来た「ファイド」。
私は単なる作業機械に留まらない、黒猫以上の自我や、“ヒロイン力”を有していると信じたいです。
【声優 4.0点】
隊長・シン役の千葉 翔也さん。
声色を変えずに淡々と様々な状況、心情に対応する演技が巧い声優さん。
本作でも感情を削ぎ落とす引き算の演技で“死神”の生き様を体現。
レーナ役の長谷川 育美さん。
時に鬱陶しいくらい変わらない真っ直ぐなボイスで理想を捨てない“白豚姫”を熱演。
尚、原作には、シンには“静かだけど通る声”、レーナには“銀鈴の声”という中々無茶な指定があったそうで。
千葉さんもハードルを越えるのに苦慮したのだとか。
原作はきっと描写が繊細なのでしょうね。演じる方も大変です。
【音楽 4.0点】
劇伴は澤野 弘之氏とKOHTA YAMAMOTO氏の共作。
鉄サビ臭い戦闘曲から平和ボケな共和国の優雅な宮廷音楽風まで。
大きい振れ幅を両者が得意分野で個性を発揮し、競り合うことでカバー。
澤野氏はボーカル曲も提供。
挿入歌「THE ANSWER」などは硬派な女性ボーカルによる英語詞でエッジを効かせた定番アレンジ。
EDは、バラード曲の「Avid」、アップテンポナンバーの「Hands Up to the Sky」を展開に応じて使い分け、
導入も微調整され、引きも上々。
OP主題歌はヒトリエ「3分29秒」
音階を下っていくギターのフレーズに合わせてしぼむ彼岸花など、
映像とのシンクロにもこだわりを感じます。