退会済のユーザー さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
己の存在全てをかけて
(原作未読)
カメラマンの深町誠はある日、数年前に消息を絶った孤高のクライマー羽生丈二を目撃する。
羽生の人生の軌跡を辿っていく深町、人生の全てをかけたクライムへ歩き出す羽生。
そして2人の運命は、極限領域 – 冬のエベレストで交わることになる。
めっっちゃくちゃ良かったです。
アニメ映画としての完成度がめちゃ高い。
見終わった後の余韻というか放心状態ををうまく言語化できないのが
非常にもどかしいが、間違いなく映画館で見て良かった作品であり
多くの人に胸を張っておすすめできる。
「なぜ、山に登るのか。なぜ、命をかけるのか。」
この作品が掲げているものは終始ここに尽きる。
認められるためか、記録に残すためか、他者に負けないためか。
絶対的な理由なんてどこにもない、それでも探すことのやめられない
この根源的で究極的な問いに、男の生き様と渾身のアニメーションを通して、
94分間魂を削って向き合うのが本作である。
本作は基本的に2つの時間軸を行き来する。
カメラマンの深町が羽生の歩んだ道を辿る現在。
そして、呼応する羽生の過ごした過去。
主人公は深町だが物語の主軸をなすのは羽生の人生であり、
不器用で登山が全てと言わんばかりの彼の人生は決して
生やさしいものではなかった。それでも、ただ限界の先にある
頂きを目指して歩き続けるのをやめなかった彼の生き様、その歩みが
時を超えて深町に進むべき道を与える展開に何度も胸が熱くなった。
そして物語を通して深町が羽生の人生から得たものが、最初の問いに対する
答えとして掲示される。重厚な94分を見届けたからこそ、
終盤のメッセージが力強く突き刺さる。
全体通して作画に対する気合の入り用も半端じゃない。
正直、アニメーションだけでも見る意味が十二分にある。
エベレストの極限風景、高山地域のローカルな生活、90年代の東京の街中、
そこに生きた人たちの息遣いとかつて流れた時間が確かに感じ取れる。
クライミングシーンは息つく暇もなく、圧巻の一言。
ピックを指す、岸壁をよじ登る、足が滑る、ボロボロの傷を負う、
身体が悲鳴をあげる、その一つ一つの事象や動作が100%フォーカスされ、
クライマーがどれだけ過酷な状態で登ってるのかがダイレクトに伝わってくる。
少なくとも登山をしたことがない自分にとっては文字通り違う世界の景色であり、
あたかも同じに場所いるかのように足がすくんだり手が震えることが
多々あったくらい、臨場感と緊張に満ち満ちていた。
映像体験としてここまで没入できる作品もそうそうない。
現在では上映地域もかなり限られており見れない人の方が多いかもしれないが、
今後配信されることがあったらぜひ見てほしい一作。